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チュートリアル(入学前)

Bパート ※22日修正

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 自分の意外な事実に驚愕しましたが、現状打てる対策が幾つか思い付く物もあれば、全く思い付かない物もある。知らない事も沢山ありますしね。
 イーグルアイやダブルキャストなんてスキルがある事を、ワタクシは知りませんでした。
 私がゲームをやっていた時にもそんなスキルは無かったので、どっちも知らない事を知るには人に教えて貰うのが一番です。
 道中、騎乗したベルンハルトに色々なスキルの事を聞いたりしながらも時間は過ぎていくと……見えて来ました、レッドフィールド領の街が!
 リズも久しぶりの故郷に、どこか落ち着かない様子です。……転けないでね。

 

 レッドフィールド領は、町が一つと村が二つの集落で構成された、リーンガルド最南端にある小さな地方です。緑の山々に囲まれた大自然の中にある、集落内でも高低差がある立地をしています。その中でも一際小高い山に建てられた、周辺の建物よりも大きな屋敷。あそこがゴライアス男爵の住むレッドフィールド家であります。
 まだ距離はありますが、とてもよく目立っているので分かりやすい。



 やがてレッドフィールド領街の入口まで来ると、一人の甲冑を着た騎士が近づいて来ました。
 ベルンハルトの部下である見習い騎士『ジョナス』曹長でしたか?やがて正騎士任命されて少尉になる若手のホープだそうです。
 18歳の素朴な見た目の青年ですね。
腕前は叔父様仕込みで相当らしいですが、今は戦闘中じゃないので戦闘用ステータスが見れません。

 「騎士見習いジョナス曹長であります!ご報告致します!レッドフィールド領街への通行許可、並びに領主様への謁見許可頂いて参りました!これよりレッドフィールド家まで、不肖の身でありますが御案内させて頂きます!」

 「任務ご苦労であった!公爵代理マリアルイゼ・クリシュナーダ様に代わり褒めて遣わす!」

 馬車の外ではベルンハルトとジョナスの形式的な遣り取りが行われている。これが貴族で言う所の『お邪魔します』で、入る前にやる事でどこどこの誰々が来ましたよって宣言してるのです。お忍び旅行じゃありませんしね。

 その紹介された当の本人は馬車の中にいるだけで何もしていません。
 自分の為に急ぎの働きをしてくれた人に対して、『ありがとう』の言葉も言わないのは私の基準でどうかと思いますが……ワタクシは貴人ですので、むやみやたらとお外に顔を出したり、声を掛けたりしてはいけないのです。……貴族の嗜み面倒臭っ!

 ジョナス君。前世と違って、彼の方が年上だからジョナスさんですね……が、門番に話し掛けると「開門!」の宣言と共に重厚な扉が開かれる。
 周りを見ると、この門以外の場所にも数人が列を作り、入場料金を払って手続きをしているのが馬車から見えるが、先程の口上通りジョナスさんが前乗りで全て終えてくれているので私達は通るだけです。貴族の嗜み楽チンです!

 門を通ってレッドフィールド領街内へ入ると、レッドフィールド家からも案内役の騎士達が数名出迎えてくれました。
 また同じ様な口上の遣り取りがあった後、ジョナスさん含めて全員騎乗して、レッドフィールド家へと出発です。



 一路、騎士団に守られる馬車に乗った私達がゆったりと曲がりくねった坂を登っていくと……遠目からでも大きかったお屋敷。レッドフィールド家へと着いたので、ベル叔父様にエスコートされ馬車を降りました。

 お屋敷の玄関前には、多数のレッドフィールド家に仕える使用人達が並んでいる。
 その真ん中で私達を出迎えてくれる、品のある藍色のドレスを着た女性。
 ダーナロッテ・レッドフィールド男爵夫人……リズのお母様は、娘と同じ赤毛をトップでまとめ上げ、可愛らしい娘の顔立ちと対照的に美しい大人の女性の魅力に溢れています。
 だけどリズによく似た大きな瞳と小柄な身長は、やっぱり親子って感じですね。
 母が10歳の時から専属メイドとして仕え、ゴライアス卿が男爵に出世され領地を拝領される迄ずっと一緒に暮らされていたのがダアヌ様。
 恐らく誰よりも母との付き合いが長かったのがこの方でしょう。

 「身に余るお出迎え感謝致します。クリシュナーダ公爵家第一子、公爵代理マリアルイゼ・クリシュナーダ。父、ランフォード・クリシュナーダの名代として参りました。」

 「とんでも御座いません。病身の領主、我が夫ゴライアス・レッドフィールドが出迎えに出れぬ不作法、平にお許し下さいませ。」

 貴族らしく、優雅にドレスの裾を摘まんで一礼すると、相手も同じ様に返礼して頂けました。大人の女性の余裕って奴でしょうか?ワタクシだって負けてないはずですが、気品溢れる所作の全てが御見事の一言ですわ。
 『わざわざリズを行儀見習いに出す必要ありましたの?』と、思ってしまう程に。

