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後章
アニエとカラエ
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~アニエとカラエ~
《「ん…」
フッと、目が覚めた。
「桃花!」
ホッとした顔で私を覗き込むのは誰だろう。目が霞んでハッキリとわからない。確か私は自室にいたから…正ちゃんかな?
「正ちゃん…?私今まで…あれ?」
見えた顔は正ちゃんではなかった。
金髪のツインテール、アリスちゃんだ。
「アリスちゃん?どうしてここに…って、ここどこ!?」
目が覚めてくると、そこでやっとここがいつもの部屋ではないことに気がつく。白い天井と、清潔なベッド、窓の外はいつもの町並みではない景色が広がっている。
驚愕しながらいきなり体を起こすと、アリスちゃんに止められた。
「だめだめ!暫くは安静にしといて!」
「アリスちゃん…えっと、ここは?」
「病院だよ。」
「なんで!?」
「寮でちょーっとした事件?というか事故が起こっちゃって、皆入院しちゃったって訳。ね、卯月」
アリスちゃんに目配せされた卯月君は気まずそうに頷いた。
よくわかんないけど、寝ている間に何かあったみたいだ。
二人の話を聞きながらもう一度部屋を見渡すと、どうやら個室ではないようで、まわりには見知った友人達が、私と同じようにベッドの上で眠っている姿があった。私の隣は丁度文月ちゃんと萌衣ちゃんが眠っていた。なるほど、だからアリスちゃんと卯月君の珍しい組み合わせなんだ。
「アリスちゃん、ここにいない皆は無事なの?」
「うん。皆命に別状ないよ。目覚めてるのはほとんどいないけどね」
「というか、悠太を除けば入院していて目覚めたのは一人目だ」
クラスメイトで入院していないのはあと、赤崎さんらしい。今は病院の売店にいるらしいんだけど、それじゃあ正ちゃんはまだ目覚めていないのか。
私は何となく驚く。正ちゃんってこういう時、すごいピンピンしてそうなイメージが勝手にあったからなんだけど…心配だな。
「そうなんだ…じゃあ正ちゃんはどこで寝ているの?」
後でお見舞いに行こう。隣の部屋かな?
そう呑気に私はアリスちゃんの答えを待ったけど、けれどアリスちゃんと卯月君はなにも言わない。
「アリスちゃん?どうし」
「行方不明なの。」
……………………え?
思ってもいない言葉に、私は絶句した。それでも何か言わないと、と声を出す。
「どうして…な、何かあったの!?」
「わからない…わかんないんだ…私や誠みたいに、元気だったはずなのに…」
白く染まりかける頭で考える。
じゃあ、正ちゃんは寮で起きた事故とは別で失踪したということになる。
「正ちゃんは…正ちゃんだけ?行方不明…」
せめてそうであってほしい。正ちゃんってどこか、ふわふわしてるとこもあるから、一人でどっか行っちゃってもすぐに帰ってきそうなんだもん。事件じゃなくて、気まぐれとか、もしかすると寮の事故の原因を突き止めに行ったのかもしれない。
私はアリスちゃんの息を吸う音が聞こえるほどに耳を傾ける。アリスちゃんはどこか言うのに悩んでいるようで…
だけど、観念したように口を開いた。
「空も、総も、透も光も…五人が消えたんだ…跡形もなく、いきなり…」
「っ…………!!何日!?消えて何日経ったの!?」
「四日だ。」
四日…そんなにも経っているというの?
私は恐る恐る時計を見る。日付が下に書かれたそれは、目を疑うほどに時間が経っていた。
六月の中旬だったはずなのに、もう六月の下旬の、しかも終わりかけだ。
――事故って、いったい何があったの…?
私は二人に訊ねたが、二人は気まずそうに目をそらすだけだった。》
「総~、いつもゲームって何してる~?」
「リズムゲームとRPGとかだなー、モンスターでるやつ」
「へぇ、ちなみにどうやって倒すの?」
「俺の場合は斧だったぞ、武器選べたからさ」
「そっか、じゃあさ…」
自分は隣を見ないまま、総に訊ねる。
「武器がない場合、スライムってどう倒せばいいのかな?」
ここは異世界だ。
――まさにゲームの中のような、危険な異世界らしいのだ。
目の前のおそらくスライムと思われる、水色のプニプニした物体は先程、突如自分達の前に現われた。調整者のように、何もない草道から突然現われたから、どう対策すればいいかわからないままに自分達には危険が迫っている。というか武器もない今、そもそも対策のとりようがない。
うーむ、かくなる上は、手刀で…!
