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CASE12 異世界からの来訪者

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「最初に言われたのは『ようやく世界の真実に近づいたのね』って言葉だった。言葉の意味が分からなかったけど……怖くて聞き返せなかった。俺の表情で察したのか、次に言われたのは『真実はすぐ傍にある』」


ユートピアの真実がすぐ傍にある?


………意味分からないけど?謎かけ??



「それから……戻らないかと訊かれた。力ずくは嫌らしくて、俺の意思で戻るのに意味があるらしい。だから、条件を突きつけられた。条件は、二つ……」


二つ……?



「一つは、エドガーが言った通り、レジスタンスを全員生かす事。もう一つは、俺以外の異界人を元の世界に帰すこと。救済者の皇帝が持つゲート、そこから帰すって、言われた……」


「もしかして……私たちを帰すってところに悩んだの?」


恐る恐る聞いたら、ゆっくり頷いた。



何となく、エドガーが怒った気持ちが、私にも分かった。


アゲハを犠牲にして私たちが日本に帰る?

そこまでして帰りたくないし、そもそも私は、アゲハと一緒に帰るために迎えに来たんだよ?

その話、したよね?


レジスタンスが勝てばゲートは手に入る。

だから、勝てばいい。


なのになんで……アゲハは悩むのかなぁ、、、



「エドガーが怒る気持ち、私も分かった。私もアゲハがムカつくわ」


私が思わず口走ったら、アゲハは申し訳なさそうな顔で私を見た。


「気持ちは嬉しいよ?心配してくれる気持ちは。だけど、何のために私がまたこの世界に来たのか…それを考えたら私が帰る訳ないでしょ?」


「………もちろん忘れた訳じゃないよ。ただ、、」


ただ…何?

なにか、理由があるって事だよね?



「今の俺は……役に立てないから……。戦えないなら何か役に立てることを………って、思ったんだ」


俯きながらそう言ったアゲハ。

ギルバートさんもエドガーも呆れたような、そんなため息をついていた。


「お前は十分よくやってくれている。十分過ぎるくらいだ。気に病む事はない」


ギルバートさんはそう言って椅子から立ち上がって、エドガーの肩を叩いた。


「アゲハの気持ちは分かってやれよ」


「ギルバートに言われるまでもない事だね」


エドガーはそう言ったけど、それからアゲハと言葉を交わす事はなかった。




「………ちょっと、出掛けてくる」



重たい空気を破ったのはアゲハの一言で

スッと立ち上がって、部屋から出ていこうとした。


「あっ!私も付いて行きたい!」


すかさずアイさんが立ち上がったけど、アゲハは「一人がいい」って優しく断った。



「えーっ!でもさぁ、アゲハはミスリが苦手?嫌い?なんでしょ?また会ったらどうするの??」


………え?

今、何て言った??


私だけじゃなくてアゲハもレオンも……みんな、アイさんを見ている。



私たち、一度も花将軍の名前を言っていないのに……アイさんはなんで花将軍の名前を知っているの?



「名前……ミスリって名前、なんで知っているの?」


アイさんに聞いたらハッとした表情をして「みんなが言ってたから」ってあからさまな嘘をつかれた。



「アイは救済者?」


「な、ワケないじゃん!ただの一般人!!」


アイさんは慌てて否定していたけど……怪しい。


バツが悪くなったのか、アゲハと一緒に出掛けるって言わなくなったし、部屋にすぐに逃げちゃった。



「結局さぁ、あの異界人は何者なんだよ?」


ゼロさんはあまりアイさんが好きじゃないみたい。


何度か顔を合わせているはずなのに、二人で話している姿は見たことがない。


「分からねぇ。話したがらないし、話させようとするとキレて手に負えなくなる」


「何か知っているが言えない……と、言ったところか、、」


ギルバートさんは頭を掻いて

それから、アゲハが出ていったドアを見ながら呟いた。



「きっと、アゲハが犠牲になれば帰れたのに……くらい、思っていそうだな」


………うん、なんとなく、私もそう感じたよ。

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