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第11章 マーロ商会

#59 冷蔵庫

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 ハヤトは試作品に魔力バッテリーを内臓させて、冷蔵庫を完成させる。
 マーロ商会との交渉の為に、秘中の秘でもある魔力バッテリーを組み込むことは躊躇われたが、ウェルギリウスが手を回し悪用はされないようにしてくれるだろうと判断したのだ。
 アダムスにも魔力バッテリーを内臓させることに許可を求めたところ、意外にもすんなりと話が進み、交渉の道具に使う許しを得ることが出来た。
 これでマーロ商会と再び会談に臨む為の道具は整ったのだが、肝心な事の用意がまだである。

 ハヤトは相談をするためにもウェルギリウスの元に向かうことにした。

■■■

 ハヤトとヒソネは聖都市にあるウェルギリウスの自宅に到着し、実演の為に作った小型の冷蔵庫を持ち込む。それは小型ではあるが二段に仕切られて冷蔵と冷凍の実演が出来る優れものだ。

「これは一体、何なのかな?」

「開けて頂けると直ぐにわかりますよ」

 ウェルギリウスは不思議そうな顔をするも、恐る恐る冷蔵庫の扉を開ける。すると流れ出してきた冷気に驚き、そして中に入っていた瓶を取り出す。

「冷たい……これは魔法で冷やしておるのだな?」

「ええ、その通りです。もう一つの扉も開けてみてください」

 ウェルギリウスはハヤトの言葉に従い、下側の扉も開ける。そこには凍った液体の入った瓶が入っており、ウェルギリウスは再び驚く。

「凍っているだと……こんなことが……これも魔結晶で制御する技術かね?」

「はい、上下で二つの魔力バッテリーを用いていて、それぞれに程度の違う氷系の魔法を刻んでいるんですよ。それで冷蔵と冷凍を分けています。食材が傷まないように保存するための冷蔵庫という商品です」

「もはや驚くことは無いと思っていたが、こうして実物になるとその凄さが分かる。これは流通を変えてしまうかもしれんな……」

 遠くの場所から鮮度を保ち運ぶ為には、食材が傷まないようにしなければならない。
 日本では当然に冷蔵で輸送する技術が確立し、各家庭でも冷やして保存することが出来る。
 しかしこの世界では、これまでにそういった設備が確立しておらず、必要ならば魔法師が作り出した氷で保管するのが常だった。だがそれでは氷が溶けるまでという輸送の時間的制約が発生するか、魔法師を常駐させなければならないのでならず莫大な費用が掛かるので、食材の為に使われることなど滅多にない。

「価値をお分かり頂けて何よりです。これは魔法が使えなくとも普通の人が魔力を注ぐだけで使えますから、使い勝手は良いですからね。まぁ今はまだ作製コストが高すぎて一般向けに販売できるような値段ではないですが、商人には売れること間違いないでしょう」

「ああ、これがあれば運ぶことの出来なかった物を聖都市に持ってくることが出来る。それは莫大な利益を生むだろうからな」

 簡単に手に入れられる場所で入手して、入手困難な別の場所で売ることは商人の基本だ。そこに無いものだからこそ、付加価値が生まれる。
 これまで聖都市で手に入れることが難しかった生鮮食品を売れるとなれば、多くの人が買い求めるだろう。

「この冷蔵庫を交渉材料にと考えているのですが、その為にもウェルギリウスさんには約束して貰わなければならないことがあります」

「……それは、やはり魔力バッテリーを使用しているからかね?」

「はい……やはり魔力バッテリーを世に出すということは、それなりに覚悟をしなければいけません。こちらでも手は施すつもりですが、ウェルギリウスさんにはマーロ商会に魔力バッテリーを世に出さないことを約束させて欲しいのです」

 魔力バッテリーを複製することは簡単ではないだろうが、それでも不可能ではない。
 複製を防止する手立てを確立するまでは、冷蔵庫もそうだが魔力バッテリーを内臓した魔道具を対外的に商品として販売するわけにはいかないのだ。

