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第9章 事業拡大

#50 プレオープン

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 従業員の問題は孤児院の子供達に手伝って貰うという解決策を見出だし、表に出なければいけない販売員はラーカス商会からの応援スタッフでまかなうことで解決した。
 そして商品の陳列も終え、いよいよプレオープンの日がやって来た。

■■■

 ハヤトは従業員を集めて、挨拶をする。

「皆、ここまでよくやってくれた。プレオープンの日をこうして無事に迎えられたことを嬉しく思う。本当にありがとう」

 しかしここで質問が飛ぶ。

「どうして、オープンする事を大々的に宣伝しないのですか?」

「いい質問だね。確かに宣伝をすることでお客の数は増えるだろう。けど僕たちはまだお店の運営になれていない人が多い。だからいきなり多くのお客が押し寄せてきたら対応出来ないばかりかミスも増えてしまうかもしれないだろ? だから最初は人が余りこないように制限をかけたいんだ」

 出来れば知り合いのみを招待したい所ではあるが、そこまで手を回す時間はなかったので宣伝なしにお店を開けるということにしたのだ。
 しかし、ここで予想外の事を言われる。

「すみません、そうとは知らずに知り合いにオープンすることを話してしまったのですが……」

「まぁ、それぐらいなら大丈夫だと思うからいいよ」

 不安がよぎり、悪い予感がするが気のせいだろう。
 しかしその予感は的中してしまい、多くの従業員だけでなく、ウェルギリウスまでもが知人に話してしまっているらしい。

「ま、まぁ、皆悪気があったわけではないし何とかなる……はず」

■■■

 しかし予感は的中してしまい、まだ回転する前だというのにお店の前には人だかりが出来てしまった。
 そうなってしまえば、ここは大通りであり、野次馬が野次馬を呼んでしまう。

「これは不味いな……どうしようかヒソネさん?」

「皆に口止めをしなかった貴方が悪いのですから、ご自分で何とかしてください」

「そんな……とも言ってはられないか。ならオープンするけどまずは人数制限を掛けよう」

「人数制限ってどうやって?」

 お店の外は順番を待つように並んでいるわけではなく、文字通り群がっているだけだ。
 近くにいるからとお店に入れるのでは、目当ての商品が買えずにクレームに繋がるかもしれない。

「なら従業員に知り合いを見つけ出して先に入れる……のは不公平だし……うーん困ったな」

 誰しもが納得いき不満の出ない方法など無いのかもしれないが、直ぐにでも考え出すしかない。
 ハヤトの隣では心配そうに子供が袖の裾を握りながら見つめてきている。

「ごめんな心配かけて。でも大丈夫だから皆と一緒に待っててくれるか?」

「うん、お兄ちゃんならきっと何とか出来るよ!」

 子供は何とも嬉しい言葉をハヤトに掛けて去っていく。

「うーん、人を制限する、人を分ける、優劣をつける?」

 あと少しで何か良い方法を出せそうなのだが、そのあと少しが出てこない。
 でも何か良い答えは知っているはずなのだ。
 そして、ふと自分の手を見つめる。

「グーパー、グーパー……そうかじゃんけんで決めよう!」

「じゃんけんとは何ですか?」

「そうかヒソネさんは知らないですよね。じゃんけんとは僕が元いた世界の遊びで、タイミングを合わせてグーチョキパーの三択の選択肢の一つを手で掲げて勝敗を決める遊びです」

 実際にヒソネの前で、一人でじゃんけんの実演をして見せる。
 そして皆の前でデモンストレーションをしてやり方を伝える。

「確かにそれなら納得していただけるかもしれませんね……でも負けてなかなか中に入れない人が怒るかも知れないですよ?」

「そうだな……負けた人には回復薬を一本か後日の優先入場券を、引き分けた人には回復薬を上げるということでどうだ?」

「まぁそれなら何とか納得してくれるかも知れませんね」

 回復薬を大量生産出来るようになるなったからこその手法である。
 だからこそヒソネも回復薬を景品にすることを納得してくれた。
  
「よし後は、じゃんけん大会をしたら待っている人にきちんと列に並んで貰うことで、追加で並んだ人が分かるようにしよう」

「そんなことしてくれますかね?」

「ならばなかったら、引換券は無効と言えばなんとかなるでしょう」

「わかりました。では引換券や景品の準備を急いでしますので、他の段取りを進めておいて下さい」

「分かった」

 ということで即席のじゃんけん大会を開催し、いよいよオープンすることになった。

■■■

 最初は外で並んでいるお客に[じゃんけん]という遊びを教える所から始める。
 優劣を石、鋏、紙で表すと案の定、石が紙に負ける意味が分からないと言われるも、そういうものなのだと伝えるしかない。
 そして一度のデモンストレーションを行った後に、いよいよ本番を迎える。

