上 下
8 / 25

第8話 堕落する者

しおりを挟む

──第二王子のジャイアヌスはソフィと婚約破棄を果たした後も、フラフラと遊び続ける。

 国王の思いを知ってか知らずか、生来の遊び人であったジャイアヌスは国王に持ち込まれた縁談に配慮し、いささか束縛された生活を過ごしていたが今やそれが無くなったのだ。
 そして今日も仕事と称して遊ぶ為に、国王の元へ報告に向かう。

「父上、それでは地方へ視察に行って参ります」

「ああ、しっかりと働くのだぞ」

「もちろんです」

 ジャイアヌスは満面の笑みでそう応えて、国王の前から立ち去っていく。
 城内でも自由に行動するジャイアヌスだが、国王に直接バレてしまえば再び縁談が持ち込まれてしまうかもしれない。
 そこで視察と称し国王の目の届かない地方の町に出掛けては、遊び呆ける生活を続けているのだ。

「本当に大丈夫であろうか……」

 国王もそれを心配し御側付きとして配下をジャイアヌスの元に送るのだが、監視の役目を仰せつかったその者は懐柔され、全くもって抑止にはなっていない。むしろ国王への報告を改竄させられている。

「もちろんでございます国王様。ジャイアヌス様は立派に働いております」

「そうか……」

 第一王子が王位に興味を示さず他国を渡り歩いていることにより、この国の次期国王候補の筆頭はジャイアヌスだ。
 国王のお体の調子が優れなくない日が増えてきた今、いつ王位がジャイアヌスに引き継がれてもおかしくは無い。
 そんな彼に逆らい怒りを買ってしまえば今後の生活が危ぶまれてしまうので、城内には既にジャイアヌスを支える一派が数多く存在し、たとえ蛮行を働こうとも咎める者は少なくなってきている。
 だからこそジャイアヌスに気に入られようと近付こうとする人が数多くいることは言うまでもないのだが、そんな中で侍女のヨハンナはジャイアヌスのさらなる寵愛を受けるために画策していた。


──王都に戻ってきたジャイアヌスはヨハンナに運ばれてきた食事を食べている。

「ジャイアヌス様、ブドウ酒でございます」

「ああ、ありがとう」

 ジャイアヌスからは何時もの合図として片目をつぶる目配せを送り、ヨハンナもそれを肯定する為に同じ側の目をつぶる。
 そして時間が過ぎ辺りが静まる夜に、いつもの場所で二人は落ち合う。
 婚約者がいなくなったジャイアヌスではあるが、侍女を寵愛しているというのは衆目に晒して良いものでは無いので、城内ではなく未だに外で情交を繰り返しているのだ。

「こちらにくるのだ、ヨハンナ」

「はい、ジャイアヌス様」

 こうしてこれまでと変わらない情事が繰り返されるのだが、ヨハンナはいつもと違う心持ちでここに来ている。

──ヨハンナはこの日を迎えるにあたって念入りな準備をしてきているのだ。

 ソフィとの婚約を破棄したジャイアヌスの元には、他の貴族からの引き合いが後を絶たない。
 ただでさえ立場の弱い侍女であるヨハンナがジャイアヌスの寵愛を受け続けることは難しいのにも関わらず、地方への視察と貴族の付き合いによって今まで以上に一緒にいられる時間が少なくなっているのだ。
 今はまだジャイアヌスに気に入られているが、それもいつまで続くのか保証は無い。
 もしジャイアヌスが正式に妃を迎えたならば、現国王と同じように追放されかねないのだ。

「ヨハンナ、そろそろ」

「ジャイアヌス様、今日は大丈夫な日です。なのでこのまま続けて下さい」

「そうなのか?」

「はい、このままジャイアヌス様の温もりを感じさせて下さい」

 ヨハンナはそう囁くが、その言葉は嘘である。
 ヨハンナの目的はジャイアヌスの子供を作ることであり、お酒で思考力を落とした上で既成事実を作り上げるつもりなのだ。
 普段のジャイアヌスであればそんな過ちを行うことは無く、もしここが城内であれば止められたかもしれない。
 しかしヨハンナが用意したお酒には欲情を高める物が混ぜられ、ホロ酔い気分で高揚したジャイアヌスには正常な判断力が残っていなかった。


 こうしてヨハンナの企みは、人知れず進んでいったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

悪役令嬢に転生したみたいですが、せっかく金だけはあるんだからやりたい放題やっちゃおう!

