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最 終 話
しおりを挟む「 そう…これで最後… 」
周りの音が聞こえない。
自分自身の速いリズムで刻む心音しか入ってこなかった。
学園生活が走馬灯の様に著しく頭を駆け巡る。
浮かぶ映像を整理しながら、階段をゆっくり踏みしめて上がっていった。
お化粧はいつもより時間をかけた。
少しだけ胸元の開いている、大人びた紅いドレスを選んだ。
彼が最初に褒めた黄金色の髪は、毛先まで丁寧に編んで整えた。
そんな、彼女の碧い瞳は少し潤んで、まるで宝石のように輝いていた。
「 最後くらい、彼は私のことを見てくれるのかしら? 」
『 白金の間 』に続く長い廊下に、少しだけ無理をしたヒールの音がテンポ良く響き渡る。
部屋の前で立ち止まる。
大勢の人の飛び交う声が、扉の隙間から漏れていた。
この扉が隔てた向こう側には学園生活最後の舞台。
私は一呼吸おくと舞台の幕を開けた。
『 白金の間 』の煌びやかな装飾のある絨毯が敷き詰められた、フロアの中央へ向かって優雅に歩いていく。
彼の視界にすぐ私が入ったようだ。
血相を変え、人をかき分けながら私の方へ歩み寄って来る。
そして、彼は口を開いた。
「 ディアマンテ公爵令嬢 クローディア! 今、この時をもって貴様との婚約は破棄だ!! 」
そう、セリフを吐き捨てた彼のすぐ傍に、目障りなピンクのあの娘が口元を歪ませニヤついている。
本当に癇に障る娘ね。けれど、それも今日で最後…
「 えぇ、存じておりましたわよ。殿下、その娘と末永くお幸せに 」
私はこちらに向けた彼の視線を逃さず、ジッと見つめてこう言う。
「 最後に一言だけ、よろしいかしら? 」
「 …いいだろう 」
身構える彼の強張った顔とは対照的により自然で穏やかな表情をしている自分がいた。
「 私はそれでも、貴方を愛しておりました 」
私はこの上ない笑みで彼を見つめていた。
頬を伝う涙を感じたが表情は崩さない。
「 さようなら、殿下 」
私は向きを変え歩み出す。
取り乱した彼の見開い瞳には、私はどの様に写ったのかしらね?
ヒロインのお得意の魅了魔法が解けたのなら、
私はそれだけで充分満足だった。
「 クローディア!! 」
彼の声が聞こえたような気がした。
それでも私はもう、振り返りはしない。ほんと馬鹿なひと。
緞帳を降ろすかのように重く扉が閉まっていく。
「 本当に…本当に終わったのね… 」
まさか、こんな世界に転生するなんて、しかも、自分が悪役令嬢だなんて、認めたくはなかった…
自分でない自分を演じるのは、もう、懲り懲り。
嗚呼、お父様に何て言われるのかしらね。
当然、勘当に爵位は剥奪。何者でもない、ただのクローディアね。
私はヒールを脱ぎ捨て、裸足で軽やかに馳ける。
8年モノの黄金色の長い髪をダガーでバッサリと切り落とし、永く染まった悪役令嬢にお別れをした。
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