「えー、それでは皆さま大変お待たせしましたが、いよいよお店をオープンさせて頂きます。ですが先程も説明した通り、これだけの人数を受け入れる体制を整えていませんので、じゃんけんを行い入場規制をかけさせていただきたいと思います」

 当然のように入れなくて商品を買えなかったらどうするのかヤジが飛んで来る。

「えー、ご質問がありましたが、じゃんけんに勝った方はそのまま入場して頂き、引き分けた方には粗品として回復薬を一本差し上げます。そして負けた方には回復薬か後日の優先入場券を差し上げる予定です」
 
 効果が他より高いと噂になり、ラーカス商会の人気商品である回復薬を貰えると聞いてヤジは収まる。

「他に質問がなければ、じゃんけん大会を始めたいと思いますが、よろしいですか? 宜しいですね。それでは皆さん、よく見えるように手を上に挙げてください」

 不正を防止する体だが、こんなことで防げるハズはない。
 しかし抑止力程度にはなるし、何より分かりやすく一体感が生まれる。

「それではいきますよ! さいしょはぐー、じゃんけんぽん!」

 じゃんけんの結果を受けてあちこちで悲喜の声が聞こえる。
 そしていつの間にか関係ないのに孤児院の子供達までじゃんけんをしていた。

「んん、まぁいいか。それでは負けと引き分けの方はその場にしゃがんで頂き、まずは勝った方のみ入場してください」

 じゃんけんに参加していた子供達にも手伝って貰って、お客を誘導する。

「それでは残った皆さまは、引き分けた方と負けた方でべつべつに並んでください。これから景品の引換券を配ります。列を乱した方の引換券は無効とさせていただきますのでお気をつけください」

 比較的、客層に身内が多く、クレームなくかなりスムーズに動いてくれるので助かる。
 そして引換券を持ったヒソネと交代し、ハヤトはお店の中に入ることにする。

■■■

 店内は既に熱気に包まれて、商品を吟味している客で溢れている。
 それでもやはり一番の人気はここでしか手に入らない丸薬と軟膏の回復薬だ。
 ひっきりなしに補充を繰り返しており、非常にバタバタしてしまっている。

「やっぱり、いきなりこんな人数は大変だよな……」

「店長! そんなとこで立ってないで手伝って下さい!」

「ああそうだな、すまんすまん」

 ということで、ひたすら忙しい一日がこのまま嵐のように過ぎ去っていったのであった。

■■■

 無事に並んでくれたお客を捌けることができ、商品も少なくなったのでお店を閉めることにした。

「いやー、凄かった。それにしても皆お疲れ様! 後片付けは明日で良いから、今日はもうゆっくり休んでくれ!」

 実際のオープンはまだ先に控えいるにも関わらず、今からこの様子では先が危ぶまれる。

「どうしましょうかヒソネさん」

「そうですね……とりあえず[じゃんけん]大会をこのお店の名物にしましょう」

「ハハ、そんな冗談……本気ですか?」

「ええ、本気ですとも。既に店内でも遊んでるもとい奢りを掛けてじゃんけんをしてましたよ」

「それまた男気がある……じゃなくて、マジですか!? って、まぁそれはいいんですけど、お店の運営はどうしましょうか?」

「とりあえずはなれるまでは入場規制を続けるべきですね」

「まぁ暫くしたら落ち着くとは思うけど、そうするしかないか。それはさておき商品の売れ行きに変わったことはなかったですか? 例えば変なものが早く売れたとか」

「そうですね……どれも売れたのですが意外だったのはハヤトさんが練習で使った小さい魔石が直ぐに売れ切れましたね」

「へぇー、あんなものが。でも確かに使い道が多いですし、魔道具をこの店の売りとして商品開発しても良いかもしれませんね」


 こうして予想外のことが起こったものの、無事にお店を開くことが出来たことは良かった。
 しかし回復薬や量産剣だけでは、他の店が真似することも出来て今後が危ぶまれるので新しい商品開発を進めることにした。
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