上 下
41 / 46
番外編

もしもこの世界にバレンタインデーがあったとしたら………。

しおりを挟む
バレンタインデー記念に他サイトに投下したものです。
時期はズレたけど、こちらにも!

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「いや~ん!ルーカス、ひっさしぶり~っ!!」

ダン達のパーティーとのクエストを完了して、飲屋街に足を向けたところ、姦しい声が響き渡った。

「――――あ”?」

獣人は耳が良いんだよ、煩すぎるわ。
眉間に皺を寄せて声がした方を見ると、更に『きゃ―――っっ!』って複数の悲鳴の様な声が重なった。

「……あー、今日は、日かぁ」

ダンが髪をガリガリ掻きながら呟くと、俺の背中をバンバン叩いた。

「ま、頑張れ」

「は?何を?」

怪訝な顔をした俺に、ダンはニヨニヨ笑って答えない。
それどころか俺と少し距離を取り、きゃあきゃあ騒ぐ女達にサムズアップした後、その指を俺に向けてきやがった。
瞬間、爆発的に歓喜の声が轟く。1人の声だけでも煩いのに、何の拷問だよ。
片耳を押さえてダンを睨むと、ヤツは『じゃ!』って感じで手を振る。

「ルーカス、いつもの店に居るからな~!」

と言いつつ離れていく。コラ、待て…っ!!

「――ダ…っ」

名前を呼ぼうとした時、遠慮もなく女達が俺の周りを取り囲む。

「いや~ん、イケオジなダンの神対応、素敵っ!」
「ルーカスぅ、折角ダンが気を利かせくれたんだから、ちょっと付きあってよぉ」
「今日はね、お祭りなんだよ!好きな人に告白していい日なんだよ~!」
「最近、飲屋街も花街もご無沙汰じゃな~い?アタシ達寂しかったんだからねっ!」

一斉に喋りだす。そして、やたらと押しが強い。
俺は思わず上半身を仰け反らせてしまっていた。

「はい、ルーカス。これアタシから。返事待ってるね!」
「はいは~い!私はこっち♡連絡先もちゃんと入れてるから」
「やだ抜け駆け~!私も渡す!ルーカス、私の気持ち♡受け取って?」

きゃらきゃらと姦しく囀りながらも、やたらと目が真剣だ。そして謎のプレゼントを押し付けてくる。

「―――これはいったい……」 

何だ?と続けようとした時。

「うわ~、ルーカスすっごくモテてる!!」

のほ~んとした声が聞こえた。
声がする方を見ると、今日ノアとペアを組んでクエストを受けていたクランがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
何か嫌な予感しかしない。

「ノーア!見てみろよ、ルーカスが激モテ!」

クランが良く通る声で背後に声をかける。名を呼ばれて、露天商のテントからヒョイッと顔を出したのは紛れもなくノアだった。
彼は現状を見て、目を丸くする。

「わぁ、こんなに女の人達に囲まれているルーカス見るの初めてだ……」

全く嬉しくない感想を口にしている。

「……で、コレ何事?」

こちらを指差しながらクランに尋ねる。

「この間、遠くの国の行商の団体が市を開いてたじゃん?その時にさ、『ウチの国には年に一度の、想いを告白する日がある』って話したのが爆発的に広がったみたいよ?」

「へぇ~!」

「告白されたら、相手はちゃんとプレゼントのお返しと返事をしなきゃいけないってのが、世のお嬢様達の心を掴んだみたい」

成程、とノアが頷く。いや、そこで納得しないでくれ。
思わずノアを凝視して、ダラダラと背中に汗をかく。
いや、俺が悪い訳じゃねーし、浮気の現場を見られた訳でもないが、何となくノアに見られたくなかった。