「ねえねえ、そもそもスライム…は敵なのかな?」
ふと、隣の隣の透が問いかける。
「なるほど…!トールの言う通り、もしかすると良いスライムなのかもしれないな!」
透に影響されやすい総の言う通り、確かによくよく考えれば、スライム(仮定)が敵ではない可能性だって高いのだ。
そう考えると、自分も幾分か冷静になれる。
よく言うもんね、コミュニケーション第一って!
「美味しそう。」
「ソーダ味かもしれないな!それに冷たそうだ」
…さすがに総と光ほど呑気にはいられないけれど。
「と、なれば…どうにかしてコミュニケーションがとれないか…」
「わかった」
「えっちょっ!」
透が止めるまもなく、光はまっすぐにスライム(仮定)へと向かう。
「お前、うまいか」
「光ぅ!?」
コミュニケーション第一声がそれはまずい!
慌てて止めにかつ守りに入ろうとするが、続いて光は右肩にくくりつけられた鎖の持ち手を右手で引っ張った。シュルシュルと肩から伸びて、光の体を越すほど長い、ロープのような姿を表した。
しなやかに伸び、地面を打つ。そう、それは鞭のように…
って鞭!?
「武器あるじゃん!」
「あった」
「もうちょっと隠密にいきません!?」
「…ん。」
渋々光は鞭を肩にかけると、しかしやはり威圧したように上からスライムを見下ろす。
「光さん、もう数歩下がってからしゃがもう!」
「なんで」
「ほら、相手の目線に合わせた方が話しやすいと思うからさ!」
「わかった。」
と、いうわけで自分達は数歩下がってしゃがみこむ。
…というかこのスライム、この一連の行動に無反応だな…
「…………こっからどうする、トール?」
「うーん…俺達とコミュニケーションがとれないなら、そっと素通りするのが得策かな」
「よしそうしよう」
既にめんどくさくなっていた自分達は立ち上がり、そっとスライムに背を向ける。
次の瞬間、スライムは姿を消した。
「消えた…?」
「…幻覚ではないだろうけど、とりあえずは行こうか。」
今は朝だけど、空がいつ夜へ向かうのかもわからない。
それまでに、話の通じるなにかに出会わなければまずい…
プニ。
踏み出した右の足元でブーツ越しに心地よい感触があった。
「っ、いつの間に!?」
さっきのスライムが移動したのか!?
べたりと張り付いたスライムは粘着質で、中々剥がれそうもない。
このままじゃ、まずい。
今度は本能がそう感じた。靴を脱げば良いのだろうが、ブーツだからパッと脱げる訳じゃない。
どうにかしないと…!
「やれ、『カラエ』!」
「へーい、隊長!」
途端、自分の足元に小瓶が投げられる。
虹色の光屑を出す瓶は砕け散り、中身の液体がスライムをおおった。
水色のスライムは光を帯びてゆき、やがてパシュンと音を立てながら空気中に弾け飛ぶ。
コロンカランと先程砕けた瓶よりも少し大きな空瓶が足元に転がって、自分の靴は元通りだった。
「…これは…」
「ん?正どうした?」
と、その時足を止めたことに気がついた総が振り返り、その後すぐに自分の手首を引いた。
「あわわっ」
「人の声だ」
「「「え?」」」
光と透も自分同様に驚く。人の声が自分等には聞こえなかったからでもあるんだけど、何よりさっきまで総が意識していた時は聞こえないと言っていたのに、意識していなくとも音が聞こえた時すぐに動けた総の耳の良さにも驚いたんだ。
そして案の定、自分にもすぐに草むらから二つの人影が見えた。
「怪我はないかい、お嬢さん達!」
「隊長、そうキザるのやめません?」
「ガッハハハハ、まあ良いじゃないか!」
呆れる自分達と同じくらいの黒髪の剣士のような少年と、髭の生やした中年剣士は人当たりが良さそうである。
スライムの件を知らない総達は首をかしげたけど、自分としてはこの二人に助けられた。
「ありがとうございます!お陰で助かりました!」
頭を下げると、中年男性は思いきり笑う。
「ハハハハ、良いってもんよ!!!!それよりお前さん達、ずいぶんと高価っぽい服を着てるがどっかの貴族さんか?」
「貴族?」
思わず聞き返した。貴族があるのか、この世界は。
「まさか、そんなわけないです。せーじゅ達、王城を目指していて。とりあえず近くの町に向かってる途中です。」
正直に話すと、中年男性は悩むような素振りを見せる。
「ふむ…ならカラエと同じ見習い冒険者ってとこか?」
「冒険者って、すごいゲームっぽいな」
総は呟く。いやほんと、自分もそう思うよ。
だけど冒険者でもないからどう説明すれば良いかわからない。それ故言い迷っていると、中年男性は何かを悟ったのか、「まあいいや」と言った。
「こんなド田舎の辺境から王城に貴族でもないのに向かうだなんて余程の理由があるんだろ。困ったときはお互い様だ、どうだ?俺達の町まで行こうじゃないか。僅かだがもてなすことも出来るしな!」
「えっ良いんですか!?」
「勿論さ!おいカラエ、お前もそれで良いよな?」
「隊長が言うなら俺は別に…」
「じゃあ決まりだ!」
隊長と呼ばれている男は手を打つ。
今更ながらに不安になって、自分は総達の方を見た。
「ついていこうぜ!良さそうな人じゃんか!」
「ご厚意に甘えさせて貰おう」
「うん、着いてく。」
確かに、それが良いよね!
