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第2話

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 ゼプト王子とお会いした日から数日が経っても、私はお呼びされることがなかった。
 そして幾週かが経過した頃にようやくお声がかかり、貴族を召集した晩餐会に呼ばれる。
 しかしそこで私は予想だにしない一言を、婚約者であるゼプト王子より浴びせられことになった。

「皆のもの聞いてくれ! 私は今日この時をもって、父上が結んだエクサ嬢との婚約を破棄させて貰う!」

 いきなりのことで意味が分からず、取り敢えず理由を尋ねる。

「お待ち下さい、ゼプト様。何故にいきなりそのようなお話になられたのか、理由を教えて頂けますでしょうか?」
「理由? そんなもの幾らでもあろう! 私腹を肥やし膨れ上がったその体が私に相応しいとでも思っているのか? そもそも父上が勝手に決めた婚約だ。私は卑しい身分であるお前との婚約を私は認めていない!」

 膨れ上がったとは失礼な……貴族の例がつけるコルセットはキツすぎて嫌いなだけで、そこまでは太っていないつもりなのだけれども……。
 それにしても反論するのも馬鹿らしい理由で、私との婚約破棄を決断なされたものだ。
 しかし国王が不在の晩餐会を狙って、婚約破棄を突き付けてきたのだから覚悟はあるのでしょう。
 それほどまでに私との婚約が嫌だったのであれば、こちらからも願い下げです。

「……分かりました。お話はそれだけですか?」

 扇子で口元を隠しながら答える。

「そうだ、お前の顔などもう見たくもないわ。早くここから出て行くがよい!」
「畏まりました。ゼプト様。皆さんも折角の晩餐会をお騒がせして申し訳ありませんでした。それでは失礼致します」

 ゼプト王子を支持する貴族が集められていたのであろう。
 私は笑い者にされながら、逃げ出すように王宮を出る。

「セバス、出して頂戴。この国にいては未来がないかもしれないわ。急いで準備を進めます」
「──畏まりました、お嬢様」

 馬車に揺られ屋敷に戻った私は両親に何があったかを伝え、そして前々より伝えてあった案を実行に移すことに決めたことを話す。

「そうか……エクサがそう決めたなら私は止めない。既にミリオン家の家督はエクサに譲ったのだからね。だが……こんなことになろうとは残念だ……」
「ええ、私もそう思います。ですがこれ以上はこの国に留まり続ける理由がありませんもの」

 この国で一財を築いたミリオン家が払う税は、それは莫大な金額だ。
 これまではそれも致し方なしと考えていたし、私たちが支えなくてはいけないと考えていた。
 けれども同時に様々なリスクを考えて他国へ事業を拡大する準備も進めていたのだ。

「……分かった。それならば直ぐに準備を進めよう。先方の国との調整は私が行っておくから」
「ええお願いしますわ、御父様」

 本当に実行に移すことになろうとは思っていなかったけど、いずれあの王子が即位したならば更なる重税を課され立ち行かなくなる可能性が高いのだ。
 それに向こうから手を切ることを決めたのだから、これからも私がわざわざこの国を支え続ける理由も無い。

 こうしてミリオン家はデフォルト王国を見限り、国外へ脱出を図ったのであった。
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