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第20話 次なる一手

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 冒険者ギルドが薬師を蔑ろにするのであれば、私は弱い立場にある彼らを助けたい。
 薬師の待遇を改善するための王命なのにそれを反故にするなど許せないし、私がここで関わっている以上は徹底的に戦わなくてはいけないと思う。
 幸いにも私には平民が動かせないだけのお金を使うことが出来るのだから。

「お願いします、ギルドにでは無く私に作製したポーションを売るようにしてくれませんか? もちろんお金は本来得られたはずの銀貨五枚をお支払いします」
「……そんなことをして君は大丈夫なのかい? 一体どこからそんなお金が……」

 私が貴族であることを教えたら安心して貰えるかもしれない。
 けれども逆に警戒されてしまう可能性もあるだろう。
 今はこれ以上に余計な不安要素を増やしたくないので、明かすことが出来ず誤魔化し説得する。

「私のことは心配しなくても大丈夫ですよ。お金なら色々な人にお願いして充分に用意してありますから」
「そうか…………だがギルドがこれほどまでに抵抗するんだ、君はギルドに率先して対立することになる。本当に大丈夫なのかい?」

 もちろん私が行っていることはギルドの目論見を砕くことにある。
 私が町の薬師を取り込もうとしていることは直ぐにギルドへとバレるだろうけど、今さら別に隠すつもりもないので構わない。

「ええ、問題有りませんよ。間違っているのはギルドなのです。国王様の王命を蔑ろにすることの方が間違っていると思いませんか?」
「…………分かった。私は君に協力することにしよう。だが彼らの動きは普通とは違う。背後に何がいるか分からないから、充分に気を付けるべきだよ」
「ご忠告有り難うございます。でも大丈夫ですよ、私には心強い護衛がいますから!」

 私はそういって目線を下に落とす。
 横では常にフェリが目を光らせて警戒をしてくれているのだ。

「……その犬が護衛なのかい?」

 見た目はただのワンちゃんなので薬師のオジサンは首を傾げている。
 だけれどもフェリはラインハルト曰く、この町どころかこの国には敵がいないのではないかと思うぐらい強いらしい。

「ええ、この子が私の心強い護衛です!」
「そうか……なら、気を付けて帰るんだよ」

 誰が何を言おうとも私はフェリを信頼しているし、フェリも私を信じてくれている。
 そんなことを考えていることを知ってか知らずか、フェリが話し掛けてきた。

『けどみんな協力してくれて良かったね』
「うん。それだけ皆、今回のギルドのやり方に納得していないんだと思う。さぁ、残りの人たちにもお願いしに行こうか」

 こうして私はポーションを作っている町中の薬師にお願いしに回り、作製した全数を買い取る約束を取り付けることに成功した。
 ただ単にポーションを集めるのでなく、作製された全数を集めることにこそ意味がある。
 そうすることでギルドにはポーションが供給されないようになって、ポーションを買わなくては依頼を受注出来ないなどという行為を出来なくなるのだ。
 ポーションの絶対量には限りがあるのだから、他の町からポーションを運んでくるのにも限界があり効果は直ぐに現れることになるだろう。

「順調に集まっているようだね」

 集めたポーションを整理しているとラインハルトが話し掛けてくる。

「ええ、皆が協力してくれて良かった。でも集めるだけでは冒険者が困るから、早くお店を開店しないと」

 私は買い取ったポーションを新しく借りた大通り沿いの建物に運んでいる。
 冒険者がポーションを入手する場所が分からなくなってはいけないので、ここでポーションの販売を大々的に行う予定なのだ。

「しかし、これでギルドがどう動いてくるか……」
「ええ、素直に諦めてくれたらいいのだけれどね……」

 下手にギルドの抵抗が続いたとしたら、最も被害を被るのは冒険者だ。
 依頼もポーションも無い状態が続くのは、どう考えてもよろしくない。
 けれどギルドも依頼を受注したのに冒険者に斡旋し対応させなければ違約金が必要になるので、いつまでもポーションを売れないからといって依頼を溜め続けることも出来ないはずだ。

──そして私がポーションを買い集め初めてから一週間が経過した。

「いよいよだね」
「うん」

 ギルドのポーション在庫が尽きるであろう頃合いなので、私はようやくお店を開店させる。

「サクラ印のポーションを販売しています!」

 ニコに教えて貰ったように的確に伝わるように声を掛けていく。
 けれども道行く冒険者たちはチラッと様子を伺っただけで、直ぐに目を逸らされてしまう。
 しかし今はまだそれで構わなくて、最初はポーションを売ることが目的ではない。
 まずはギルドにはなくても町でポーションを買えるということを認識して貰えさえすればいいのだ。
 そしてその結果は思っていたよりも早く現れ、噂を聞き付けた冒険者たちが午後が訪れる前に押し寄せることになった。

「俺にポーションを売ってくれ!」
「はい! よろこんで!!」

 初めは一人、また一人と途切れ途切れに訪れていた冒険者が、次第に大挙してお店に訪れるようになる。
 確実な変化が起こったのでラインハルトに確かめてきて貰うと、私が販売を始める前からギルドには冒険者からクレームが入っていたらしい。
 これ以上通常の依頼斡旋をしないのであれば、他の町へ移動することを突き付けたそうだ。
 冒険者がいなければギルドは成り立たない。ギルドは公共的な使命があり存続し続けなければいけない以上、それは看過することの出来ない事態である。
 そこに追い討ちを掛けるように始まった、町のなかでのポーション販売。
 もう既にギルドが押さえることなど叶うはずがなかった。

「どうやら本当に勝ったみたいだね」
「ええ、本当に良かった……でも勝ったというより、スタートラインに戻れたという感じかしら。これで薬師の待遇が良くなってくれたら良いのだけれど……」

 ギルドはポーション販売による利益と存在理由を天秤に掛けて、当然の決断をして折れたのだ。
 沢山のお金を掛ける必要があったけど、これで薬師の待遇が改善されることになればいいな……そう思い初めた頃、その知らせは突然に訪れた。
 何が起こるか分からないので家でニコと二人で待機して貰っていたエレンが、息を切らしながら現れ口にしたのは……。

「エリスさん! ニコが……ニコが拐われた……」
「えっ……」

 ようやく事態が好転し初めたと思ったのに、悪意は私たちを逃してはくれないようだ。
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