上 下
22 / 342
CASE2 同調-シンクロ-

14

しおりを挟む
服のボタンを外して、左胸を見えるようにしたアゲハ。

よく見ると左腕の付け根辺りに羽の模様の入れ墨みたいな跡もあった。


「何から話そうか……正直何にも考えてない」

「全部、教えてほしい」

「………分かった。長くなるけど、全部話すよ」


アゲハの視線は自分の左胸にある核に移って、そのまま黙ってしまった。

部屋を見渡すとほとんどの人が集まっていて、アゲハの一挙一動を逃さず見てるって感じなのがちょっと怖い。


「……この世界に来て目を覚ましたら砂漠に一人で。どうしたらいいか分からなくて。とにかく帰りたいって一心だったけど、数歩歩いただけで倒れたんだ……あの日、実は午後からかなり苦しかったから、砂漠の暑さとか知らない場所とか、自分が倒れる要素は揃ってた。日本にあのままいてもヤバかったかもしれない……黙ってたけどもう先は長くないって言われてたから」


そう言って左胸に手を当てたアゲハ。

タイヨウさんも長くないって言ってたけど、本人から聞くのは違った重さがあった。


「薬持ってないし死ぬかな?って思った時に現れたのが花将軍ミスリだった。俺が異界人で身体が悪いって分かった上で助けてくれた……あの時は感謝したよ。知らない場所で親切にされたからね。花将軍の城で手当てされて、そこで色々と聞いた。ユートピアについてとかシンクロとか破壊者について。救済者はみんなを救うから俺も救ったんだって言われて信じたよね。だけど違うって分かった」

拳をグッと握って表情が険しくなってきた。

だから、私も聞くのが少し怖い。



「俺に親切にした理由……異界人のシンクロの力が目的。奴隷にして、救済者の手足となって戦わせるためだった。核を埋め込んでうまく融合したら新人類になる。常にシンクロを使えて力も技も、常人の比じゃないらしい。元からシンクロが強力な異界人がベースの新人類なら、病弱な俺でも新人類の中でもトップクラスの力を得るんじゃないかって思ったんだって。だから、無理矢理核を埋め込まれた。そして俺は異形になる事もなく、どの新人類よりも強い力を得た。核があれば常にシンクロ状態で、ブーストがかかった状態だから身体の弱さはカバーできて……だから今は全く苦しくないんだけど、核を埋め込まれた事によって自我を失った。だから、核を埋め込まれてから今までの事は……あまり覚えていない」


そこまで話してから右手で羽の模様に触れた。


「たぶんね、かなりの数の人を殺した……特に最初のうちはよく自我を取り戻せたから……気づいたら返り血まみれなんて、よくあった……調整が必要って言われて色々された。気づいたら……空がいて、空を殺そうとしてる自分に気づいた。ダメだって思ったけど、止まらなかった……」


そのまま握りつぶすように羽の模様を掴んだ。

右手は震えていて、表情は見たこともないくらい怖い顔。


「アイツらの自由に扱われるくらいなら……死んだ方がマシだった……!」


「……でもっ!」


アゲハの右手を掴んで、アゲハの顔を見て。

ちゃんと言わないと。

私の気持ち。

このままじゃ、アゲハがダメになるって思ったから。


「アゲハと生きてまた会えたことが……私は一番嬉しいよ?だから、核があったって何をしてたって、今こうやって会えたならそれでいい。私は“生きて”アゲハと会いたかったんだから!死んだ方がマシなんて言わないで?」


アゲハの右手から力が抜けたのが分かった。

すごい驚いた顔をして、それから泣きそうな顔で笑った。


「……空は凄いなぁ。変わらないね。ずーっと昔から、ずっと……。俺も変わりたくなかったなぁ。人間で、ありたかった………」



俯いて小さな声で言ったのは、胸にある模様は消すことはできない“救済者の奴隷の証”だという事だった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜

代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜 ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた 夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる 社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに 偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に 配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく 現2章

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

終焉の謳い手~破壊の騎士と旋律の戦姫~

柚月 ひなた
ファンタジー
理想郷≪アルカディア≫と名付けられた世界。 世界は紛争や魔獣の出現など、多くの問題を抱え混沌としていた。 そんな世界で、破壊の力を宿す騎士ルーカスは、旋律の戦姫イリアと出会う。 彼女は歌で魔術の奇跡を体現する詠唱士≪コラール≫。過去にルーカスを絶望から救った恩人だ。 だが、再会したイリアは記憶喪失でルーカスを覚えていなかった。 原因は呪詛。記憶がない不安と呪詛に苦しむ彼女にルーカスは「この名に懸けて誓おう。君を助け、君の力になると——」と、騎士の誓いを贈り奮い立つ。 かくして、ルーカスとイリアは仲間達と共に様々な問題と陰謀に立ち向かって行くが、やがて逃れ得ぬ宿命を知り、選択を迫られる。 何を救う為、何を犠牲にするのか——。 これは剣と魔法、歌と愛で紡ぐ、終焉と救済の物語。 ダークでスイートなバトルロマンスファンタジー、開幕。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭
ファンタジー
唐津 那雪、高校生、恋愛経験は特に無し。 メガネをかけたいかにもな非モテ少女。 そんな彼女はあるところで壊れた家を見つけ、魔力を感じた事で危機を感じて急いで家に帰って行った。 家に閉じこもるもそんな那雪を襲撃する人物、そしてその男を倒しに来た男、前原 一真と共に始める戦いの日々が幕を開ける! ※本作品はノベルアップ+にて掲載している紅魚 圭の作品の中の「魔導」のタグの付いた作品の設定や人物の名前などをある程度共有していますが、作品群としては全くの別物であります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

混沌の刻へ

風城国子智
ファンタジー
ファンタジー長編。 困り果てた少女に手を貸すだけだったはずの冒険者たちは、知らず知らずのうちに『世界の運命』に巻き込まれてしまっていた。 ※小説家になろう、pixiv、BCCKS掲載。

処理中です...