「じゃあよろしくお願いします!お名前は…カラエさんと…」
「隊長はアニエって言うんだ。そっちは?」
おお、カラエの方もフレンドリーで良い人っぽい!
自分はパパッと自己紹介をする。アニエとカラエは名字がないのかもしれないし、ここは名前だけの方がいっか。
「せーじゅは正珠、赤いのは総、水色のは光、緑のは透だよ!」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
「よろしく。」
「おお、お前らもよろしくな!」
自分とアニエは握手を交わす。ごつごつしていて強そうな手だ。苦労の感じられるような、手だ。
アニエ達の町…というか村に案内された自分達は、驚くほど歓迎された。この村のほとんどが農民らしく、主に稲を育てているらしい。最近は豊作続きらしく、それでもてなしも大変豪華なものだった。
しかも今日は年に一度の祭りの後夜祭らしく、夜も様々な催しが開かれるそうだ。
光は絡まれた子供と走り回っていて、透はここ特有の美味しい料理を教わっている。
「いやあ、ハハハ…」
因みに、総が舞台の上でデレデレしてるのもそれに関係している。
風呂上がり、恒例らしい歌の大会に参加しないかと声をかけられ、総が飛び入り参加したのだけど、それが誰よりも綺麗な声で歌ったものだから村の皆にベタ褒めされている最中なのだ。総自身満更でもないようで、大きな袖にほとんど隠れたものの、両手を組んで嬉しそうにしているんだ。
先程から嬢ちゃんと呼ばれている辺り、女の子と間違われているようだ。きっと水で跳ねが少し収まった髪のせいでもあるのだろうけど、今の本人には聞こえているようで聞こえていない。このデレ顔、写真に収めてやりたい。
「んんじゃあもう一曲だけ…」
またデレた総の声が聞こえる。あの子はちょろいから、うまいこと言いくるめられたな。
すぐに総は歌い始める。さっきは始めて聞いた曲に即興で歌をつけてたけど、今度はアカペラだ。
なのにまるで音楽と共に歌っているように幻聴が聞こえてしまう。音が目に見えることなんて普段ないのに、半透明な音符が総のまわりに見えて、明るくて楽しそうに踊るような幻覚も見えてしまった。
自分はさっきまでは射的大会的なもので弓を引いて、一位を取れたんだけどね。そんで、優勝賞品を用意している間は歌の大会を見ておきなって言われたんだよね。だから少し離れたところで総の歌に聞き入っていて…
「すごい歌だな、ソウのは。」
「歌唱力もだけど、創造力もきっと高いんだろうな」
カラエは後夜祭で出てきたギャブロディーとかいう飴玉を舐めながら自分に近づいてくる。
飴好きである自分としては、砂糖のようにひたすら甘いのに、果汁を多くを使った飴は大変好みで、自分ももう五つ目だ。
「まるで貴族お墨付きの歌姫みたいだ。」
「貴族…」
貴族という存在は、あの後アニエから詳しく教えて貰った。
この世界では家柄というものが大事らしく、主に王族、司祭、貴族、剣士と狩人、商人、農民の順で並んでいるらしい。ただし冒険者は場合によれば貴族と並ぶ地位に位置したり、どんな家柄からでもなれるということから特別なんだと。
冒険者は主に見習い、下流、中流、上流に分けられ、見習いは簡単に言えばフリーターみたいな位置で、立場的には農民より下がるらしい。
けれど下流から上はランクに準じた特権がつくんだそうな…試験に受からなければならないそうだけど。
因みにアニエとカラエはこの村で立った二人の、主にモンスターから村を守る剣士らしい。狩人の代わりも勤めているらしく、自分が助けられたのは丁度そのときだったのだ。我ながら、運が良い…んだろう、多分。
「なあ、お前らは本当に貴族じゃないのなら、冒険者にでもなった方がいいんじゃないか?」
カラエは総の方を見たまま、自分に訊ねる。
「見習いも手続きが必要なの?」
「いいや。だけど特権はいるだろ。隣の隣町は貴族いるし、丁度試験が出来るからさ。今、冒険者不足だし、下流には簡単になれるはずだ。」
「へえ…じゃあ、やろうかな。」
ただ、武器がない。あと、冒険者のすべきことも…聞くは一時の恥って言うし、この際聞いてしまおう。
「ねえカラエ、冒険者って具体的になにするわけ?」
