オーナーのひとりごと

BARRETT’S

文字の大きさ
上 下
1 / 1

オーナーのひとりごと

しおりを挟む
 大学生と連れ立った常連客と、入れ替わりの様に常連のカップルがやって来た。
「いらっしゃい。」
「さっきの方、『運動』してる人だよね?」
 笑顔で席へ促す。
「私達には全くわからないから。ねぇ、一緒に暮らす人は辛くないのだろうか?」
 二人はまるで自分たちのことのように真剣に考えている。
「あの人も考えがあってのことでしょう。十人十色、千差万別。……さあ、今日は何飲む?」
「MACALLANと、何にする? あとBOW MORE、チェイサーは、水と炭酸をお願いします。」
「はーい。」
 ちょうどお持ち帰りの現場を見たら動揺するよね。子供に見えただろうし、鬼畜野郎って思うかな?
「はい。どうぞ。」
 二人の前にお酒を置く。
「今回のお相手って、子供じゃないよね?」
 やっぱりだ。
「大丈夫。学生証で確認させてもらったけど、成人してるよ。」
「なら、そこは安心だけど、やっぱりお家で待ってる人はどうなるの?って考えちゃう。」
「もし、あの人が養われてる人だったら?お家で待ってる側の人。」
「えっ?囲われてるんですか?」
「うーん。そうではないけど。一緒に暮らし始めて、もう10年ぐらいじゃないかな。二人には二人の形があるんだよ。……あなた達はお互いに浮気をされたら嫌?」
「もちろん!」
 二人は声を揃えて言う。かわいいな。
「二人は充実してるの?」
「それが、最近仕事ですれ違いばかりで。ゆっくり話したいからここに来ました。」
「ゆっくりと本心をさらしてね。きちんと目を見て。ごゆっくり。」
 このカップルは二人でここに来始めて、もう3年ぐらいだろうか。冷静に話し合うためにやってくる。つまらない事を穿り返したり、お互いにやってくれない事を恨んだりしない。
 いい酒を飲みながら、自分の気持ちを吐露し合う。そうして、お互いの理解を深めていくんだ。
 そうだよ。人は、どんなに心を尽くしても百%解ってあげることは出来ない。自分なりの百%、その人を理解したにすぎないんだ。
 だから相手が自分の想定外のことをすると驚くかもしれない。でもそれは、相手が想定した自分の為にしてくれたことであって、自分勝手な行動ではないのだ。
 本人の本心は全然違うところにある。きちんと本人を見なければいけない。
 人は、そのすれ違いに、疑心暗鬼になり、時には、心にもない酷いことを言い合ったり、時には沈黙して、お互いの気持ちを押し殺したり、時には、暴力を振るう者もいるだろう。
 好きな人がいて、一緒にいられるなら、分かり合えるまで言葉を尽くすしかない。何時間でも。何度でも。このカップルのように。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?

ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。 彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。 その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。 数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…

お飾り王妃です。この度、陛下から離婚を申されたので

ラフレシア
恋愛
 陛下から離婚を申されたので。

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

「王妃を愛しているから、君を愛することは出来ない」?大歓迎ですとも!国王陛下のため、王妃殿下のため、後継を産むのはお任せください!

下菊みこと
恋愛
夫婦にも色々な形があるようです。 アンドレは国王の側妃として嫁ぐ。国王からは「愛することは出来ない」と謝られるが、もとよりそのつもりで嫁いだアンドレはノーダメージだった。そんなこの夫婦の関係は、一体どうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

王妃ですが、明らかに側妃よりも愛されていないので、国を出させて貰います

ラフレシア
恋愛
 王妃なのに、側妃よりも愛されない私の話……

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】愛人を作るのですか?!

紫崎 藍華
恋愛
マリエルはダスティンと婚約し愛され大切にされた。 それはまるで夢のような日々だった。 しかし夢は唐突に終わりを迎えた。 ダスティンが愛人を作ると宣言したのだ。

愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん

ヘロディア
恋愛
最近の恋人の様子がおかしいと思っている主人公。 ある日、和やかな食事の時間にいきなり切り込んでみることにする…

処理中です...