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第 三 話
しおりを挟む僕は治療室から未だ目覚めぬ、女剣士に少しの間来れない事を告げると、その足で女僧侶アリシア・セレイブが居るであろう聖なる町、セントモーゼスへ向かった。
僕は知らずに毒を盛られたとは言え、至上最強の生物を仕留める事が出来る、クラス規格外の最高火力を誇る重火器龍撃砲すら効かない、絶対的防御力だけが取り柄だった僕が、たった一杯の飲み物で死にかけたという事実に心底、恐れを感じていた。そして、新たな課題でもある『 毒物 』による弱点を克服する為、ある伝手で軍事系情報屋から得た秘策を試しに、スレイドラグナと言うあらゆる系統のアイテムやアーティファクトの開発が盛んな町へ立ち寄ることにした。
魔法が一切受け付けやしない、この僕の忌わしい対価の唯一の解決策が、あの心優しい女剣士の提案であった『 アイテム 』での代用だった。
その各種『 アイテム 』をこの町に住む名匠錬金術師に錬成してもらっていた。そして、その名匠は僕の師でもあった。
僕は絶対的防御力でパーティーの皆を守るのは容易いなどと、少しでも息巻いていた自分が恥ずかしい。そんな自信過剰な勇者スキルも今では、見るに耐えない容姿とあの過剰であった自信さえを微塵も感じさせ無い自分を、師には絶対に見られたくもないし、見せたくもなかった。
なにせ、最大の汚点は勇者の職さえ失っている事なのだから。
救いは師の店とは逆の方角に目当ての店があった事だ。僕は師と出くわす前に事を済ませる為、最短距離で目的地へと目指した。
十数分後、何事も無く目当ての店の裏にたどり着いた。
僕は扉を軽くノックをすると、店主との裏やり取りで目印とした、勇者の指輪を戸の小さな丸窓へ近付けた。
「 勇者殿、入りなさい 」
少し開いた扉の隙間から、老人の小声がするとすぐに建物の中へと招かれた。
僕は周りに気付かれない様、音を立てずに速やかに扉の奥へと入った。
扉を静かに閉じると、老人は部屋の中央にあるランタンに光を灯していた。
「 災難じゃったの、勇者殿 」
「 お恥ずかしい話、もう、勇者でもないのですけどね 」
畏まる僕に見兼ねてか、老人は昔の話を口にする。
「 何を言う。貴方はこの町を救った英雄ではないか。私にとってどんな事があろうとも勇者様じゃよ 」
「 …ありがとうございます 」
今現在、僕の心の状態には、信用における唯一のこの老人の言葉に救われる思いだった。
「 勇者殿、覚悟は出来ていますかな? 」
「 はい。一番の被害者である女剣士の償いもそうですが、要因でもある裏切り者に直接会って、理由を知りたいのです。そんな一人旅に降りかかるであろう困難に弱点はなるべく潰しておきたのです。覚悟は既に出来ています 」
「 …わかりました。副作用もちゃんとご理解いただけてますかな? 」
「 勿論です。 」
「 では。勇者殿、此方へ 」
僕は奥の薄暗い部屋のベッドで横になると、老人が部屋の隅にある棚から、怪しく光を放つ赤い小瓶を一つ手に取って近付いてきた。
僕にはその小瓶の中味が何なのかを知っていた。その中味を使って毒の耐性を強化した人物を知っているからだ。
僕は麻酔をかけられ、施術が始まる。目覚めた時には、あの毒の苦しみを数日味わうことになるが、あの時、女剣士の悲痛の叫びと、血飛沫を前にした僕の心の痛みに比べたら、大した事はない。
僕の身体に麻酔が回ってゆく、老人の声が遠のく、そして視界も徐々に狭くそして、暗くなっていった…。
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