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シャーロット旋風 王都にて
コルセット
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アダムから話を聞いたケイトは、
「アーサー様にご連絡をした方が良いと思います!オスカーさんにも重々言われています!」
英断である。アダムから第二騎士団に連絡が行く。なんと30分もしないうちにオスカーが早馬で駆けて来た。
「ご連絡、いたみいる。ケイトもありがとう。知らなければ若が後で眠れなくなるところでした」
図書館や宝石店に買い物に行くのとは訳が違う。平民の男の家に診察に行くのである、アーサーの過剰な心配もあながち間違いではない。
ケイトとシャーロットが馬車に乗って、パウルが御者台で御者と一緒に乗る。横からオスカーと他の護衛兵が馬車を守るが、侯爵家でも召使が使う一番質素な馬車である。シャーロットも侍女の服を着ている。
「ここです」
パウルが示したのは、王都の外れの小さなパン屋だった。中を確認したオスカーがシャーロットを案内すると、男がベッドで横になっていた。前もってパウルとオスカーに治療師のお嬢様が診察に来てくれたと説明を受けていたため、トーマスの父親のマイクは申し訳ない気持ちでいっぱいである。
「こんにちは、診察に来ました。パウルから階段を踏み外してから動けなくなったと聞いているのですが、痛いのはどの辺ですか?」
「へ、へい、腰のあたりが痛くて動けないんです。」
「足は動かせますか?痺れたりしませんか?」
「それは大丈夫です。動くと痛いだけで」
「じゃあ、ちょっと失礼しますよ。」
あっと思ったら、シャーロットは父親の背中をトントンと叩いたのだった。
「イタタタ・・」
男は痛がる。
「どうも、圧迫骨折のようですね。一番大切なのは骨がこれ以上壊れないようにすることなんですけど・・・そうだ!マイクさん、後で、腰をこれ以上悪くしないための装具の採寸に来てもらいます。恥ずかしいかもしれないけどそれが完成したらそれをつけて欲しいの。きっと痛みが減るから」
「へ、へい、わかりました。恥ずかしいというのはなんなのかわかりませんが、お約束します」
「良かったわ。では、後で採寸にきてもらいますね、完成したらまた一緒にきますね、これは痛み止めと湿布です。少しは痛みが楽になると思うので使ってくださいね。でも、とりあえず装具が届くまであまり動かないでくださいね。骨折が悪くなるから」
「ケイト、仕立屋さんを呼んでちょうだい。使用人のための仕立て屋さんで大丈夫だから」
「仕立て屋さんに何を作らせるのですか?」
ケイトとオスカーが不思議そうに質問してくる。
「トーマスのお父さんのコルセットを作って欲しいの。」
「こ、コルセットですか。あの、私もドレスの下につけている下着のですか?」
あの親父がコルセットをつけている姿を想像しただけで、ケイトとオスカーはびっくりしたものの笑いが止まらない。
「え、ふふ、お、お嬢様、あの親父にコルセットをつけさせるんですか?え?それってなんの冗談・・」
「あら、冗談でもなんでもないわよ。これは純粋な治療なの。背骨を骨折した後に動こうとするとさらに骨が潰れて痛みがひどくなるの。だから、あまり前後左右に動けないように固定した方が、くっつきが良くなるのよ」
シャーロットは真面目に言っている。前世で、腰痛の患者さんで背骨を叩いて痛いのは圧迫骨折をまず疑う、これは基本だと教えられている。前世で、圧迫骨折のお年寄りはコルセットを作ってもらってそれから動いていた。そうすると痛みも軽減するのだ。このコルセットをダーメンコルセットという。ドイツ語で女性のコルセットという意味でまさしくドレスの下につけてウエストをシェイプしてみせるコルセットが由来なんだよと、整形外科の教授が説明してくれたなと思う。
真面目に話すシャーロットを見てびっくりしつつも、オスカーとケイトは仕立て屋を手配する。シャーロットは、こんな風に作って欲しいとイメージするコルセットを図解したものを紙に書く。
お金はこちらで負担するけど、今後もまた同じような患者さんに注文するかもしれないからあまり高いものは作らないようにと申し付けて帰ったのであった。
オスカーは、用事を全て済まして、(ついでにケイトとティールームにも行ってから)第二騎士団に戻る。
ちょうど王宮に出かけていて不在だったアーサーにことの顛末を説明しつつ、
「シャーロットさまは本当に素晴らしいですね。どれだけいろいろな知識をお持ちなのか想像できないほどです」
そうだろう、そうだろう、シャーロットは最高なのだとアーサーはフニャっとした表情になる。
「ただ、まだ王都に到着して少ししか経っていないのにこんなにいろいろ行動されて、この先が不安です。ちょっと慎んでいただいた方が良いのではないでしょうか?」
本当に毎日ドキドキしっぱなしだとは思う、しかし・・
「オスカー、お前は覚えているか?飲み会を二人でしたときのことを。あのときお前が言ったんだろう。囲い込んではダメだと。私は、あの言葉をあれ以来深く心に刻み込んでいるんだからな」
え?あの時の事を?そんなに?しまったと思いつつ、
「わかりました。そう言ったのは自分です。責任を取ります。シャーロットさまにどんなに振り回されても文句は言いません」
そう誓ったオスカーであった。
アーサーとオスカーの今後の人生は、シャーロットに振り回されながら生きていくことになりそうです。まあ、それも幸せそうです