 そんな事を考えながらも、おくびにも出さず。世間話の遣り取りを終え、私の挨拶は終わりました。次はリズの番です。

 「只今帰りました、お母様。リーゼロッテ・レッドフィールド、マリアルイゼ・クリシュナーダお嬢様の専属侍女として帰郷して参りました。」

 「話は聞いています、おかえりなさいリーゼロッテ。実家とは言え、決して侍女としての責務を忘れる事の無いように。マリアルイゼ様のご厚意に甘えてはいけませんよ。」
 
 「はい……あの、それでお父様の具合は……?」

 「これ以上、大事なお客様であるマリアルイゼ様をお待たせしてはいけません。執事長、お連れの方々をくつろげる御部屋へ。さぁマリアルイゼ様、こちらへ。」

 そう案内されるまま、私、リズ、ベルンハルトの3人はダーナロッテ様の後に続いて屋敷の中に入っていく。ゴーシュとジョナスは別の場所で休憩です。



 少しの会話を挟んで案内された場所は応接室。寝室では無いのなら、ベッドから動けない程重病では無いという事で、リズもホッとしてるみたいです。ダーナロッテ様のノックと共に通された部屋の中には、一人の男性が長いテーブルの置かれた最奥の椅子に腰掛けて待っていた。

 「ようこそおいで下さいました、マリアルイゼ様。出迎えようとしたら医者に止められてしまいましてな……御無礼、何卒御容赦願いたい。」

 「ワタクシ如き若輩を盛大なお出迎えして頂き、身に余る光栄で御座いますわ。ゴライアス卿。」

 「ご謙遜を……おっと、お客様を立たせたままで申し訳ない。どうぞおくつろぎ下さい。ダアヌ、お客様にお茶を。」

 「はい、貴方。」

 「折角の御厚意ありがたく存じます。ですが、差し出がましくもここは当方の専属侍女、リーゼロッテにやらせて頂きたく願いますわ。」

 「ほう、それはそれは……面白き余興。是非ともやって頂きたい!」

 「寛大さ、感謝致します。さぁ、リズ。」

 「は、はいっ!」

 一度着席したリズが再び立ち上がり、ダーナロッテ様……ダアヌ様の隣へ移動して、母親の横に立つ。
 抱えていた包み紙から、こちらの手土産を取り出すと

 「ご説明させて頂きます。此方はクリシュナーダ領の名産、疲労回復に効果のあるハーブを調合した茶葉に御座いまして、お見舞いの品として男爵様に……」

 馬車内で練習した説明を続けるリズ。噛み噛みだった練習と違って本番に強いタイプみたいですね。口上が終わると、練習通りに手順を踏んでお茶を淹れていく。
 ゴライアス卿とダアヌ様から感嘆の声が上がったので、成功ですね!

 最大の懸念事項は転んで台無しになる事でしたが、男爵様側に座るゴライアス卿とダアヌ様に配膳し、対面する私達側にも配り終えたので一安心です。

 「それではお毒味役として、僭越ですが先に口にする無礼を…」

 「そんな事はよい、クリシュナーダ家の者を疑ってはこちらの面子が立たぬ。見事であった、戻るが良い。」

 「は、はいっ!」

 無事に合格点を頂けたようです!ワタクシには分かります、あの表情は娘をもっと褒めたいけど威厳の為に我慢してますね。口角が上がっていますもの。どこの父親もあまり変わりま「キャアァーーッ!」……って



 「リズ、最後まで気を抜いては駄目よ……九仞きゅうじんの功をなんとやらですわ」

 「も、申し訳ありません……」

 ワタクシの浮遊魔法で浮かぶ、お茶とカップとリズ。何もない所で転ぶのは、やはりこれもギフトかスキルの一つなんでしょうかね?

 「ハァ……貴女のドジは公爵家でも治せないのかしら?お母さん頭痛いわぁ……」

 「何、女の子はお転婆な位が丁度良い。怪我が無いならそれで良いではないか。ハッハッハ!」

 「もう!貴方がそんなですから、リズを奉公に預けたのをお忘れですの?」

 「むぅ……そう怒らなくても良いではないか……」

 そうですね、リズのお陰でお堅い空気が一気に軽くなりました。ベルンハルトも男爵家の面々に思わず噴き出しています。

 もういいみたいですね。リズをお茶とカップごと男爵様の横へと浮かばせ運んで、傍らの席へとセッティングします。

 「言わなければならない事はありますが、今である必要はありませんね。リズ、これからは家族の時間で良くってよ」

 「は、はい。助けて頂きありがとうございました、お嬢様」

 「私からも礼を言わねばな、ありがとうマリーゼちゃん。ランド様はご健勝か?久しぶりだね、良く来てくれた」
 
 「本当にねぇ、大丈夫マリーゼちゃん?ウチの娘がさっきみたいに迷惑掛けてない?」

 厳かな雰囲気が一変して、近所のおじさんおばさん家に変わりました。

 「ベル坊も良く来たな、お前を護衛に寄こすとはランド様は相変わらずか」

 「ちょ!?ゴル先輩、ベル坊はやめて下さい!病気だって聞いてたから心配して来てみたら……ええ、変わらず過保護ですよ。ここと一緒で!」

 「確かに……ウチの人ったらこんなだから……今日も領門で出迎えるって聞かないから、この椅子に縛り付けてる所よ」

 「バラさなくてもいいだろ!?」

 談笑と批難の声が上がる中、私の影が薄くなるのを感じます……濃いなぁーこの面子!

 

 
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 「九仞の功を一簣に虧く」(高い山を築くのに最後の一杯を欠いて完成しない様)

 御指摘を頂き、修正しました。

 追記:ダーナロッテの説明文に追加あり
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