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#13 変化する世界の中心で
しおりを挟む──ベルンヘルクの惨劇から十五年後。
人族の国にある、とある森の中には、とても仲睦まじい家族が住んでいます。
夫婦の間には男の子が産まれ、とても幸せに暮らしていました。
「リュカ! そんなことでは、騎士団に入ることなんて叶わないぞ」
「分かってるよ、父さん。でも、父さんが強すぎるんだよ」
「そうか? これでも手加減しているんだぞ?」
父と子は親子で剣の手合わせを行っている。
そこに母が、やってきて声を掛ける。
「二人とも、お疲れ様。そろそろご飯にしましょう!」
母の手にはサンドイッチの入ったバスケットがある。
「ああ、そうだな。いつも、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして。リュカは今日も勝てなかったの?」
母は地べたに座り込んでしまったリュカに話し掛ける。
「だって、父さんが強すぎるんだもん。僕なんかじゃ、勝てっこないよ!」
「あら、いいのかな弱音を吐いて。リュカは立派な騎士になるのではなかったの?」
母に意地悪な質問をされたリュカは頭を振るい否定する。
「そんなことはないよ! いつか、いや直ぐに父さんより強くなって、皆を守る最強の騎士になるんだ!!」
「ふふ、その意気よ」
ベルンヘルクの惨劇で世界に現れた生物は、後に魔物と呼ばれる存在になる。
人々は自分達の身を守るためにギルドという組織を確立し、所属するものたちは未開の地となった場所を開拓するという意味合いから、『冒険者』と呼ばれるようになった。
それでも最前線で闘い続ける騎士団こそが人族のなかで最強の組織であり、多くの子供たちは騎士になることを夢に見る。
「最強か……それなら昼からは、手加減無しでやろうか?」
「うぇぇ、やだよ。父さんが本気を出すと、怖いんだもん」
「いいのかそんなこと言って。リュカは最強になるんだろ?」
「そうだけど……本気の父さんは本当に魔王かってくらい怖いんだもん」
リュカがそう答えると、母と父は顔を見合わせて笑ってしまう。
「そうだな、父さんは魔王みたいに強いだろ? なら父さんを越えたら、リュカは勇者だな」
「なんだよ、二人して馬鹿にして! 絶対に見返してやる!!」
「そうだ、その意気だ。なら、続きを始めるぞ!」
父と子は再び手合わせを始め、森の中には木剣の乾いた音が響き渡る。
「暗くなる前には帰ってくるのよ、二人とも」
「ああ、分かった……愛してるよ、ニーナ」
「どうしたの急に?」
「いや、何だかそう言いたくなったんだよ」
「ふふ、変なの。でも、私も愛してるわ」
父は手合わせの最中なのだが、二人は見つめ合う。
「隙あり!」
それに割って入るようにリュカが剣を振るうも、父は平然と受け止める。
「ハハハ、そんな剣ではいつまで経っても俺には勝てないぞ!」
「まだまだ!」
それを見て母は笑みを溢しながら家路に付く。
世界は魔物という共通の敵を得て、融和の方向に進みだした。
人族にとっては魔物を倒すためには魔法が有効だということで、魔族にとっては魔物と戦える人の数という戦力が必要で、魔族と人族という垣根は徐々に取り払われたのだ。
人族を嫌っていたアモンが調印式に立っていたのを新聞で見て、二人は思わず笑ってしまった。
しかし世界は確実に良い方向に向かっていく。
そしてどんな困難があろうとも彼らであれば、きっと乗り越えられるのだろう。
──完──
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