「ふむ……ということはマーロ商会で冷蔵庫の使用を独占してしまって良いということかな?」

「……まぁ、そうなりますね」

 ウェルギリウスは直ぐに意図を理解し確認してくる。
 新たな市場の独占は商人にとってはまったくもって甘美な響きだ。
 ウェルギリウスは現役を退いているとはいえ、脳内ではバッチリとどれぐらいの利益がもたらされるか計算されているだろう。

「分かった。今回の提携話が纏まった暁には、マーロ商会の現会長には私が必ず約束をさせよう」

「ありがとうございます。断られたらどうしようかと思っていたので、良かったです」

「ハハハ、お互いにとって損が無いどころか利益しか無いのに断ることなどないよ。それに君の為になら、多少の無茶は聞いても良いかなと思っているよ」

「それはありがとうございます。ではお願いついでにもう一つ、お願いがあるのですが……」

「何かね?」

「ラーカス商会は冒険者向けの商品に対しては充実しているのですが、如何せん食材や料理に関してはからっきしなのです。交渉は自ら行いますが、どこに行けば良い食材を買え、聖都市でどの料理人に調理を頼めば良いのかお教え頂けないでしょうか?」

 ハヤトの頼みにウェルギリウスは何やら考え込んだ険しい表情になる。

「ふむ……その情報料は高くつぐぞ?」

「……ええ、当然に見あった対価はお支払いたします」

 息を飲んで返事をしたハヤトを見て、ウェルギリウスはニヤリとし再び口を開く。

「それならば私にも美味しい料理を振る舞って貰おうかな」

「えっ!? そんなことで良いのですか?」

「ああ、構わないよ。だが私の舌を納得させるだけの、とびっきりのおもてなしを頼むよ」

「はい!」

 こうしてハヤトはウェルギリウスに再交渉の場を整える手伝いをしてもらい、マーロ商会と再び交渉を行う準備に取りかかった。

 ウェルギリウスに教えて貰った各地に点在する最高の食材を仕入れ、会場も最高の準備を整えていく。
 ウェルギリウスの紹介だと伝えると、皆が快く交渉に応じてくれたところを見るに、ウェルギリウスの人柄が伺える。そして何処に運ぶのか伝えると驚かれるのをセットにしながら、食材を購入しては聖都市に運んでいく。

 お店の一室を会談の場とするのだが、そこには実験でボツとなった物も組み合わせを変え設置した。この世界には無い快適な空間を作り出せ、ヒソネにも大変好評だったので、交渉相手にも喜ばれるに違いない。

 こうして全ての準備が整い、ラーカス商会の行く末を決める、マーロ商会との再交渉が始まるのであった。
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みんなの感想(5件)

ミツテル
2019.05.28 ミツテル
ネタバレ含む
シグマ
2019.05.28 シグマ

ご指摘ありがとうございます。

パッと見でどこなのか分からなかったので、そのままにしときます……。

スミマセン。

まだ色々と文体が安定していない中で書いた作品なので、後日に全面改稿を予定しています。なのでその際に見つけて修正しますm(__)m

解除
1+1=2
2018.12.18 1+1=2
ネタバレ含む
シグマ
2018.12.18 シグマ

感想ありがとうございます。

指摘箇所を修正しましたm(__)m

更新、頑張ります( *・ω・)

解除
おはよ
2018.08.20 おはよ
ネタバレ含む
シグマ
2018.08.20 シグマ

感想有難うございます。

そう言って貰えると励みになります。

魔王を倒すのはもう一つの話に任せるつもりなのでアヴラムに出逢う所までが区切りかなと思っていますが、それまでにこの商会をNo.1にしないといけないので今後はその過程を書いていく予定です。

とりあえずはアヴラムの方を5万字書かないといけないと思って頑張っているので少し更新が止まりぎみですが、ゆっくりと待っていただければ幸いです(´-ω-`)

解除

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