するとカラエはわかりやすく二度見した。そんなに驚くことなのだろうか。
「そ、そんなことも知らずによく人間やってきたな…」
失礼な。
「悪いな嬢ちゃん、こいつ、正直なところがあるもんでよぉ。悪気はねえんだよ。」
自分が膨れっ面をしていると、今度は背後から酒を持ったアニエが現われる。
「冒険者ってのは、モンスター地区から出てきたモンスターや、人から漏れた魔力から生まれた無知性モンスターの討伐を、旅しながら行う奴らのこった。剣士達と違って旅するってところが粋なわけだよ。」
「モンスター地区?」
「モンスターが生息していい地区さ。そこに人間や動物が踏み込めば殺されても文句は言えない。逆もまた然りってな!けんどもモンスターは人間の良質で特別な魔力を奪いたいがために人を襲う。それを倒した後の『魂の残り物』や依頼で生計を立てるのが冒険者ともいえるな。魂の残り物はモンスターだった時と違って次元異動もしないし、属性がある人の魔力と違って、属性はない代わりに様々な効果があるから、うってもよし、使ってもよし、だしな!だというのに最近は冒険者が減っちまってな、村に来る奴も減っちまった。」
アニエはため息をつく。
自分達みたいな来客が来るのはなんと、半年ぶりらしい。
そして今、アニエからさりげなく、丁寧に色々とこの世界の常識を教わったのだが、そろそろ整理しようか。
冒険者は主にモンスターを倒したり、依頼を受けたりして生計を立てる旅人のようなものらしい。
モンスターは主に二種類、言い方からして知性があるのとないもの、って感じだろう。モンスター地区では人間が殺されても仕方なく、それ以外ではモンスターは殺されても仕方がない。それでもモンスターはいろんな効果という個性はあるものの属性がなく、人間の属性がある良質で特別な魔法がほしいがためにやってくるから、基本的にモンスターは倒してもいいらしい。
そしてモンスターを倒せば魂の残り物が手に入る。
これはさっき聞いたんだけど、特定のモンスターは次元を自由に異動できて、つまりは目の前にいても次元が違うから認識できない。村は結界や魔法でモンスターの侵入を防げるけど、道ではそれが出来ないから総の耳に音が入ってこなかったり、いきなり現われたりも出来るんだそう。ただし次元異動できるのはモンスターがもつ魔力の効果にもよってだから、出来ないモンスターがほとんど…らしい。
んで、そういったいろんな個性のモンスターを倒した後出来るのが、魂の残り物という名の魔力の残りが形になったもの。小瓶とか鍵とか南京錠とかいろんな形があるらしいんだけど、どれも実際に使えたりするらしい。それを換金すれば、お金にもなるんだ。
あと、モンスターの様々な魔法の効果はさっきも言ったみたいに次元異動とか、氷が出たりとか個体によって様々なんだけど、例えば次元異動が出来るモンスターの残り物を割れば自分も一定期間、自由に次元異動できる。
他には…カラエが投げた小瓶はスライムによくある効果、対スライム粘液瓶だった。
それにアニエとカラエと初めて出会った時は試しに昔倒した次元異動の効果のある残り物を使ってたらしい。だから総は、近くにいても気がつかなかったんだって。
「やっぱり違うな」
この世界は、異世界だ。もといた世界とは何も似ていない。
「何か言ったか?」
「いいや、何も。」
「そうか…」
カラエは申し訳なさそうな顔をしていた。なるほど、さっきの発言を気にしてるんだな。
「あの、セイジュ…さっきは、悪かったな…」
その素直なカラエに、自分は思わず笑ってしまう。
「いいよ、気にしてないからさ!」
「そ、そうか…」
いやあしかし、カラエは総に勝らずとも、中々からかいようがあるな…
そう言うのはやめておいた。
表彰も終わり後夜祭も終わる頃、やがて村長さんが、魔法球と呼ばれる不思議なアイテムで花火のようなものを打ち上げた。
町を包むように広がり、そしてキラキラと光る魔法花火と夜空とに夢中で、自分は気がつかなかった。
人らの歓声の中に、悲鳴と唸り声が混じっていたことを。
《「ん…」
フッと、目が覚めた。
「桃花!」
ホッとした顔で私を覗き込むのは誰だろう。目が霞んでハッキリとわからない。確か私は自室にいたから…正ちゃんかな?
