上 下
30 / 342
CASE3 帰還

7

しおりを挟む
――――――――――

――――――――――


タイヨウさんとの約束の日。


タイヨウさんに連れていかれた先は……。


「なつかしーっ!!」

「だろ?」


小学生の頃に来た、遊園地。

虹野家と井黒家総出で一度だけ来た、地元の小さな遊園地。


「パーッと遊ぼう!まずはジェットコースター!」


タイヨウさんに腕をひかれて中に入った。

小学生の時以来だけど、当時と何も変わらない園内。




「マジで無理!」

「いーや!行きます!」


ジェットコースターにひたすら乗って、それからお化け屋敷。


あの時もギャーギャー騒ぎながらタイヨウさんと園内を走り回ったよね。


お父さんが必死に私たちを追いかけてたね。


「アイス食べたーい!」

「やっぱバニラだよな!」


お財布、持ってきたけどね。

結局、タイヨウさんの奢り。

美味。美味。

楽しい。楽しい。

久々に私がはしゃいでるって感じだし。




「最後にアレ、乗るか」

夕方、タイヨウさんが指差したのは観覧車。

「ぁっ、、、うん」

観覧車。

観覧車だ。



二人で乗り込むと、急にタイヨウさんが黙って。

この場所とこの沈黙の意味、なんとなく理解。


「あの……さぁ、「ねえ!覚えてる!?」」


タイヨウさんの言葉、遮っちゃった。

悪いなぁって思うけど、タイヨウさんのこれからの言葉を、聞くわけにはいかない。


「昔、私とタイヨウさんとアゲハとさ。観覧車、乗ったよね?」

「あ……あぁ、覚えてるよ」


突然何?って感じだよね。

空気的には分かるだろ?って感じなのにね。


「私さ、あの日タイヨウさんと色々はしゃぎまくって楽しくって。帰り際にアゲハが『三人で観覧車に乗りたい』って言っておばさんたち困っちゃってたね」

「あー……そうだった。テンション上がりすぎて心拍上がるのを心配して母さんも行こうとしたのに頑なに三人、ってな」


観覧車はどんどん上に上がってもうすぐ頂上。


「私ね、気づいてなかったの。アゲハが乗れるアトラクションって観覧車くらいって事。三人で一緒に何かしたかった気持ち、気づかなかった」


あの時見たのと、同じ夜景。

アゲハは本当に嬉しそうに、ずっと景色を眺めていたね。


「どんな気持ちでアゲハは私たちを見てたのかな?とか、本当に楽しかったのかな?とか考えたら……あれからこの遊園地、来れなかったんだ」


タイヨウさんを見て、笑った。


「やっぱ私、アゲハがいない世界は楽しくない」


だから、決めたの。

私は、ユートピアに戻るって。

あのカードがあればまた帰れるはず。





**********




「今日は楽しかったです!ありがとうございました!!」


さっき、楽しくないと言った私の矛盾した発言も、さらりと流してくれてくれた。

同じマンションだから部屋の前まで送ってくれたけど、部屋には入らないでスマホを取り出した。

ヤツは3コール以内で絶対に出る自信がある。


1コール…

2コール……

あ、出た。

「もしもし、桃華?今から出れない?」

『おっけー!』

めっちゃ軽いノリで快諾された。

なんていうか、私との温度差すごいなぁ。



あともう一人。

「もしもし?今から会えるかな?」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

処理中です...