続きは、2日後です。よろしくお願いします。
「アーサー様にご連絡をした方が良いと思います!オスカーさんにも重々言われています!」
英断である。アダムから第二騎士団に連絡が行く。なんと30分もしないうちにオスカーが早馬で駆けて来た。
「ご連絡、いたみいる。ケイトもありがとう。知らなければ若が後で眠れなくなるところでした」
図書館や宝石店に買い物に行くのとは訳が違う。平民の男の家に診察に行くのである、アーサーの過剰な心配もあながち間違いではない。
ケイトとシャーロットが馬車に乗って、パウルが御者台で御者と一緒に乗る。横からオスカーと他の護衛兵が馬車を守るが、侯爵家でも召使が使う一番質素な馬車である。シャーロットも侍女の服を着ている。
「ここです」
パウルが示したのは、王都の外れの小さなパン屋だった。中を確認したオスカーがシャーロットを案内すると、男がベッドで横になっていた。前もってパウルとオスカーに治療師のお嬢様が診察に来てくれたと説明を受けていたため、トーマスの父親のマイクは申し訳ない気持ちでいっぱいである。
「こんにちは、診察に来ました。パウルから階段を踏み外してから動けなくなったと聞いているのですが、痛いのはどの辺ですか?」
「へ、へい、腰のあたりが痛くて動けないんです。」
「足は動かせますか?痺れたりしませんか?」
「それは大丈夫です。動くと痛いだけで」
「じゃあ、ちょっと失礼しますよ。」
あっと思ったら、シャーロットは父親の背中をトントンと叩いたのだった。
「イタタタ・・」
男は痛がる。
「どうも、圧迫骨折のようですね。一番大切なのは骨がこれ以上壊れないようにすることなんですけど・・・そうだ!マイクさん、後で、腰をこれ以上悪くしないための装具の採寸に来てもらいます。恥ずかしいかもしれないけどそれが完成したらそれをつけて欲しいの。きっと痛みが減るから」
「へ、へい、わかりました。恥ずかしいというのはなんなのかわかりませんが、お約束します」
「良かったわ。では、後で採寸にきてもらいますね、完成したらまた一緒にきますね、これは痛み止めと湿布です。少しは痛みが楽になると思うので使ってくださいね。でも、とりあえず装具が届くまであまり動かないでくださいね。骨折が悪くなるから」
「ケイト、仕立屋さんを呼んでちょうだい。使用人のための仕立て屋さんで大丈夫だから」
「仕立て屋さんに何を作らせるのですか?」
ケイトとオスカーが不思議そうに質問してくる。
「トーマスのお父さんのコルセットを作って欲しいの。」
「こ、コルセットですか。あの、私もドレスの下につけている下着のですか?」
あの親父がコルセットをつけている姿を想像しただけで、ケイトとオスカーはびっくりしたものの笑いが止まらない。
「え、ふふ、お、お嬢様、あの親父にコルセットをつけさせるんですか?え?それってなんの冗談・・」
「あら、冗談でもなんでもないわよ。これは純粋な治療なの。背骨を骨折した後に動こうとするとさらに骨が潰れて痛みがひどくなるの。だから、あまり前後左右に動けないように固定した方が、くっつきが良くなるのよ」
シャーロットは真面目に言っている。前世で、腰痛の患者さんで背骨を叩いて痛いのは圧迫骨折をまず疑う、これは基本だと教えられている。前世で、圧迫骨折のお年寄りはコルセットを作ってもらってそれから動いていた。そうすると痛みも軽減するのだ。このコルセットをダーメンコルセットという。ドイツ語で女性のコルセットという意味でまさしくドレスの下につけてウエストをシェイプしてみせるコルセットが由来なんだよと、整形外科の教授が説明してくれたなと思う。
真面目に話すシャーロットを見てびっくりしつつも、オスカーとケイトは仕立て屋を手配する。シャーロットは、こんな風に作って欲しいとイメージするコルセットを図解したものを紙に書く。
お金はこちらで負担するけど、今後もまた同じような患者さんに注文するかもしれないからあまり高いものは作らないようにと申し付けて帰ったのであった。
オスカーは、用事を全て済まして、(ついでにケイトとティールームにも行ってから)第二騎士団に戻る。
ちょうど王宮に出かけていて不在だったアーサーにことの顛末を説明しつつ、
「シャーロットさまは本当に素晴らしいですね。どれだけいろいろな知識をお持ちなのか想像できないほどです」
そうだろう、そうだろう、シャーロットは最高なのだとアーサーはフニャっとした表情になる。
「ただ、まだ王都に到着して少ししか経っていないのにこんなにいろいろ行動されて、この先が不安です。ちょっと慎んでいただいた方が良いのではないでしょうか?」
本当に毎日ドキドキしっぱなしだとは思う、しかし・・
「オスカー、お前は覚えているか?飲み会を二人でしたときのことを。あのときお前が言ったんだろう。囲い込んではダメだと。私は、あの言葉をあれ以来深く心に刻み込んでいるんだからな」
え?あの時の事を?そんなに?しまったと思いつつ、
「わかりました。そう言ったのは自分です。責任を取ります。シャーロットさまにどんなに振り回されても文句は言いません」
そう誓ったオスカーであった。
アーサーとオスカーの今後の人生は、シャーロットに振り回されながら生きていくことになりそうです。まあ、それも幸せそうです
続きは、2日後です。よろしくお願いします。
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