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CASE10 傷痕

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アゲハに聞いたら『人がいなくなる気配がして起きた』らしく『誰もいない部屋で寝るのは嫌』だって。


「でも眠い……」


「ワガママだなぁ、、」


思わずそう言っちゃったけど、本人も自覚はあるみたい。

言い返せなくって、今の気持ちを顔で訴えられたよ。


「じゃあアゲハはソファで寝てろ。ソラは俺の仕事ちょっと手伝ってくれねーか?」


レオンの手にはたくさんのオーダー表。

お客さんが多いのは商売的にはうれしいけど……どんだけ仕事溜め込んだんだよ。


「空、できるの?」


「……手伝い程度なら」


「……………起きたら俺も手伝うよ」


ものすごい間があったけど……絶対に私にはできないだろうって思ったよね?


アゲハはすぐにソファに横になってウトウトしはじめて、レオンはお店の方に行った。


私は頼まれた薬草をすりつぶしたりしながら、これからのこと、ずっと考えていた。





**********




その日の夜、アゲハは食べ物も飲み物も普通に口にしたし、今まで飲まなかった薬まで当たり前のように普通に飲んでいた。


急に変わったから私もレオンもビックリして目が点になっていたけど、アゲハはキョトンとしていた。



「お前……急にどーした?」


「へ?何が?」


「いや……だってお前、食べ物だって食いたがらないし、薬だって拒否だったじゃねーか……急に素直になると…なんかこえーよ」


アゲハはレオンの言葉を聞いて、納得したみたい。


「レオンが作った食べ物だし、あの医者だってレオンが一生懸命探してくれた信頼できる人だって分かったから。だから、何も怖くないって思えるようになっただけ」


「ほー……つまり、俺に対して全幅の信頼を寄せているってワケ?」


「もちろん。だってレオンは俺の相棒でしょ?」



アゲハの様子がいつも通りになったことと、相棒って言われたのが嬉しかったのか、レオンはそれから終始ご機嫌だった。

アゲハにお酒まですすめていたけど、さすがにアゲハは断って

でも代わりにレオンが眠くなるまでずっと話に付き合っていた。

………もちろん、私も。







「今日ね、色々知ったよ。今みんなが何やっているかも……みんなには申し訳ないね」


夜、アゲハの部屋で二人並んで話している時

不意に、そんな事を口にした。


聞いたなら……この事、言ってもいいよね?


「じゃあ、薬の話は聞いた?」


「……薬?」


「ホラ、アゲハの治療に使ってる薬。あれ誰からのやつかって話」


「いや……あれは空のじゃないの?」


「ちょー高い貴重な薬を、私がどーやって手に入れるのよ」


アゲハって頭いいはずなのに

たまにこう……ボケるよね。



「あれはランさんからだよ。今日もまたひとつ預かった」


アゲハは目を見開いて口に手を当てて驚いているけど……そんなに驚く?


「ランさんの……って、、絶対に誰にも貸さないで有名な、アレ……?」


いやいやいや。

何それ?


「ごめん、その有名?な話、知らない」


「そうなの?ランさんの持ってる薬はランさんの故郷で作られたもので……今は破壊者の支配地域だからもう故郷がないんだって。だから、故郷の思い出だから大事な物だって……それを使わせて貰ったなんて、申し訳ないなぁ、、」


ランさんについては知らなかったから、ビックリというかなんていうか……。


「薬って借りて返せない物なのに……ランさんの大事な物を使わせてもらうほど、俺は仲良くなかったよ」


「うん、仲良くなかったのは見てて分かってたけど……ランさんの気持ちに変化があったらしくてね。今は仲良くしたい的な?そんな感じだったよ」


「それは、、ヤバイ。。。かなり嬉しい……」



相当嬉しかったのか、目元と口元が緩みまくり。



「ちゃんとお礼、言わなきゃね」


「そうだね。あと、次に会うときは俺から普通の会話をしてみるよ。結構避けてたんだよね、俺も」


今日一日で本当に色々と気持ち的に前向きになったみたい。


私ひとりじゃアゲハはここまで元気にならなかったと思う。

ちょっとだけ、、それが悔しいって思ったよ。


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