105 / 122
8人目
事故
しおりを挟む
「どうにかなったか……パラサイトドラゴン三体に出くわした時はどうなることかと思ったが」
「そっちも上手くいったようだな」
「あぁ……なんとか、な」
颯爽とパラサイトドラゴンが地に伏して舞い上がる胞子煙の中から現れたマサトとミレイの二人に声をかける。
ほとんど全力を使い果たしたせいでパラサイトドラゴン二体を倒した後、自由落下していた俺だったが、メイラによるとシズクが無事救出してくれたらしい。その後、リューロとミレイがドラゴンにトドメを刺すのを眺めながら少し休んだお陰で、もう普通に歩けるぐらいには回復していた。
「それより腕を治してくれるかい」
「あ……あぁ、<治癒>」
ミレイが雑にぐちゃぐちゃに抉れて肉と骨が露出した左肩をこちらに向けてくるものだから、俺は少し引きながらもスキルを発動してやれば、ミレイの左腕が眩い光で満たされた。次の瞬間には何事も無かったように腕が生えていて、ミレイとメイラは目を丸くした。
「へぇ、これは凄いね。まるで魔法じゃないか」
「いや魔法じゃなくてスキルだが」
「ふはっ」
突如よく分からない例えをするミレイに俺はすかさず訂正を入れる。と、マサトが噴き出した。そのらしくない様子に俺が呆然としていると、続いてシズク、メイラも笑いをこぼす。
俺だけが首を傾げている中、涙目になりながらシズクがミレイの背中を叩く。
「あははっ、違うよミレイ。この世界フツーに魔法はあるから、ややこしくなっちゃってるって。リューロも無意識にツッコんでるし!」
「あっそうか、そういえばそうだったな。じゃあ奇跡って感じだ」
なにやらよく分からないままだが解決したらしい。
「よく分からないが……でも、あまり怪我しないでくれよ。誰かが傷付いてるのも見たくないし、痛みはあるんだから」
「これだけの実力者が集まってりゃあ、そうそう怪我するようなことにはならないさ」
「それもそうか……ミレイもマサトも帝国叩き上げの兵だし、シズクも百年前からの英雄だもんな」
「何言ってんだい、アンタも中々ヤバいよ」
「え?」
呆れたような目でミレイがこちらを見てくる。
「アタシは仕事上、各国を回ってその過程で何人もの強者と接してきたがソイツらと比べても、リューロは頭ひとつ抜けているぐらいのバケモンだよ。アンタに勝てる奴なんて……うん、ほとんど居ないんじゃないかい」
「俺も同意だ……そもそものレベルが高い上に数多のスキルと魔法があるのはかなり脅威だな。世界の五本の指には入るだろう。敵には回したくないな」
「そうね。私は今までの戦闘を見ていないけど、パラサイトドラゴンのブレスを受け止めるなんて普通の人間にはできないもの」
ミレイに続いてマサトとメイラまでもが俺のことをまるで最強の一角かのように語る。それに俺は俯いてしまう。
「いや、いやいやいや……俺は、俺自身は決して強くないんだ」
俺は自分の強さを自覚したくなかった。それは積み上げた屍の数だと知っているから。だから褒められてむず痒い自分が本当に嫌で、でも力を否定するのもみんなに悪い気がした。
「リューロ……死はいつか乗り越えればいいんだよ。捨ててきたものだけが、あなたをあなた たらしめるんだから」
シズクだけが俺の気持ちを分かっているのか、諭すようにそう呟いた。
***
「そろそろ行くか」
三体のパラサイトドラゴンとの戦闘を終えたあと、各々再び出発の準備を整える時間、という名の五分ほどの自由時間を俺はそう言って切り上げる。
マサトとミレイはさっきの戦闘の反省点をまとめているし、シズクはぼーっと遠くを眺めている。メイラはちょうどあった椅子のような岩に腰掛けて休憩していた。
「分かっtっ……っとっと」
メイラが岩からよっこいしょと立ち上がろうとし、体勢を崩す。
「大丈夫か、うおっ!」
そんな彼女を受け止めようとした俺の顔面に彼女の肘がピッタリの角度で入った。パキッ──という音とともに俺は尻もちをつく。
「あっ……」
「っ痛てて……ってアレ?」
