上 下
77 / 342
CASE5 武器と魔法

19

しおりを挟む
「私はアゲハは人だって、言い続けるよ」


そんな言葉しか、言えなくてごめんね?

たぶん、私じゃない。

ギルバートさんたちから言われたいんだろうけど……。


「空がね、そうやって欲しい言葉を言ってくれるから……だから空はやっぱり俺の弱点かもね」

「いないと寂しくなるから的な?」

「まぁそんな感じ……かな?」

「それはお互い様だから……だから私、強くなるよ。アゲハの弱点扱いされないように!」


私が笑えばアゲハも少し表情が緩んだ。


「弱いから弱点って言ったんじゃないよ?」

「それは分かるけど…だから、アゲハを守れるくらい強くなるよ!シンクロもだけど中身的な意味で」


本当は魔法、怖いけど。

闇とか嫌な感じだし、怖いし自信ないし……。

だけど、アゲハのためになるなら

頑張る意味、あると思う。


「シンクロと言えば空は今日、本当は何を想ったの?魔法を使った時」

話題が今日の私の魔法になっちゃった。

あの時、想った事は―――――


「アゲハを苦しめている奴等が憎いって……そう想った」


こんな気持ちを、みんなには知られたくなくって。

だから、アゲハに聞かれた時に嘘をついた。


「あぁ……だから制御が効かなかったのかもね。でもありがとう」

ん?

ありがとう?

顔を覗きこむとちょっと嬉しそうな顔だった。


「俺のためにそう想ったんでしょ?それは素直に嬉しいよ」

カップに手を伸ばして一口飲んで

カップを再び元の位置に戻した時には、顔から笑顔が消えていた。



「ちょっと長い話をしていい?この二日間、夜に俺がうなされていた理由」

本題、この話だもんね。

だけどいいのかな?

今のアゲハはボロボロの状態なのに……。


「アゲハが、話せるなら……私は無理には話してほしくない」

「俺が無理だとしても、空には話したい……でも、涼とか桃華さんには秘密。あんまり人に、知られたくない」

「分かってるよ」


私を見てそれから視線を下に落とした。

しばらく無言だったけど、たぶんそんなに長い時間じゃなくて


「俺がユートピアに来てすぐに花将軍に助けられて、それから新人類になった……って簡単には話したよね?」

それは、前にニャンさんたちのところで聞いたね。

奴隷にするためだって。

異界人の力が目的だって。



「どうやって、この核を、埋めたと思う?」


これが、トラウマなんだって

瞬時に悟った。


分かりやすく、声が変わったから。

絞り出すように言って、左胸の服を思いっきり握ったから。



「よく夢で見るのは、、、この核を埋め込まれた瞬間」


手術台のようなベッドに手足と首、お腹を金属製の拘束具で固定されて

麻酔もなしに、左胸を切り裂かれた。


痛みと恐怖で気を失いかけた時に見えたのは、花将軍と医者たちの気持ち悪い笑顔。


そして、切り裂かれた左胸に、押し込むように入れられたのが核で

普通なら意識を失って当然の状況なのに、なぜか意識は保ったまま。

核が自分の身体の一部になる感覚が分かったって。

言葉で言い表せない痛みと、核が自分の意識を乗っ取ろうとする感覚があって

痛みと恐怖から逃げたくて暴れても動けるわけなくて

苦しくなく息ができるって感じた瞬間、自分の意識はなくなったって。


それが、アゲハの体験。


「意識がなくなる前、、、もう自分が自分じゃなくなるって、自我を失う事も人間じゃなくなった事も漠然と分かった。いつも、夢から醒めても今の自分が本当に自分なのかって、この身体は操られているままじゃないかって、ひどく不安になるんだ」


長く

本当に長く、話してくれた。


話すのも嫌だったと思う。

だけど、しっかりと、話してくれた。


手を伸ばしてアゲハの頭を撫でたけど、何も言われなかった。


「アゲハはアゲハだよ。大丈夫、昔から何も変わってないよ」

「空にそう言ってもらえると……大丈夫だって、安心するよ……」


服を掴んでいる右手を触ったら力が抜けて放してくれた。

服は左胸の辺りだけ、ぐしゃぐしゃになっていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ
恋愛
「──お前のこと、本当はずっと嫌いだったよ」 「……ジャスパー?」 「いっつもいっつも。金魚の糞みたいにおれの後をついてきてさ。鬱陶しいったらなかった。お前が公爵令嬢じゃなかったら、おれが嫡男だったら、絶対に相手になんかしなかった」  マリーの目が絶望に見開かれる。ジャスパーとは小さな頃からの付き合いだったが、いつだってジャスパーは優しかった。なのに。 「楽な暮らしができるから、仕方なく優しくしてやってただけなのに。余計なことしやがって。おれの不貞行為をお前が親に言い付けでもしたら、どうなるか。ったく」  続けて吐かれた科白に、マリーは愕然とした。 「こうなった以上、殺すしかないじゃないか。面倒かけさせやがって」  

処理中です...