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#11 刻まれる痛み
しおりを挟むニーナはベッドの上で長い眠りから目を覚ます。
疼くような感覚がしお腹を見ると、そこには剣で貫かれた傷痕が残されている。
「夢ではなかったのですね……」
ニーナは俯き人族に裏切られたことを悲しむ。
そこに物音に気付いたノーラが部屋に入って来て近付く。
「ニーナ様、お目覚めになられたのですね。本当に、本当に良かった」
ノーラは涙ながらに、ニーナの手を取り喜ぶ。
「ちょっと、ノーラ、どうしたの?」
余りにもな喜びように、ニーナは驚く。
「もうニーナ様はお目覚めにならないのかと、本当に心配したのです!」
ノーラの心配は当然で、ニーナが目を覚ますのは実に十日ぶりなのであるのだ。
「そう……私、そんなに寝てしまってたんだ……そうだ、ディアボロ様を、ディアボロ様を止めないと!」
ニーナの最後の記憶では怒り狂うディアボロの姿を見たところであるのだ。
ニーナはベッドから立ち上がろうとするも、急な動きで立ち眩みを起こしてしまう。
「いけません、ニーナ様。久しぶりに目を覚ましたばかりで、急に動かれては。まだ怪我も治っていなければ、血も足りていないのです」
「……ごめんなさい、ノーラ。ですがディアボロ様を止めなければ、人族との戦争になってしまいます!」
ニーナは声を張り上げて、ノーラに懇願する。
しかしノーラは頭を振るい否定を行う。
「いえ、そんなことにはなりません……ディアボロ様は、誰よりも、誰よりも偉大なお方ですから」
「どういうことなの、ノーラ?」
ニーナはノーラから、ディアボロが禁術を用いて魔族の領域と人族の領域を隔てたことを。
「そんな……そんなことをしたら、多くの民までもが巻き込まれてしまうではありませんか!」
「ええ、その通りです。ですから魔王様は、そうならぬよう各地に兵を配置なされました。お陰で魔族には怪我人すら出ていません」
「…………人族はどうなのですか?」
事前に対処することが出来た魔族に被害が出なかったことは良かったとして、突如として悪魔と相対することになった人族は準備など出来るはずがないのだ。
「……もちろん、無傷とはいきません。ですがそれは愚かなる人族がこれまでに行ってきたことに対する因果応報でしょう」
「ですが……」
ニーナは反論をしようと思うも言葉に詰まってしまう。
人族がこれまでに魔族の歩みよりに対して裏切りを行ってきたこと、そして自身を切り捨てた事実があるのだ。
人族の姫として民を思う気持ちもあるが、魔族の言い分も痛いほど分かってしまう。
「ですが、安心してください。魔族領域に近付いた軍隊は相応の被害が有りましたが、人族の領域には未だに悪魔は近づいていません」
「それは本当なのですか?」
「ええ、悪魔はまだ生まれたばかり。大きな力を持たない限り、安易に人族の領域へは近付かないようです」
生まれたばかりの悪魔の一つ一つは小さな個体である。
小さな個体は人族の普通の民でもしっかりと対処すれば、剣を持ち倒すことが叶うぐらいだ。
だが悪魔は成長し進化する。
そうなってしまえば普通の民では対処することは出来なくなってしまうばかりか、人族の領域にも攻め入るようになるだろう。
しかし、それはまた別のお話。
「そうですか…………そういえば、ディアボロ様はどこに?」
当面の不安が解消されたニーナは、未だに姿を見せないディアボロの事を訊ねる。
しかしノーラはこれまでの返答とうって変わって黙ってしまう。
「ねぇ、どうしたの? ディアボロ様は今、どこにいるの?」
「……申し訳御座いません。それは私の口からはお伝えすることが出来ないのです…………」
ノーラは俯きながらそう答えて黙り混んでしまい、二人の間には沈黙が流れるのであった。
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