尻を擦りながらも、ミレイの手を借りて立つと、そこで初めて呼吸が急に楽になったことに気付く。その違和感に俺が手で顔を触れば、手のひらと顔の間になんの隔たりもなかった。
──マスクが外れている……。
咄嗟に呼吸を止める。が、しかしそれは遅すぎる気もした。
「はぁっ? ちょっと……!」
「大丈夫だ、シズク。まだ吸ってない」
メイラを分かりやすく睨みながら、シズクが慌てて俺の口を抑える。そんな彼女に俺は心の中では焦ってるのを隠して、モゴモゴと心配無いと伝えた。
実際、尻もちをついたと言っても呼吸器系はそれほど地面に近付いた訳でもないし、痛みで瞬間的に呼吸が止まるのだから吸ってない可能性の方が高い……ハズ。そう自分に言い聞かせる。
「一度戻るしかないね、『セーフゾーン』からそこまで離れてないのは不幸中の幸いだった」
「ミレイの意見に賛成だ。あと、簡易的なものだが……まぁ無いよりはマシだろう。出来るだけ慎重に歩け」
マサトが空気の壁を俺の首から箱型に空気を伸ばしてくれたようだ。重さは感じないが、頭のてっぺん以外を見えない壁に覆われていることを俺は手で触って確かめる。
結局、俺たちは来た道を戻ることになった。
「そっちも上手くいったようだな」
「あぁ……なんとか、な」
颯爽とパラサイトドラゴンが地に伏して舞い上がる胞子煙の中から現れたマサトとミレイの二人に声をかける。
ほとんど全力を使い果たしたせいでパラサイトドラゴン二体を倒した後、自由落下していた俺だったが、メイラによるとシズクが無事救出してくれたらしい。その後、リューロとミレイがドラゴンにトドメを刺すのを眺めながら少し休んだお陰で、もう普通に歩けるぐらいには回復していた。
「それより腕を治してくれるかい」
「あ……あぁ、<治癒>」
ミレイが雑にぐちゃぐちゃに抉れて肉と骨が露出した左肩をこちらに向けてくるものだから、俺は少し引きながらもスキルを発動してやれば、ミレイの左腕が眩い光で満たされた。次の瞬間には何事も無かったように腕が生えていて、ミレイとメイラは目を丸くした。
「へぇ、これは凄いね。まるで魔法じゃないか」
「いや魔法じゃなくてスキルだが」
「ふはっ」
突如よく分からない例えをするミレイに俺はすかさず訂正を入れる。と、マサトが噴き出した。そのらしくない様子に俺が呆然としていると、続いてシズク、メイラも笑いをこぼす。
俺だけが首を傾げている中、涙目になりながらシズクがミレイの背中を叩く。
「あははっ、違うよミレイ。この世界フツーに魔法はあるから、ややこしくなっちゃってるって。リューロも無意識にツッコんでるし!」
「あっそうか、そういえばそうだったな。じゃあ奇跡って感じだ」
なにやらよく分からないままだが解決したらしい。
「よく分からないが……でも、あまり怪我しないでくれよ。誰かが傷付いてるのも見たくないし、痛みはあるんだから」
「これだけの実力者が集まってりゃあ、そうそう怪我するようなことにはならないさ」
「それもそうか……ミレイもマサトも帝国叩き上げの兵だし、シズクも百年前からの英雄だもんな」
「何言ってんだい、アンタも中々ヤバいよ」
「え?」
呆れたような目でミレイがこちらを見てくる。
「アタシは仕事上、各国を回ってその過程で何人もの強者と接してきたがソイツらと比べても、リューロは頭ひとつ抜けているぐらいのバケモンだよ。アンタに勝てる奴なんて……うん、ほとんど居ないんじゃないかい」
「俺も同意だ……そもそものレベルが高い上に数多のスキルと魔法があるのはかなり脅威だな。世界の五本の指には入るだろう。敵には回したくないな」
「そうね。私は今までの戦闘を見ていないけど、パラサイトドラゴンのブレスを受け止めるなんて普通の人間にはできないもの」
ミレイに続いてマサトとメイラまでもが俺のことをまるで最強の一角かのように語る。それに俺は俯いてしまう。
「いや、いやいやいや……俺は、俺自身は決して強くないんだ」
俺は自分の強さを自覚したくなかった。それは積み上げた屍の数だと知っているから。だから褒められてむず痒い自分が本当に嫌で、でも力を否定するのもみんなに悪い気がした。