う~ん…、と顎に手を当て小首を傾げて考えていたノアは、少しの時間そうした後『うん、』と頷いた。

そしてテクテク俺に歩み寄る。

「あら、ノアちゃ~ん?いくらルーカスと仲良しでも、今日は邪魔しちゃダメよぉ~」

女達の中のリーダー格のヤツが、くすくす笑いながら唇に指を当ててノアの行動を咎めた。何となく嘲笑う雰囲気を感じて、俺の方が苛つく。

――てめぇ等、俺の番に………っ

眉間の溝を深くした俺の肩をポンと叩き、ノアは女達にふわりと柔らかく微笑んだ。

「うん、他のヤツなら邪魔しないんだけどね、」

言葉を一度切り、ノアの雰囲気が変わった。

「コイツ、俺のなの。俺、自分の盗られんのを黙って見てる程お人好しじゃないんだよ?」

笑顔なのに、怖い。ノアの威圧は、人の根底にある恐怖を煽る作用があるんだけど、今までそれを人に対して向けた事はなかった。

「……ひっ」

そもそも高ランクの冒険者の威圧に、普通の街娘が耐えれる訳がない。
青ざめて立ち尽くした女達に、ノアはもう一度微笑んだ。

「お家に、お帰り」

美しく整うノアのかんばせに浮ぶ氷の笑みに、今度は魅了された様に女達はぽ~っと頬を赤らめた。

「え…ぁ…っ、そ……そうね、人のに手は出しちゃダメよねっ」
「そ~よねぇ…。あは、ごめんねぇ、ルーカス告白はなしで」
「ノアちゃん、今度はウチの店に飲みに来てねぇ~」

言いたい放題告げると、彼女らはあっという間に居なくなった。

「え~……と?」


俺はもうア然としてノアを見る。何て言うか……女王様の様なノアが……うん堪らなく、イイ………。
思わず抱き寄せようとした俺を振り返り、ノアはいつもの笑みを浮かべた。

「ルーカスが困ってるみたいだったから、つい来ちゃったよ。大丈夫?」

「…あ、うん、ありがとう?助かったよ」

普通の態度のノアに胸を撫で下ろす。

「わぁ、ノアったら瞬殺!」

ケラケラとクランが笑う。ノアは肩を竦めると、踵を返して俺から離れ始めた。

「ぁ!ノア……っ?」

思わず追いかけようとすると、ノアは振り返り――
「ダン達が待ってるよ?俺は先に戻るね」と言いスタスタ歩き始めた。

「ありゃ~……。怒ってんねぇ、ノア」

「………は?」

ポツンと呟くクランを俺は見下ろして、間の抜けた声を出した。

「ん――、怒っているって言うか、ああ嫉妬か。愛されてんねぇ、ルーカス。あんなに人当たりが良いノアが、人に対して威圧出すくらいには、キミを大事にしてんだねぇ」

ぴくんっと耳と尻尾が揺れる。バッとノアが去った方を見ると、通りの角を曲がろうとしている所だった。

「…感謝する!礼はまた今度!」

後を追いかけようと足を踏み出した俺に、クランはのんびりと言った。

「いや、礼はいらね。それよりノアとチーム組む度に睨んで威圧すんのは止めてね?」

「無理」

キッパリ断り、俺は走り始めた。

「げーっ、嫉妬深い男なんて振られちまえ!」

後ろでクランが喚くが、知ったことか。
それより、初めて俺に嫉妬の気持ちを向けてくれたノアの側に居たいし、顔を眺めていたいし、押し倒したいし……。
あっという間にノアに追いつき、後ろから抱き込む。

「一緒に帰ろう?」

嫌なんて言わせない。朝まで俺に付きあって貰うぞ、ノア。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

英雄は喫茶店の片隅で恋をする

モト
BL
国を救った英雄は、想い人を探していた。 喫茶店を営む俺の店に来たきっかけも想い人を探すためだった。だが、彼はその日以来、毎日店に来るようになった。 喫茶店の近所に家も建てて!? 何だか凄く好意的だけど、彼はノンケのはずだし、ゲイの自分が想いを寄せてはいけない……よな? 少しだけシリアス、ハッピーエンドです。両片想いの甘々です。 本篇完結、番外編は気まぐれでupしています。 ムーンにも投稿しております。 素敵なタイトルロゴは桃レンンジ様より頂戴いただきました。

処理中です...