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CASE7 急転

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アゲハは向こうではずっと家にいたから必然的にお母さんといる時間ばかりで。

だから、マザコンと言われてもおかしくないくらい仲良しだったけど、、、

自ら認めちゃうとはね。


「じゃあ……俺は寝るから」

涼くんはそれだけ言ってスッとアゲハの横を通りすぎて中に入った。



「別に……今日の事は気にしてないのにね」


涼くんの行った方を見ながらそう言ったけど、たぶん……違うと思う。

アゲハには、言った方がいいかな?


「あのね、ちょっと相談があるんだけど………」





**********





一通り話したら「そうか」って言ったっきり黙ってしまって。


ずっと空を見上げながら何かを考えている様子だった。


「………涼が言っている意味は、よく分かる。でも“誰かが何とかしてくれる”って考えは、、元いた世界でも同じ。こっちの世界のが緊迫度が高いだけ。
例えばさ、温暖化問題。地球では海面が上昇して国が海に沈みそうな島国があるって認識は多数の人にあると思う。だけど、CO2の排出を抑えようって思って具体的な取り組みをする個人は少ないでしょ?“個人の努力より企業がやった方が効果は大きい”って考えている人も多いと思う」


……その例えは、まさに私だ。


夏は冷房をガンガン効かせた部屋にいたいし、冬は暖房の効いた部屋がいい。

私一人の努力より、もっと大きい会社がやれば効果は大きいじゃんって思ったもん。


「内容は違うけど“誰かがやればいい”、“大きい存在がやればいい”この考えは元いた世界でもあったんだから……。この世界の問題はちょっとスケールが違いすぎるけど……力がない人が他人に頼る事については否定しきれないよ」


「そうかも……しれないね、、」


「ただし、このままだとどのみちこの世界は終わる。元いた世界より深刻な状態だよ、ユートピアは。海はゴミと汚水で汚れきっていて、とても入れないし魚は食べられない。砂漠化は悪化の一途だし、破壊者の支配地域は破壊者自らが焼いたからただの焼け野原。そんな状態だけど“今を生きれたそれでいい”って考えの人が多い」


私はユートピアの全体を見た訳じゃないけど……

そんなにひどい世界なの?


車もないし、インターネットもない。


文明は元いた世界より遥かに古い感じなのに……どうしてそうなったのかな??



「それでも、全てがそういう人ばかりじゃないからね。だから俺は……自分が好きな人たちが幸せに生きていける世界のために戦うって決めたから、、、でも甘い、かぁ、、、そうかもしれないね」



涼くんの意見の全てを、否定も肯定もしなかったアゲハ。


最後に「俺からギルに今の話はしておくよ」って言ってくれた。


私じゃうまく言えないだろうから助かったよ。



アゲハに話してもまだスッキリとはできなくて。


心になにか引っ掛かったままだった。
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