「リューロ……死はいつか乗り越えればいいんだよ。捨ててきたものだけが、あなたをあなた たらしめるんだから」
シズクだけが俺の気持ちを分かっているのか、諭すようにそう呟いた。
***
「そろそろ行くか」
三体のパラサイトドラゴンとの戦闘を終えたあと、各々再び出発の準備を整える時間、という名の五分ほどの自由時間を俺はそう言って切り上げる。
マサトとミレイはさっきの戦闘の反省点をまとめているし、シズクはぼーっと遠くを眺めている。メイラはちょうどあった椅子のような岩に腰掛けて休憩していた。
「分かっtっ……っとっと」
メイラが岩からよっこいしょと立ち上がろうとし、体勢を崩す。
「大丈夫か、うおっ!」
そんな彼女を受け止めようとした俺の顔面に彼女の肘がピッタリの角度で入った。パキッ──という音とともに俺は尻もちをつく。
「あっ……」
「っ痛てて……ってアレ?」
尻を擦りながらも、ミレイの手を借りて立つと、そこで初めて呼吸が急に楽になったことに気付く。その違和感に俺が手で顔を触れば、手のひらと顔の間になんの隔たりもなかった。
──マスクが外れている……。
咄嗟に呼吸を止める。が、しかしそれは遅すぎる気もした。
「はぁっ? ちょっと……!」
「大丈夫だ、シズク。まだ吸ってない」
メイラを分かりやすく睨みながら、シズクが慌てて俺の口を抑える。そんな彼女に俺は心の中では焦ってるのを隠して、モゴモゴと心配無いと伝えた。
実際、尻もちをついたと言っても呼吸器系はそれほど地面に近付いた訳でもないし、痛みで瞬間的に呼吸が止まるのだから吸ってない可能性の方が高い……ハズ。そう自分に言い聞かせる。
「一度戻るしかないね、『セーフゾーン』からそこまで離れてないのは不幸中の幸いだった」
「ミレイの意見に賛成だ。あと、簡易的なものだが……まぁ無いよりはマシだろう。出来るだけ慎重に歩け」
マサトが空気の壁を俺の首から箱型に空気を伸ばしてくれたようだ。重さは感じないが、頭のてっぺん以外を見えない壁に覆われていることを俺は手で触って確かめる。
結局、俺たちは来た道を戻ることになった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
あなたの瞳に映る花火
蓮
恋愛
この日のナルフェック王国の王都アーピスや王宮は、王太女ディアーヌの結婚式で大変盛り上がっていた。
しかし、そんな王都や王宮とは打って変わり離宮は静かで穏やかな時間が流れている。
離宮に住まう生前退位した女王ルナとその夫シャルルは、孫の結婚祝いとして打ち上がる花火を見ながらのんびりと今までを振り返るのであった。
結之志希さん(@yuino_novel)さんの企画「〇〇に映る花火」参加作品です!
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
表紙は結之志希さんからいただきました!ありがとうございます!
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
雨男のいる部屋
秋澤えで
恋愛
心の中で、彼のことを雨男と呼んでいた。休日天気が晴れていると、彼はいつも外へと出かけていく。どこに行くのか、誰と会うのかを、事実婚の妻である私は知らない。いや、聞けなかった。そんな彼は雨の日だけは家にいた。お互い言葉少なではあるけれど、時間の共有が心地よかった。
「そろそろ潮時か」
雨の降る金曜日、仕事帰りに怪我をした。明日の天気予報は晴れ。ろくでもないことが重なった日だった。
もだもだ系女子の好きな人の話
【雨の日】【怪我】【事実婚】
もだもだ小説第三弾。(第一弾:私のグリム先生 第二弾:幸せな恋は宝箱と共に・幸福で塗りつぶす)
エブリスタ超妄想コンテスト『夫婦』優秀作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる