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CASE8 君がいない日々

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「花将軍……かぁ、、」


レオンにマスターから聞いた話を伝えたら、やっぱり考え込んでいた。


「ま、考えたって予測しか出ないからな。正確な情報を仕入れるために、明日も店を開けますか!」


レオンは翌日も、普通に店を開けた。


翌日も、その次の日も、次の日も、、、


お客さんから同じような話を聞いたり、新しい城の建造が始まったとか

そんな話を、たくさん聞いた。



だけど、これ以上は目新しい情報はないまま月日は流れて

私もすっかり、今の生活に馴染んだ。



文字は覚えたし、物価やお金の価値も覚えた。

時間はかかるけど、薬草の簡単な調合はできるようになった。


ここに来て2ヶ月が過ぎたから、常連客さんは覚えたし、私のことも覚えてもらった。



レジスタンスの他のみんながどうしているかはレオンからたまに話を聞いた。

みんな元気。
新しい情報はない。
破壊者は動いていない。

だいたい、そんな話ばかりらしい。


私から連絡する事はリスクを考えてしなかったから

だから、桃華がうまくやっているかも詳しくは分からない。




そして

もちろんアゲハについての情報は全くなくて

まるで、この世界からアゲハはいなくなったみたいな

最初からアゲハはいなかったみたいな


そんな気分になってきていた。


なんとなく、レオンたちもアゲハの話はしなくなっていた。



たぶんね、そんな日常に私も限界だったんだと思う。




今日、この家に住むようになってはじめて


アゲハが使っていた部屋に足を踏み入れた。





ずっと使っていなかったのに、埃っぽくないのは

誰かが換気したりしているのかもしれない。



少し大きめのベッドとテーブルと机と椅子。

それしかない、シンプルな部屋だった。


テーブルには何もないし、勉強机みたいな机の上にも何も置いていない。

ベッドも綺麗だし、クローゼットを開けたら服は綺麗にしまわれていた。


「相変わらず……几帳面だなぁ、、」



なんとなく、足を踏み入れる事ができなかったこの部屋は

アゲハらしいけど、アゲハを感じることができない部屋。



机の引き出しを開けたら一冊のノートがあった。

私が勉強で使ったノートと同じノート。


見たらいけない気もしたけど、躊躇いながら表紙をめくった。



そこに書かれていた字は見慣れたアゲハの字。

お手本にしたいくらい綺麗な字を書くのがアゲハだった。


驚いたのは、私と同じで日本語とこの世界の言葉を並べて書いていた。

“あ”はこう書く、“い”はこう書く…って。

私は表を作ったんだけど、アゲハも全く同じ事をやっていた。


それからページをめくるとギルバートさんやエドガー、レオン……と、知らない人の名前。

それが日本語とこの世界の言葉で書かれていた。


きっと、知らない名前はもういないレジスタンスの人なんだと思う。

このノートには、私や桃華だけじゃなくて、ミレイの名前もない。

ミレイは私たちとほぼ同じ時期にレジスタンスに入った人だから……だから、これを書いたのはアゲハがレジスタンスに入ってから、ミレイが入る前まで

つまり、私が元の世界に戻っている間。



パラパラとページをめくると


アゲハの字なのにアゲハらしくない雑な文字があった。

筆圧が強すぎて次のページまで跡が残っていて……


「………馬鹿だなぁ、、アゲハも」


そう呟いたら、私の目から涙がこぼれ落ちた。




【空に 会いたい】




ノートには、そう書かれていた。
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