「正ちゃん…?私今まで…あれ?」
見えた顔は正ちゃんではなかった。
金髪のツインテール、アリスちゃんだ。
「アリスちゃん?どうしてここに…って、ここどこ!?」
目が覚めてくると、そこでやっとここがいつもの部屋ではないことに気がつく。白い天井と、清潔なベッド、窓の外はいつもの町並みではない景色が広がっている。
驚愕しながらいきなり体を起こすと、アリスちゃんに止められた。
「だめだめ!暫くは安静にしといて!」
「アリスちゃん…えっと、ここは?」
「病院だよ。」
「なんで!?」
「寮でちょーっとした事件?というか事故が起こっちゃって、皆入院しちゃったって訳。ね、卯月」
アリスちゃんに目配せされた卯月君は気まずそうに頷いた。
よくわかんないけど、寝ている間に何かあったみたいだ。
二人の話を聞きながらもう一度部屋を見渡すと、どうやら個室ではないようで、まわりには見知った友人達が、私と同じようにベッドの上で眠っている姿があった。私の隣は丁度文月ちゃんと萌衣ちゃんが眠っていた。なるほど、だからアリスちゃんと卯月君の珍しい組み合わせなんだ。
「アリスちゃん、ここにいない皆は無事なの?」
「うん。皆命に別状ないよ。目覚めてるのはほとんどいないけどね」
「というか、悠太を除けば入院していて目覚めたのは一人目だ」
クラスメイトで入院していないのはあと、赤崎さんらしい。今は病院の売店にいるらしいんだけど、それじゃあ正ちゃんはまだ目覚めていないのか。
私は何となく驚く。正ちゃんってこういう時、すごいピンピンしてそうなイメージが勝手にあったからなんだけど…心配だな。
「そうなんだ…じゃあ正ちゃんはどこで寝ているの?」
後でお見舞いに行こう。隣の部屋かな?
そう呑気に私はアリスちゃんの答えを待ったけど、けれどアリスちゃんと卯月君はなにも言わない。
「アリスちゃん?どうし」
「行方不明なの。」
……………………え?
思ってもいない言葉に、私は絶句した。それでも何か言わないと、と声を出す。
「どうして…な、何かあったの!?」
「わからない…わかんないんだ…私や誠みたいに、元気だったはずなのに…」
白く染まりかける頭で考える。
じゃあ、正ちゃんは寮で起きた事故とは別で失踪したということになる。
「正ちゃんは…正ちゃんだけ?行方不明…」
せめてそうであってほしい。正ちゃんってどこか、ふわふわしてるとこもあるから、一人でどっか行っちゃってもすぐに帰ってきそうなんだもん。事件じゃなくて、気まぐれとか、もしかすると寮の事故の原因を突き止めに行ったのかもしれない。
私はアリスちゃんの息を吸う音が聞こえるほどに耳を傾ける。アリスちゃんはどこか言うのに悩んでいるようで…
だけど、観念したように口を開いた。
「空も、総も、透も光も…五人が消えたんだ…跡形もなく、いきなり…」
「っ…………!!何日!?消えて何日経ったの!?」
「四日だ。」
四日…そんなにも経っているというの?
私は恐る恐る時計を見る。日付が下に書かれたそれは、目を疑うほどに時間が経っていた。
六月の中旬だったはずなのに、もう六月の下旬の、しかも終わりかけだ。
――事故って、いったい何があったの…?
私は二人に訊ねたが、二人は気まずそうに目をそらすだけだった。》
「総~、いつもゲームって何してる~?」
「リズムゲームとRPGとかだなー、モンスターでるやつ」
「へぇ、ちなみにどうやって倒すの?」
「俺の場合は斧だったぞ、武器選べたからさ」
「そっか、じゃあさ…」
自分は隣を見ないまま、総に訊ねる。
「武器がない場合、スライムってどう倒せばいいのかな?」
ここは異世界だ。
――まさにゲームの中のような、危険な異世界らしいのだ。
目の前のおそらくスライムと思われる、水色のプニプニした物体は先程、突如自分達の前に現われた。調整者のように、何もない草道から突然現われたから、どう対策すればいいかわからないままに自分達には危険が迫っている。というか武器もない今、そもそも対策のとりようがない。
うーむ、かくなる上は、手刀で…!
