上 下
31 / 33

31.猫耳の男の子

しおりを挟む
 まさかあんな効果が出るとはな。
 今度実験してみよう。

 10円玉召喚スキルの強化から一夜明け、俺はウキウキ気分で目が覚めた。
 子供の頃、新しいゲームを買ってもらって、早起きしてでもやりたくなってしまうような、そんなワクワク感に似ているかもしれない。
 もしショボかったとしても、チートスキルの強化なんてロマンしかないだろ。

 それはさておき、今日は何をするかな。
 やっぱり少しお金を稼げたからと言って油断せず、今日も懲りずに薬草採取といきますか。
 今のところ安全に安定して稼げるのがこれだからね。


 ―◇◇◇―


 そういや今まで考えたことなかったけど、俺が採取した薬草はどうなっているのだろうか?

 俺はアズーマ山までの道中、ニミノヤ村の中を歩きながらそんな益体もないことを考える。

 あんなに採っているのに、一度も使ったことがない。

 異世界特有のポーションになっているのか、キズ薬や漢方みたいなやつになっているのか。はたまた、薬草としてそのまま使うタイプか?

 運良くケガや病気をせずにこれまでやってこれたが、薬は一番最初に確認・購入するものだろう。RPGの基本だ。
 今日、薬草採取から戻ったら冒険者ギルドで聞いてみるか。

「中に入れてくれよ!!」

 何だ? 門の方から大声が聞こえる。
 トラブルでもあったか?
 俺はあんまり野次馬根性とかないんだけどなぁ……と言いつつ軽やかな足取りで門へと近付く。

「住民カードも入村料も持っていない者を村の中へ入れることは出来ん」

「中に姉ちゃんがいるはずだから、話せば入村料くらい払ってくれるって!! 何回言えばわかるんだよ!!」

 門番と小学生くらいの男の子が言い争っているようだ。
 言い争っているというよりは、男の子の方が一方的に喚いていて、門番の方はあまり相手にしてなさそうだが。

 あれ? あの子の頭、猫耳がはえてる?
 獣人なんて珍しいな。冒険者ギルド受付のライチさん以外では初めて見た。

 そういやあの子、姉ちゃんがこの村にいるとかなんとか言ってたような……
 まさか……な?

「ダメなものはダメだ。さっさと家に帰るんだな」

「あのー、すみません」

 俺は言い争っている二人に声をかける。
 決して面白そうだから他人のトラブルに首を突っ込んでみたくなったわけではない。そう、決して。

「なん……なんだお前か。もしかして、こいつの知り合いか?」

「いえ、全く知り合いではないのですが、もしかしたら知り合いの弟さんなんじゃないかなぁ、と思わなくもないと言いますか」

 自分で言ってて訳分かんなくなってきた。
 とりあえず男の子の名前から確認してみよう。
 ライチさんの弟だったら、レイシとかマンゴスチンとかランブータンとかいう名前かもしれないし。

「えっと……お名前を教えてもらってもいいかな?」

「お前誰だよ!! お前みたいなショボい人間に教える名前はない!!」

 カッチーン

 困ってるから助けてあげようと思って話しかけたのに……いやちょっと、ほんのちょっとだけ面白そうだから首を突っ込んでるところがあるのは否めないけども……いくらなんでも俺のハートにダイレクトに刺さる言葉を言わなくてもいいじゃないか。

「へー、ふーん、そういう態度とるんだ? 俺、お前の姉ちゃんと知り合いかもしれないんだけどなぁ。でも、こんな失礼な弟がいるような人じゃないし、人違いかもなぁ」

 いや、ライチさんはあくびとかしちゃう人だから、結構失礼か。ホントにライチさんの弟かもしれん。

「お前、姉ちゃんと知り合いなのか!? じゃあ、俺を姉ちゃんのところまで連れてってくれよ!!」

「いや、だからね、本当に君が俺の知り合いの弟かどうか確認したかったから、名前を尋ねたんだけどもね。それを拒否したわけだから、俺にはどうしようもないね」

 なんで俺がこんな失礼なやつの代わりに入村料100円払って、案内までしてやらにゃならんのじゃ。

「……! ず、ずりぃじゃねーか!! あとから姉ちゃんの知り合いだとか、色々条件付けやがって!!」

「いや、相手が誰であろうとも、どんなにショボい相手だろうとも、そんな喧嘩腰じゃうまくいかないよ。それじゃ、俺は忙しいからもう行くね」

「うぐっ…………ぇる……」

「ん? なんだって?」

「俺の名前はベル!! 姉ちゃんの名前はライチ!! これでいいんだろ!?」

 いや、いいんだろって……めっちゃ喧嘩腰じゃねーか。
 まだまだ子供だな。まぁ本当にまだ子供なんだけど。
 仕方ないここは大人の俺が大人の対応ってやつをしてやりますか。
 本当にライチさんの弟っぽいし。

「じゃあライチさんに確認してきてやるから、ベルくんはそこで大人しく待ってるんだぞ」

「中に入れてくれるんじゃないのかよ!! 使えねーなー」

 ピキッ
 いや、抑えろ俺。相手は子供じゃないか。
 無視だ、無視。

 俺は冒険者ギルドに向かって歩きだす。

「おい! 聞いてんのかよー!! 中に入れろよぉぉぉ…………」

 ベルくんの声が段々遠ざかっていく。
 なるべくゆっくり冒険者ギルドに向かおう。
 それくらいの意趣返しはいいよね?


 ―◇◇◇―
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

処理中です...