下菊みこと
恋愛
元婚約者からお金をふんだくって逆ハーレムを楽しもうと思った矢先に大切な人を見つけただけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

百年の恋も冷めるというもの

有栖多于佳
恋愛
Web小説『ドロシーと10人の夫』という小説の世界にいることに気がついた子爵令嬢のマーガレットは、公爵令嬢のパトリシアが悪役令嬢として断罪されると、ハミルトン公爵家の寄子の一族全てが没落してしまうことを思い出す。パトリシアが断罪される卒業パーティーまであと48時間。時間がないマーガレットは自分の知っている全ての記憶の話をパトリシアへと話すのだった。 小説家になろう様にも投稿しております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

ワンコな婚約者は今日も私にだけ懐く

下菊みこと
恋愛
転生悪役令嬢と、彼女に対してワンコな婚約者のお話です。ヒロインに関してはドンマイ、って感じです。 小説家になろう様でも投稿しています。

高熱を出して倒れてから天の声が聞こえるようになった悪役令嬢のお話

下菊みこと
恋愛
高熱を出して倒れてから天の声が聞こえるようになった悪役令嬢。誰とも知らぬ天の声に導かれて、いつのまにか小説に出てくる悪役全員を救いヒロイン枠になる。その後も本物のヒロインとは良好な関係のまま、みんなが幸せになる。 みたいなお話です。天の声さん若干うるさいかも知れません。 小説家になろう様でも投稿しています。

追放された悪役令息だけど何故キミが追いかけて来るんだ

キトー
BL
 ※旧タイトル『追放された悪役令息を追いかけたのは?』  第三王子のエドワードから婚約破棄されたシャルノ。  曰く、自分が男爵家の生徒に嫉妬から嫌がらせをしたかららしい。  全く身に覚えが無いが弁解の余地も与えられず、完全に悪役にされて戸惑うシャルノ。エドワードの傍らにはシャルノを見て薄く笑みを浮かべる男爵家の嫡男ディナール。  公爵家からも廃嫡され、過酷な平民生活が待っているかと思えば、シャルノはわりと幸せに暮らしていた。  それと言うのもシャルノを陰ながら支えてくれた存在がいたからだ。  短い話です。  ネタバレを避ける為性描写のある話などに注意書きなどはありません。苦手な方はご注意ください。  感想やお気に入り登録など反応もらえるととても喜びます!   誤字脱字は教えていただけると助かります(^^)  ※一部暴力表現あり

【完結】悪役令嬢フェティローズは推し活ライフに夢中です ~来年の春には婚約破棄されると笑われた悪役令嬢ですが、そんなことより推しが尊い~

北城らんまる
恋愛
 美しい見た目が氷像のように動かず、その雰囲気の冷たさから、フェティローズは氷棘《こおり》の悪役令嬢と呼ばれている。しかし、フェティローズは心内のハイテンションを抑えるために、あえて感情を殺しているに過ぎなかった。  そんなフェティローズには、推しがいる。  婚約者であるザロヴィア・シースヴェンナだ。 「ザロヴィア様が今日もかっこいいわ!」  心の中で欲望を垂れ流しつつ、表では完璧な令嬢を演じるフェティ。  しかし学園の中には、フェティローズがザロヴィアの婚約者に相応しくないと思う生徒もいて……?  脳内妄想垂れ流しハイテンション勘違いしまくり令嬢(表では超絶完璧)×婚約者を心配してやまないイケメン貴公子との、学園ラブコメ──に見せかけたギャグ小説。 ※10話完結 ※頭をからっぽにしてお楽しみください ※シリアスさんはどこかへお引越し ※なろう、カクヨムにも掲載

処理中です...