「ねえねえ、そもそもスライム…は敵なのかな?」
ふと、隣の隣の透が問いかける。
「なるほど…!トールの言う通り、もしかすると良いスライムなのかもしれないな!」
透に影響されやすい総の言う通り、確かによくよく考えれば、スライム(仮定)が敵ではない可能性だって高いのだ。
そう考えると、自分も幾分か冷静になれる。
よく言うもんね、コミュニケーション第一って!
「美味しそう。」
「ソーダ味かもしれないな!それに冷たそうだ」
…さすがに総と光ほど呑気にはいられないけれど。
「と、なれば…どうにかしてコミュニケーションがとれないか…」
「わかった」
「えっちょっ!」
透が止めるまもなく、光はまっすぐにスライム(仮定)へと向かう。
「お前、うまいか」
「光ぅ!?」
コミュニケーション第一声がそれはまずい!
慌てて止めにかつ守りに入ろうとするが、続いて光は右肩にくくりつけられた鎖の持ち手を右手で引っ張った。シュルシュルと肩から伸びて、光の体を越すほど長い、ロープのような姿を表した。
しなやかに伸び、地面を打つ。そう、それは鞭のように…
って鞭!?
「武器あるじゃん!」
「あった」
「もうちょっと隠密にいきません!?」
「…ん。」
渋々光は鞭を肩にかけると、しかしやはり威圧したように上からスライムを見下ろす。
「光さん、もう数歩下がってからしゃがもう!」
「なんで」
「ほら、相手の目線に合わせた方が話しやすいと思うからさ!」
「わかった。」
と、いうわけで自分達は数歩下がってしゃがみこむ。
…というかこのスライム、この一連の行動に無反応だな…
「…………こっからどうする、トール?」
「うーん…俺達とコミュニケーションがとれないなら、そっと素通りするのが得策かな」
「よしそうしよう」
既にめんどくさくなっていた自分達は立ち上がり、そっとスライムに背を向ける。
次の瞬間、スライムは姿を消した。
「消えた…?」
「…幻覚ではないだろうけど、とりあえずは行こうか。」
今は朝だけど、空がいつ夜へ向かうのかもわからない。
それまでに、話の通じるなにかに出会わなければまずい…
プニ。
踏み出した右の足元でブーツ越しに心地よい感触があった。
「っ、いつの間に!?」
さっきのスライムが移動したのか!?
べたりと張り付いたスライムは粘着質で、中々剥がれそうもない。
このままじゃ、まずい。
今度は本能がそう感じた。靴を脱げば良いのだろうが、ブーツだからパッと脱げる訳じゃない。
どうにかしないと…!
「やれ、『カラエ』!」
「へーい、隊長!」
途端、自分の足元に小瓶が投げられる。
虹色の光屑を出す瓶は砕け散り、中身の液体がスライムをおおった。
水色のスライムは光を帯びてゆき、やがてパシュンと音を立てながら空気中に弾け飛ぶ。
コロンカランと先程砕けた瓶よりも少し大きな空瓶が足元に転がって、自分の靴は元通りだった。
「…これは…」
「ん?正どうした?」
と、その時足を止めたことに気がついた総が振り返り、その後すぐに自分の手首を引いた。
「あわわっ」
「人の声だ」
「「「え?」」」
光と透も自分同様に驚く。人の声が自分等には聞こえなかったからでもあるんだけど、何よりさっきまで総が意識していた時は聞こえないと言っていたのに、意識していなくとも音が聞こえた時すぐに動けた総の耳の良さにも驚いたんだ。
そして案の定、自分にもすぐに草むらから二つの人影が見えた。
「怪我はないかい、お嬢さん達!」
「隊長、そうキザるのやめません?」
「ガッハハハハ、まあ良いじゃないか!」
呆れる自分達と同じくらいの黒髪の剣士のような少年と、髭の生やした中年剣士は人当たりが良さそうである。
スライムの件を知らない総達は首をかしげたけど、自分としてはこの二人に助けられた。
「ありがとうございます!お陰で助かりました!」
頭を下げると、中年男性は思いきり笑う。
「ハハハハ、良いってもんよ!!!!それよりお前さん達、ずいぶんと高価っぽい服を着てるがどっかの貴族さんか?」
「貴族?」
思わず聞き返した。貴族があるのか、この世界は。
「まさか、そんなわけないです。せーじゅ達、王城を目指していて。とりあえず近くの町に向かってる途中です。」
正直に話すと、中年男性は悩むような素振りを見せる。
「ふむ…ならカラエと同じ見習い冒険者ってとこか?」
「冒険者って、すごいゲームっぽいな」
総は呟く。いやほんと、自分もそう思うよ。
だけど冒険者でもないからどう説明すれば良いかわからない。それ故言い迷っていると、中年男性は何かを悟ったのか、「まあいいや」と言った。
「こんなド田舎の辺境から王城に貴族でもないのに向かうだなんて余程の理由があるんだろ。困ったときはお互い様だ、どうだ?俺達の町まで行こうじゃないか。僅かだがもてなすことも出来るしな!」
「えっ良いんですか!?」
「勿論さ!おいカラエ、お前もそれで良いよな?」
「隊長が言うなら俺は別に…」
「じゃあ決まりだ!」
隊長と呼ばれている男は手を打つ。
今更ながらに不安になって、自分は総達の方を見た。
「ついていこうぜ!良さそうな人じゃんか!」
「ご厚意に甘えさせて貰おう」
「うん、着いてく。」
確かに、それが良いよね!
