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CASE7 急転

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「そっか……分かった」


アゲハはそれ以上は何も言わなかった。

私も、何も言えないな……。


だから、ちょっと涼くんが変わったように見えたのかもしれない。


「戦いにおいてもスー、お前よりリョウのがセンスありそうだった」

「……えっ、うそ!?リョーくん!ちょっとあたしと一緒にあそぼーよっ!!」

スーが立ち上がって涼くんの腕をがっちり掴んだ。

スーの顔が子供みたいにキラキラしてるから、逃がす気はないみたい。


「……いや、遠慮します」

「いいからいいからっ!ねっ、ギルくん、もうあたしらはいなくていいでしょ!?」

「あぁ、もう行って平気だ」


ギルバートさんのOKを聞いてスーは半ば強引に涼くんを連れていった。

ジェスさんとイブキも一緒に着いていって、四人がいなくなってからため息が聞こえた。

ため息の主はアゲハだ。


「アゲハ。お前が気にする事はない。リョウ自身が決めて、そうなった。実力は本当にミオより上だ。実戦を積んだら一気に化けたぜ?」

レオンの言葉にアゲハは首を横に振った。

「この世界で人を殺しても……倫理上の問題だけ。罪の意識くらいで明確な罰はない。だけど……俺たちがいた世界は違う。人を殺せば罰せられる。そういう法律の下、生きているのに……」


もし、私が人を殺したら…?

罪の意識に耐えられるかな?

日本に戻って、普通に生活できるかな?

……人を殺せばいいって考えに、、私が歪まないかな?


まだ人は殺していない…けど、

新人類は殺してしまった……。

それにすら、良かったのだろうかって悩むのに、人を殺すって……世界が違うとはいえ殺すって……。


「リョウがいなきゃヤバかったかもって時もあった。リョウが人を殺したって、、責めるなよ?」

「責めるわけないよ。俺は人のこと偉そうに言える立場じゃない。……ただ、心配なんだ、、人を殺して平気な訳ないからね」

「お前……甘いなぁ、、アゲハがこの世界にいる原因の全てがリョウなんだろ?お前の立場で心配するなんてさ……」

「結果的に悪いばかりじゃないからね。この世界に来なかったら、走ったりできなかったし、、、レオンにも会えなかったしね」


アゲハの言葉にレオンが照れて、この話題はどんどん違う話に変わっていった。

アゲハが話を変えるように仕向けた気がしてならないけど。


涼くん……と、話、しようかな?





**********




「なぁんであたしが負けたのよぉーっ!!!」



スーと涼くんの手合わせ


様子を見に地下に行ったら、スーの叫びが響いていた。

思わず耳を塞いだけど、先に来ていたジェスさんもイブキも同じように耳を塞いでいた。


「スーが負けたの?」

「あぁ、気持ちいいくらいあっさりとな」


土だらけで息のあがってるスーとは真逆で、涼くんは余裕の表情だった。


「スーが負けたって!」

「予想外だね」

「スーが強さを見誤ったんだろう」


私が来てすぐに、レオンとアゲハとギルバートさんが来て

この状況を眺めていた。


「ステファニー!お前の悪い癖を直せって何回言わせるんだ!!これが実戦だとお前死ぬって自覚あるのかよっ!!相手の実力を勝手に見誤るな!!」


ゼロさんのいきなりの怒鳴り声に再び耳を塞いだ。

ゼロさん……まぁまぁ本気で怒っているみたい。


「ゼロくん、分かってるよ!だけどリョーくんこんなに強くなるなんて思わないじゃんっ!だから見誤ったんだよっ!!」


スーの返事に、全員がえっ?ってなっていた。

分かっていて、見誤った??


ゼロさんが深く項垂れたのをレオンが慰めていた姿はなんだか面白かった。




「なぁ、井黒と戦いたいんだけど」



そんなちょっと笑いが起きていた場所に響いた涼くんの抑揚のない声。


さっきまで笑っていたアゲハもふっと笑顔が消えた。



「俺と?」


「あぁ。全力のお前と戦いたい」



涼くんの言葉に、この場に緊張が走った。


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