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CASE14 私の記憶

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「いいかい、アゲハ。酒を飲んで寝てもしっかり眠れないと、私は何度も説明したよね?」


「ごめんって。あんまり飲んでないよ?ホラ、普通でしょ?」


「ソラに聞いたよ。新品のボトルを一本開けたって……。アゲハは酒に強いのは分かったけど、毎日そんな生活じゃ身体を壊すぞ?」



……毎日!?


お酒を飲まない私でも、それは飲みすぎだって分かるよ!?



「でも、余計な事を考えないで済むから……今の俺にはそれが必要だし、迷惑はかけてないよね?」


「迷惑というか心配はかけている……」


エドガーさんはまだ色々と言いたそうだったけど、諦めた様子。


「一人で何でも抱え込むな……全て、アゲハのせいじゃないんだから」


アゲハさんの頭をガシガシ撫でてから小さな声で言っていた。


エドガーさんとアゲハさん

二人って親子みたいだなぁって、思うんだよね。



エドガーさんは私の方をむいて、同じように頭をガシガシ撫でてから、私には笑顔を向けてくれた。


「さぁ、もう寝なさい。朝起きれないぞ?」


「……ですね」



起きれないだろうね、確実に。

エドガーさんは眠たそうだったから、たまたま目が覚めてアゲハさんがいない事に気づいたのかな?


私は二人より先に部屋に戻って、静かにベッドに潜り込んだ。


色々聞いたアゲハさんの話


アゲハさんにとって不利な話も私にしてくれた。


黙っていれば良かったような話まで……話してくれた。



だから、あの人は信用してもいい人かもしれないって


そう思いながら眠りについた。




**********




やっぱり朝は起きれなかったけど、それはアゲハさんも同じだったみたい。


起きてから素直に一階に行ったら、アゲハさんがエドガーさんと向かい合って座っていて

アゲハさんの手には煎じた薬草みたいなのがあった。



「頭痛い……」


「当然だ!だから言っただろう?いずれ、身体を壊すぞ?」


「でもさぁ、お酒に逃げたくもなるよ、色々と」



アゲハさんの言葉がまぁまぁ重たいから…「おはよう」って声を掛けにくい……。

二人は私に気づいていないし、、ってかレオンさんとアイさんもいないし、、、



「ソラの事か?」


「それはもちろんだけど……何よりも、役に立てない自分自身が、、本当に嫌だ、、、」


役に、立てない……?


黙って聞き耳を立てていたら、アゲハさんがポツポツと話し始めた。


「戦うのが、怖いから……。またあの女に捕まって操られたくはないし、戦って誰か仲間を傷つけたくない。また自分が自分じゃなくなって……誰かを傷つけたら………そう思うと怖くて、、戦いの場にいるだけで震えて動けなくなる、、」



昨日聞いた話の続き……みたい。


「戦えなくなった」って昨日聞いたけど……それは、身体的な理由じゃなくて、精神的な理由なんだね。



「別に戦えなくても構わない。戦うのが全てではない。アゲハは十分すぎるほど、良くやっている」


「駄目でしょ。俺は新人類。新人類なら戦ってこそ、価値があるのに……」


「私はアゲハが何者であっても、戦わなくて良いと言い続けるよ。だってアゲハはアゲハだから……。アゲハの価値は、戦わなくても十分にあるんだよ」



私の前では作り笑顔が多かったアゲハさん。

自分の悩みを、私に悟られないようにしていたのかもね。


なんか……優しいんだろうけど、不器用な人。



「ありがとう、エドガー。ちょっと元気になった気がする」


「今日は酒は止めなさい。何かあったら酒を大量に飲む癖、私を見ているようで……自分の子には真似されたくない」


エドガーさんの最後の言葉にアゲハさんは笑っていたから


今ならいいかもって思って、二人に声を掛けた。



「あー、空は寝坊だ」


「アゲハ、君もだからね?」



なんとなく、色々知れたからかな?

今日は、昨日とは違う朝を迎えた気がしたよ。

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