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2人目

葬送

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 百に達しそうなほどの魔兎を蹂躙したその後には、俺が落下したのと全くおなじ死体の山が出来上がっていた。ハァハァと息を切らすグランツは、それでも疲れを感じさせぬ動きで雫に駆け寄る。

「シズク、大丈夫だったか!」

 彼は心配そうにそう声をかける、彼女はもう死んでいるというのに。
 
 何回、繰り返しをしているんだろう。俺は察してしまった、コレは彼の悔いがさせている償いなんだと。俺を完全治癒させるほどのスキル、間違いなく転生者特典が無ければなし得ない偉業だ。

 つまり、シズクがその特典の保持者だった……が、彼女は死んでしまった。ダンジョン内での死だ、誰のせいでもない。が、それは理論の話で、幾つもある分岐点の中で死という結末に到達した理由がある筈で、その選択肢を選んだ人間にとっては耐え難い重荷となるだろう。

 ── PTSDみたいなものか。

 別人のようになったグランツを俺は見ていられなかった。

 が。

 シズク、と彼が呼ぶ亡骸を俺はそのままにはしておけなかった。このままではアンデッド化する可能性もあるし、なにより同郷とである彼女を正しい方法で弔ってやりたかった。

「……グランツ」
「さっ……触るなっ! 誰だお前!」
「埋葬しよう。 可哀想だ」

 錯乱するグランツに腕を掴まれる。その力の弱さに、震える声の頼りなさに、俺は悲しさしか覚えなかった。心は痛むが振り払って、亡骸のもとで跪き、手を合わせ祈る。

「あ……あ……」

 聖なる言葉を紡ぐ間、彼は俺を止めることをしなかった。



***

 俺たちは埋葬を終え、『セーフゾーン』に帰ってきていた。

「すまない。 本当にありがとう」
「いや、こちらこそ治癒の礼がある。いいんだ」

 両膝に手を置いて、正座で謝るグランツに俺は片手を差し出し起こしてやり、握手をしながらそう言った。

 俺が彼女を埋葬する間、しばらくグランツはぼっーと眺めていただけだったが、涙がつーと垂れるのと同時に気を持ち直して、それからは埋葬を手伝ってくれた。

 何はともあれギブアンドテイク、つまり、これで貸し借りなしだ。ここからは対等に話す。

「さて、幾つか話しておきたいことがある」

 肉を食うために2人で魔兎の皮を剥ぎながら、俺は今までの話をすることにした。
 
  理由は2つある。

 1つ目は、裏迷宮から上に上がるルートをグランツですら、1週間以上ここに居る彼にすら見つけられていないからだ。つまり、俺たちは裏迷宮2層から3層に降りて行く必要がある。協力関係を結ぶ為には信頼が必要で、その為に俺の事を話しておくのが良いと思ったのだ。

 2つ目は、彼の重要さを彼自身に理解してもらう為だ。帝国や共和国に捕まって、最も苦労するのは彼だろう。実際に帝国の連中は人に爆弾を仕掛けて二層に突き落とすぐらいの最悪の人間性だ。今後、奴らや他の国からの刺客に追われながら下層に潜っていくならば、グランツに自分で身を守ってもらう必要があるのだ。

 明るいダンジョンの中、暗くて見えない未来を俺たちは手探りで進まなければならない。グランツと協力することこそが最前だった。まるで初めからそうなるように定められているかのように、必然的な選択だった。
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