アネモネの咲く頃に。

シグマ

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とある祓い屋の二日間

第3話 心の有り様

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 千絵さんに事の経緯を説明して貰うと、やはりこの娘は心に闇を抱えていたみたいだ。そして彼女の説明が本当だとすると……。

「なるほど、もしかすると千絵さんが鬼火を見えたのは、その鬼火が千絵さんの悪感情より生まれたものだったからかもしれません…………しかし本当に鬼が成長したとすると、不味いことになりますね」
「不味いって──まさか他の人に危害が及ぶのですか!?」
「その可能性もありますが、むしろ自分の心配をした方が良いでしょう」
「えっ……一体どういうことですか?」
「本来、鬼は様々な生き物から負の感情を集めるものです。しかしその鬼は千絵さんからしか力を得ていないと言っても過言ではない。そうすると、鬼が新たに力を欲した時にまず向かうのが千絵さんになるのです」

 受け入れ難い話かもしれないが、狙われていると心構えが出来なければ対処出来る物も出来ない。

「ええ!? なら私はその鬼に……」
「間違いなく襲ってくるでしょうね」
「そんな……」

 千絵さんは私の話を聞き、かなりショックを受けている様子である。それを乗り越えるだけの強さがあればあるいは…………しかし、やはり彼女の心は闇に染まり始めてしまう。

「千絵さん、千絵さん!」

 千絵さんの肩を揺すり、強制的に意識を引き付ける。

「駄目です、心を強く持ってください。鬼は負の感情を狙うのですから、そんなことでは鬼に喰われてしまいますよ」
「そうでした……でも、でも……」
「辛いことは誰しにもあります。ですが心を憎しみに委ねてはなりません」
「そんなこと言ったって、簡単に感情を押さえることなんて出来ません!」
「押さえるのではなく、楽しいことで心を埋めなさい。負の感情を持たない人なんていないのだから、少しでも正の感情を増やすのです」
「そんなこと言ったって……」
「難しいことを考えなくて大丈夫。少しでも楽しかった記憶を考えるだけでいいのです」
「楽しかった記憶…………」

 心を意識的にコントロールするのは難しいものだ。それならばより強い感情を引き出し上書きしてしまうのが確実だ。

「どうやら、落ち着いたみたいですね」
「はい、少しだけ自分の気持ちが整理された気がします」
「それは良かった。本当であればその鬼を倒すまでは側にいて貰いたいのですが、今日はもう遅いですし、親御さんが心配する前に家に帰りなさい」
「そうですね……今日は本当にありがとうございました」
「いや、君がこちらの世界に足を踏み込んでしまったのは私が直ぐに鬼火を消せなかったからだ。本当にすまない」
「そんな、東雲さんのせいじゃなくて悪いのは落ち込んでいた私ですし……」

 千絵さんと会話をしていると、調査を終えた蓮が帰ってきて、会話に入ってくる。

「そうですよ東雲さん、そんな奴に頭を下げる必要なんてないですよ」
れん、帰って来たのか。だが客人にそんな口の聞き方は駄目ですよ」
「はいはい、分かりましたよ。そんなことより調べて来ましたけど、中々に厄介ですね……」

 蓮の報告によると、逃げた鬼の消息は辿れなかったが、やはり第三段階までしていることは確実なようである。
 その鬼の狙いが千絵さんであることは不幸中の幸いであり、人的被害は他に出ていないようだが街に点々と鬼による痕跡が残っていたそうだ。

 想定していたこととは言っても、状況は良いものではない。この街、そして千絵さんを守る為に、何か手を打たなくてはいけないだろう。
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