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CASE10 傷痕

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私の話をアゲハは黙って聞いていた。

たまに「へぇ」とか「そうなんだ」って相槌を打ちながら。


話していたら結構時間が経っていたから、お昼も兼ねてお弁当をアゲハに手渡したけど、開けようともしてくれなかった。

食べる気分じゃないって意味なのかもしれないけど……。


「見るだけでも見て!私、同じの朝に食べたけど美味しかったよ?」


「食欲…ないんだって、、」


そう言いながら渋々お弁当を開けたけど、中身を見て目を見開いていた。

中身は色々なおかずが少量ずつ、綺麗に敷き詰められていた。



「コレ……って、誰から?」


「聞かなくても分かるでしょ?」


私が聞き返したらちょっと嬉しそうに視線をお弁当に移して

それから素手でひとつ掴んで口に放り込んだ。


私が目の前で食べた訳じゃないのに、普通に食べた。

これが、アイリーンさんの食事効果かな?


「お箸使いなさいよ、ほら」


私がお箸を渡したら素直に受け取ったし。


「今すごく、食べたくなっちゃったんだよ」


そう言いながら美味しそうに食べはじめたから色々安心した。



お弁当は、ほとんど食べて

残した分も後で食べるから下げないでって言っていた。


「全部俺が好きな食べ物だった」


「あ、スープ忘れてた。あとで飲む?」


「うん、そうする。スープもアイリーンさんから?」


ご飯を食べたからか少し元気になったようだし、口数も増えた。


「そうだよ。ホント、優しいよね。アゲハのお母さんたち」


アゲハの実のお母さんも、ここでのお母さんも

みんな、アゲハが大好きなんだよね。


「アイリーンさん大変だっただろうね、すごいたくさん作ってくれた……お礼言わなきゃ」


お弁当を食べてからだいぶ表情も変わったし普通にしゃべるようになってきた。


「今から伝える?」


「………いや、手紙、書こうかな?」



そう言って立ち上がって机に向かったアゲハ。


そういえばあの机……の、中。


ノートの話、してないや……。



「ごめんアゲハ。謝らないといけないことがある」


椅子に座って私を見てきたアゲハの顔はすっかりいつもの顔だった。



「その机にあるノート、、中見ちゃったのと、握りつぶしちゃった、、」


「え……?ノート??」


アゲハはピンときてないのか引き出しを開けてノートを取り出して

パラパラと中を見てから、勢いよく立ち上がった。


「中見たのっ!!?中読んだっ!!!?」


いきなり大きな声を出すからビックリしたー……。


なんか顔が赤いし……怒ってる訳じゃないみたいだけど、、、


「み、見た、、よ?ごめんね……アゲハの痕跡って言うのかな?そーゆーの見たくなって……。言葉も覚えたから読めたし、、あ!私に会いたいって書いてあるのも読んだ……」


「…………それが一番恥ずかしいヤツだから、、、」


力なくアゲハが椅子に座って頭を抱えていた。


アゲハの声が大きかったからかエドガーが部屋を覗きに来たけど

オロオロした私と頭を抱えているアゲハ。


「どうしたのかな?二人が喧嘩??」



「ううん、見られたら恥ずかし物を私が見ちゃった、、らしい」


私の説明にエドガーは頭を傾げていた。

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