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絶え間

覆す

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 真正面から音速で迫る<死咆デスロア>の壁、さらに同時に放出された斬撃波がシズクの逃げ場を塞ぐ。だが、彼女は慌てる様子を見せない。それどころか口元に笑みを浮かべ、その攻撃が自分に到達するのをじっと待つ。

 そうして、その瞬間はあっという間に来た。シズクが前に掲げていた槍を面で襲い来る大量の<死咆デスロア>が侵滅し始める。
  そこでようやくシズクは行動を取り始めた。とは言っても、棒立ちのまま片脚を上げ、力いっぱい踏み抜く、ただそれだけだ。

 だが、その力任せで無意味とも思える行動は尋常じゃない被害を生み出した。
 脚が踏み抜かれたことを俺の脳が認識した瞬間、ドンッ──という何かが爆発したような衝撃音が響き、地面が揺れ始める。同時にシズクを中心として遠くにいる俺を寸前で含まない円の範囲内に積もっていた雪が一瞬にして吹き飛ばされ、高原から姿を消す。
 この間、約0.5秒。

 それでも彼女が起こした災害は終わらない。ゴゴゴゴ── という地鳴りともにシズクが踏み抜いた地点から亀裂が走り地面がものすごい勢いで割れ始める。いつの間にか真ん中に向かって高原は傾き始め、俺の体も中心に転がる……かと冷や汗をかいたが、ユミの拘束のおかげでどうにかその場に留まれた。
 ここで、ようやく1秒が経過していた。

 地形が瞬く間に不格好な谷のような形に変形してしまったことで、ユミは咄嗟に飛んだものの、かなり高い宙に浮いていた。だが、それは隙でしかない。
 地面が割れたことにより、下という逃げ場を得たシズクは既に攻撃網から逃れて、ユミの真下に陣取っていた。そして片手をユミに向け、唱える。

「<奪力ステータススティール>」

── え? 今なんて……?

 シズクが何気なく口にした< 奪力ステータススティール>というスキルに、俺はパニックになる。その名をつい最近聞いたことがあるからだ。ダンジョン3層『溶火の湖畔』で、アラクネが帝国のヤツら相手にブラフとして使っていたものだ。
 
「……っステータス!」

 そのスキルの嫌な名前に、ユミは瞬時にステータスを開く。上から下に目線は移動し、再び下から上に、上から下に、何度も何度も何度も何度もステータスを目が往復する。目玉が動く度に次第に表情が固まっていき、口がわなわなと震えだす。そんな明らかに異様な態度を見せるユミに、俺もそのステータスを見ることにした。
 あの時と同じくスキルが無くなったように見せているだけの幻覚だろう、今回はユミに教えてやる義理はないが確認ぐらいはしておこう。そんな軽い気持ちで、俺はユミのステータスに目を凝らす。
 だが、そんな楽観的な推測は見事に裏切られた。

── えっ?

 真っ先に、俺は信じ難い光景に、受け入れ難い事実に、それだけが脳内で叫ばれる。
 ユミのスキル欄は空っぽだった。いや、それだけじゃない。ステータスも明らかに低く、なにより『転生者特典』すら消失していた。


***

「よしっ……これで邪魔者は片付いたし、お話しよっか」

 シズクはユミの心臓を槍で簡単に貫き、こちらに向かって笑顔でそう言った。同時に俺の拘束が解け、俺が立ち上がろうとするよりも早く身体は不格好に彼女に向かって転げ落ちる。

「うおぉっ!!!」
「っと、大丈夫?」

 猛スピードで高原の中心の奈落へと滑り転がる俺をシズクは楽々と、優しく抱え上げる。そして、俺を立たせて片手を差し出すので、俺も状況を呑み込めないまま握手する。
 シズクは「じゃあ改めて」と、少し恥ずかしそうに頬をかいて、それから口を開いた。

「私はサクラ シズク。転生者であり、百年前の英雄であり」

「今は魔王だ」

ステータス 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[リューロ・グランツ] 19歳 人族 男
レベル 58
体力 A
魔力 S
膂力 S
俊敏性 S

スキル 
<逃亡エスケープ>< 疾走スプリント ><軽量化ウェイトリダクション><隠密ハイド><治癒ヒール><反転リバース><対象変更ターゲットチェンジ><鑑定アプレーザル><瞬歩><クナイ><空中歩行><烈爪フィアスクロー><盾空エアシールド><爆哮バーストロア>

称号
[転生者の篝火]⋯ 転生者と出会い導く運命を神に与えられた者の称号。その篝火を灯せば転生者は正しく道を歩み貴方に感謝するだろう。その篝火を消せば転生者は霧の中を彷徨い、全ての力は貴方の手の上のものになるだろう。

転生者特典
『超回復』『忍びの術』『魔道の極み』『代償成就』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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