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閑話 ラインハルトの冒険 その3
しおりを挟むラインハルトは薬師が作ったポーションが町中で売れなくなった理由を探る為、フェリを引き連れ冒険者として調査を開始することにした。
「こんにちは、ミーアさん」
「あら? ラインハルトさん、今度はどうされたのですか?」
「ちょっと、依頼を受けてみようかなと思いましてね……何か良い依頼はありますか?」
「そうですね…………掲示板に張り出されていますから、ご確認下さい」
「そうですよね……分かりました。確認してきます」
基本的に冒険者は掲示板に張り出されている種々様々な依頼の中から、自分に適しているであろう依頼を選択し受注するのだ。
ラインハルトはレッサードラゴンの一件以降、通常の方法で依頼を受けることはなく特別に依頼を斡旋してもらうようになっていた。
だからこそ掲示板を勧められたことに対して違和感を感じるラインハルトであるが、それが本来は当たり前であるので笑顔で指示に従うのだが……。
「妙だな……」
ラインハルトの現在の冒険者ランクはBランクだ。
本来はランクが上がるのにもっと時間が掛かるのだが、レッサードラゴンの一件もあり特例で三段跳びにランクアップした。
だからこそ高ランクの依頼を受けることが出来るのだが、しかし今回は調査が目的だ。
そこでラインハルトは冒険者にとってのボリュームゾーンであるCランク向けの依頼を探すのだが、掲示板に張り出されているのは低ランク向けの掃除依頼などの雑用系とA以上の高ランク向けの依頼だけであった。
これでは多くの冒険者にとってマトモな仕事を選択することが出来ない状況である。
「ミーアさん、今日は依頼が少ないのですか?」
「えっ……ああ、そうですね。表に出ているのが全てですよ」
「そうですか…………ではこの依頼を受けます」
Cランク向けの依頼が無いのであれば仕方がないと、ラインハルトはAランク向けの依頼書を掲示板から剥がして受け渡す。
「これを受注されるのですか……」
ミーアは依頼書を受け取ると戸惑いの表情をみせる。
「何か問題があるのですか?」
「い、いえ、問題はありませんが…………くれぐれも気を付けてくださいね」
「ええ、もちろんです」
ラインハルトが手にした依頼書の内容はキングバードの卵の入手というものだ。
その卵はキングの名に相応しい濃厚な味わいで、一部の愛好家からは絶大な支持を得ている食材である。
しかしながらキングバードの巣がある場所は険山として有名なサガルマータ連山の頂上にあるとされ、たどり着くことさえ困難なのにも関わらず更にキングバードもまた強いのだ。
だからこそ高い報酬であろうとも多くの冒険者は避ける依頼なのだが、ラインハルトには他の冒険者にはない特別な移動方法があるので気にせず受けることが出来る。
「……ならフェリ、頼めるかい?」
『うん、わかった』
町の外に出たラインハルトはフェリに話し掛けるとフェリは頷き、そして瞬く間に体が大きくなっていく。
そして膝丈ぐらいまでしかなく愛らしい大きさだった元の面影から勇ましい姿になった。
これはフェリが帰神化と呼ぶ魔法で本来あるべき姿に戻った結果であり、現世に降り立つにあたって押さえられていた力が徐々に復活しコントロール出来るようになったことで出来るようになったのだ。
そしてラインハルトはフェリに跨がり数刻もしないうちに、二人の目の前に広がったのは悠然たる山々である。
『さぁ、着いたよ』
フェリは本来ならば近付くのにすら丸一日は掛かる行程を、正しく一足飛びで駆け抜けたのだ。
「ふぅ……ありがとう。ならキングバードがどこにいるか情報を調べてみようか」
サガルマータ連山の何処かにいる筈なのだが闇雲に探しても見つけることは難しいので、まずは麓の村で農家のオジサンに聞き込みをする。
「悪いことは言わねぇ、止めときな」
「……何故ですか?」
ラインハルトが尋ねるとオジサンは首を降り、憐れんだ表情をみせる。
「おめぇさんは、あれだろ。オルタスの町の冒険者だろ?」
「えっ……なぜ、それが?」
素性を明かしていないというのに、ピタリと当てられるので、ラインハルトは戸惑いをみせる。
「オルタスの町の冒険者がここに来たのはもう三人目だからな。こんな依頼を受け付けさせるギルドの神経がわからんわ」
「……どういうことですか?」
「ん? おめぇさんも同じ口じゃないのか?」
上手く伝わらなかった話に首を傾げる。
そしてラインハルトはオジサンが知っていることを聞き出した。
「……つまり冒険者ギルドはポーションを人質に、キツい依頼のみを斡旋していると?」
「そうらしいぞ……まったくとんでもねぇ話だ」
本来であればもう少し町のギルドで調べれば分かりそうなものだが、ラインハルトはここに来てようやくその事実に辿り着く。
「…………ありがとう。だが依頼を引き受けた以上は達成したい。何かキングバードについて知っていることを教えてはくれないか?」
「……本気なのか? キングバードはおめぇさん一人で何とかなるような相手じゃねぇぞ?」
「大丈夫です。それに私は一人ではなく、心強い仲間がいますから」
ラインハルトの横にいるのは小さな姿に戻ったフェリだ。
その姿を見ても当然に安心は出来ないのだが、見捨てるわけにもいかないと情報は教えてくれる。
「……キングバードを見つけるには日が登り始める朝方を待つんだ。そうすれば帰巣する奴等を見付けられる」
「朝方ですか……」
未だに時間は昼を過ぎたばかりぐらいなのだ。
朝方まで待つにはかなりの時間がある。
「では情報を教えて下さったかわりに、農作業を手伝わせてくれませんか?」
「何言ってるんだおめぇ……そりゃ手伝ってくれるのはありがてぇが、おめぇさんに出来るのか?」
「いえ農作業は殆んど行ったことがありません。ですがこれから始める予定なので、覚えたいと思っているところなのです」
ラインハルトはエリスの為にも、自分も出来るようにならねばと思っているのだ。
「そうか……そういうことなら遠慮はしねぇぞ」
「はい、何でも手伝いますよ」
こうしてラインハルトはキングバードが現れるまで農家のオジサンのお世話になり、フェリはそれをあくびをしながら見つめ待つのであった。
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