「じゃあよろしくお願いします!お名前は…カラエさんと…」
「隊長はアニエって言うんだ。そっちは?」
おお、カラエの方もフレンドリーで良い人っぽい!
自分はパパッと自己紹介をする。アニエとカラエは名字がないのかもしれないし、ここは名前だけの方がいっか。
「せーじゅは正珠、赤いのは総、水色のは光、緑のは透だよ!」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
「よろしく。」
「おお、お前らもよろしくな!」
自分とアニエは握手を交わす。ごつごつしていて強そうな手だ。苦労の感じられるような、手だ。
アニエ達の町…というか村に案内された自分達は、驚くほど歓迎された。この村のほとんどが農民らしく、主に稲を育てているらしい。最近は豊作続きらしく、それでもてなしも大変豪華なものだった。
しかも今日は年に一度の祭りの後夜祭らしく、夜も様々な催しが開かれるそうだ。
光は絡まれた子供と走り回っていて、透はここ特有の美味しい料理を教わっている。
「いやあ、ハハハ…」
因みに、総が舞台の上でデレデレしてるのもそれに関係している。
風呂上がり、恒例らしい歌の大会に参加しないかと声をかけられ、総が飛び入り参加したのだけど、それが誰よりも綺麗な声で歌ったものだから村の皆にベタ褒めされている最中なのだ。総自身満更でもないようで、大きな袖にほとんど隠れたものの、両手を組んで嬉しそうにしているんだ。
先程から嬢ちゃんと呼ばれている辺り、女の子と間違われているようだ。きっと水で跳ねが少し収まった髪のせいでもあるのだろうけど、今の本人には聞こえているようで聞こえていない。このデレ顔、写真に収めてやりたい。
「んんじゃあもう一曲だけ…」
またデレた総の声が聞こえる。あの子はちょろいから、うまいこと言いくるめられたな。
すぐに総は歌い始める。さっきは始めて聞いた曲に即興で歌をつけてたけど、今度はアカペラだ。
なのにまるで音楽と共に歌っているように幻聴が聞こえてしまう。音が目に見えることなんて普段ないのに、半透明な音符が総のまわりに見えて、明るくて楽しそうに踊るような幻覚も見えてしまった。
自分はさっきまでは射的大会的なもので弓を引いて、一位を取れたんだけどね。そんで、優勝賞品を用意している間は歌の大会を見ておきなって言われたんだよね。だから少し離れたところで総の歌に聞き入っていて…
「すごい歌だな、ソウのは。」
「歌唱力もだけど、創造力もきっと高いんだろうな」
カラエは後夜祭で出てきたギャブロディーとかいう飴玉を舐めながら自分に近づいてくる。
飴好きである自分としては、砂糖のようにひたすら甘いのに、果汁を多くを使った飴は大変好みで、自分ももう五つ目だ。
「まるで貴族お墨付きの歌姫みたいだ。」
「貴族…」
貴族という存在は、あの後アニエから詳しく教えて貰った。
この世界では家柄というものが大事らしく、主に王族、司祭、貴族、剣士と狩人、商人、農民の順で並んでいるらしい。ただし冒険者は場合によれば貴族と並ぶ地位に位置したり、どんな家柄からでもなれるということから特別なんだと。
冒険者は主に見習い、下流、中流、上流に分けられ、見習いは簡単に言えばフリーターみたいな位置で、立場的には農民より下がるらしい。
けれど下流から上はランクに準じた特権がつくんだそうな…試験に受からなければならないそうだけど。
因みにアニエとカラエはこの村で立った二人の、主にモンスターから村を守る剣士らしい。狩人の代わりも勤めているらしく、自分が助けられたのは丁度そのときだったのだ。我ながら、運が良い…んだろう、多分。
「なあ、お前らは本当に貴族じゃないのなら、冒険者にでもなった方がいいんじゃないか?」
カラエは総の方を見たまま、自分に訊ねる。
「見習いも手続きが必要なの?」
「いいや。だけど特権はいるだろ。隣の隣町は貴族いるし、丁度試験が出来るからさ。今、冒険者不足だし、下流には簡単になれるはずだ。」
「へえ…じゃあ、やろうかな。」
ただ、武器がない。あと、冒険者のすべきことも…聞くは一時の恥って言うし、この際聞いてしまおう。
「ねえカラエ、冒険者って具体的になにするわけ?」
