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CASE10 傷痕

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背中に手を回してトントン叩きながら落ち着くのを待っていたけど、ずっと静かに泣いて、震えも止まらないまま。

だいぶ時間が経っても落ち着いた様子はなくて………

前もこんな事はあったけど今日の方が辛そうで、、私まで辛くなってくるよ。

何があったか知りたいし、聞きたい。

どうしてこんなに苦しいのかって、教えてほしい。


………でも、今は聞けないね。

本人が話せるまで待つしかなくて、それがもどかしいよ。





―――――コン、コン


たまに鼻を啜る音が響く部屋に、ドアをノックする音が響いて、アゲハの身体が跳ねた。


「だれー!!?」


「俺だっ!!」


喋れないだろうアゲハのかわりに声を上げたら、名前を名乗らないヤツの声。

………レオンだな。


「どうしたのー!!?」


「医者来たぞ!!怪我の治療だ、治療!!!」


ドアは閉まったままだから、声を張らあげたらドア越しにずいぶん大きな声


ドアを開けないで話してるのは、レオンなりの気遣いなんだろうね。



でも、、“医者”って言葉を聞いた瞬間、アゲハが余計にガタガタ震えだしたから、、


「レオンごめん!時間ちょうだい!!」


「………了解だ!!また声かけるなっ!!」


レオンは察してくれたみたいで良かった。

遠ざかる足音を聞いて、それからアゲハをぎゅって抱き締めた。



「大丈夫だよ……怖くないって、」


「いやだ………いや、、いやだっ!!」


ちょっと痛いくらいに抱き締めながら、ずっと「嫌だ」って言い続けてて


治療は嫌ならやめようって言えるほど軽傷でもないし、引っ張ってでも連れていきたいところだけど……


ダメだね。無理に連れていったら暴れてでも拒否するって、さっきの姿を思い出して諦めた。



「分かった……分かったから、落ち着こ?」


ずっとこんな様子で……大丈夫、なのかな?


次にレオンが呼びに来るまでずっと

何かに震えながら、怯えていた。




**********



「で?アイツ無理なの?部屋から出てこないって」


部屋を出たらレオンだけじゃなくてゼロさんとエドガーも待ってて

私だけが部屋から出てきたのに、あからさまにガッカリされた。


アゲハは私を抱き締めたままずっとそのままだったけど、レオンが再び来たときに放してくれた。

私には「ちゃんと治療して早く治して」って言って部屋を出るように促したけど

「迷惑じゃなきゃまた部屋に戻ってきてほしい」って……気まずそうに言っていた。



「嫌だって言って……ちょっと様子が変だったから、、」


「仕方ねぇが……ムカつくな!顔出さねぇつもりか?」


「ムカつくって……」


ゼロさんの声、アゲハの部屋の前で話すには大きすぎるよ。

本人に聞こえていると思う……。



「俺はこれからヒズィに行くんだよ。ギルバート動けねぇのにここに幹部四人いるとか駄目だろ?移動できるの俺しかいねーからさ」


え?ギルバートさんまだ駄目なの?

そんなヤバイの?


聞く前にゼロさんが私をどかしてノックもしないでアゲハの部屋を開けた。



「聞こえた?そういう事だから俺は行く」


アゲハはベッドの上で膝を抱えて丸くなっていて、顔を上げようとはしなかった。

でも、ゼロさんの行動とかに怒ることもなくて……


いつもなら「ノックしてから開けて!」って笑いながら注意しそうなのに、、無反応。



「一応、こっちにも毎日顔は出すケド……さっさと治せよ、アゲハ」


あ、またゼロさんがアゲハを名前で呼んだ。

本人に向かって名前で呼んだのを見たのは私はこれが多分三回目。


名前を呼ばれた時に肩がビクッて動いたけど、返事はなかった。



ゼロさんは暫くしてからドアを閉めて、私の肩を軽く叩いた。


「アイツの事、しばらく頼む」


ゼロさんらしくない事を言って、すぐに消えた。





「………やベーな!!ちょっと笑うわ今の流れ!!!」


「ゼロだってらしくない事を言って恥ずかしくてすぐに行っちゃったんだから。茶化したら可哀想だって」


「だってよぉ!アゲハに優しい言葉を投げ掛けてからの空に『アゲハを頼む』って言ったときのあの顔!!誰だよお前ってカンジ!!」


レオンとエドガーの笑い声が家中に響いていた。



そう言えば、あの時

アゲハが花将軍に操られていた時に

そんな中でアゲハが何かに反応したのは、、

ゼロさんがアゲハの事を名前で呼んだからだ。


それを思い出して、私も笑った。
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