するとカラエはわかりやすく二度見した。そんなに驚くことなのだろうか。
「そ、そんなことも知らずによく人間やってきたな…」
失礼な。
「悪いな嬢ちゃん、こいつ、正直なところがあるもんでよぉ。悪気はねえんだよ。」
自分が膨れっ面をしていると、今度は背後から酒を持ったアニエが現われる。
「冒険者ってのは、モンスター地区から出てきたモンスターや、人から漏れた魔力から生まれた無知性モンスターの討伐を、旅しながら行う奴らのこった。剣士達と違って旅するってところが粋なわけだよ。」
「モンスター地区?」
「モンスターが生息していい地区さ。そこに人間や動物が踏み込めば殺されても文句は言えない。逆もまた然りってな!けんどもモンスターは人間の良質で特別な魔力を奪いたいがために人を襲う。それを倒した後の『魂の残り物』や依頼で生計を立てるのが冒険者ともいえるな。魂の残り物はモンスターだった時と違って次元異動もしないし、属性がある人の魔力と違って、属性はない代わりに様々な効果があるから、うってもよし、使ってもよし、だしな!だというのに最近は冒険者が減っちまってな、村に来る奴も減っちまった。」
アニエはため息をつく。
自分達みたいな来客が来るのはなんと、半年ぶりらしい。
そして今、アニエからさりげなく、丁寧に色々とこの世界の常識を教わったのだが、そろそろ整理しようか。
冒険者は主にモンスターを倒したり、依頼を受けたりして生計を立てる旅人のようなものらしい。
モンスターは主に二種類、言い方からして知性があるのとないもの、って感じだろう。モンスター地区では人間が殺されても仕方なく、それ以外ではモンスターは殺されても仕方がない。それでもモンスターはいろんな効果という個性はあるものの属性がなく、人間の属性がある良質で特別な魔法がほしいがためにやってくるから、基本的にモンスターは倒してもいいらしい。
そしてモンスターを倒せば魂の残り物が手に入る。
これはさっき聞いたんだけど、特定のモンスターは次元を自由に異動できて、つまりは目の前にいても次元が違うから認識できない。村は結界や魔法でモンスターの侵入を防げるけど、道ではそれが出来ないから総の耳に音が入ってこなかったり、いきなり現われたりも出来るんだそう。ただし次元異動できるのはモンスターがもつ魔力の効果にもよってだから、出来ないモンスターがほとんど…らしい。
んで、そういったいろんな個性のモンスターを倒した後出来るのが、魂の残り物という名の魔力の残りが形になったもの。小瓶とか鍵とか南京錠とかいろんな形があるらしいんだけど、どれも実際に使えたりするらしい。それを換金すれば、お金にもなるんだ。
あと、モンスターの様々な魔法の効果はさっきも言ったみたいに次元異動とか、氷が出たりとか個体によって様々なんだけど、例えば次元異動が出来るモンスターの残り物を割れば自分も一定期間、自由に次元異動できる。
他には…カラエが投げた小瓶はスライムによくある効果、対スライム粘液瓶だった。
それにアニエとカラエと初めて出会った時は試しに昔倒した次元異動の効果のある残り物を使ってたらしい。だから総は、近くにいても気がつかなかったんだって。
「やっぱり違うな」
この世界は、異世界だ。もといた世界とは何も似ていない。
「何か言ったか?」
「いいや、何も。」
「そうか…」
カラエは申し訳なさそうな顔をしていた。なるほど、さっきの発言を気にしてるんだな。
「あの、セイジュ…さっきは、悪かったな…」
その素直なカラエに、自分は思わず笑ってしまう。
「いいよ、気にしてないからさ!」
「そ、そうか…」
いやあしかし、カラエは総に勝らずとも、中々からかいようがあるな…
そう言うのはやめておいた。
表彰も終わり後夜祭も終わる頃、やがて村長さんが、魔法球と呼ばれる不思議なアイテムで花火のようなものを打ち上げた。
町を包むように広がり、そしてキラキラと光る魔法花火と夜空とに夢中で、自分は気がつかなかった。
人らの歓声の中に、悲鳴と唸り声が混じっていたことを。
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