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sideルーカス

11.

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その日。ギルドから緊急クエストの連絡がきた。
街の東門から先、山を一つ越えた所にある町にワイバーンが出たという。
Sランクの冒険者に招集がかかったのだ。
この街のSランクは、今は俺だけ。


カチリとベルトを締める。
指なしの皮の手袋を装着し、手早く旅の準備を整えた。
ノアから離れて遠征に出る事。それが俺を苦しめる。

離れたくない。
側に、居て欲しい……。

先日まで、クエストだからと不在だったノア。
あの期間も、俺には不安が付き纏っていた。

魔物に襲われて怪我をしたら?
誰か別のヤツに奪われてしまったら?
クエストの後、街に戻らなかったら?

正直、あの正体が分からない男が居るというのに、この街を離れたくはない。
ヤツがノアに話かけると思うだけで、鳩尾がギリギリと痛む。よく分からない感情が迫り上がり、相手を滅してしまいたくなる……。

だけど緊急クエストは拒否権なしの出向命令だ。

………仕方ない。

はぁぁと大きくため息をつき、俺は自分の部屋を後にした。
ヤクーという魔物と山羊を掛け合わせた動物に跨ると、一路目的地を目指し移動を始めた。
ヤクーは恐ろしく身体能力が高い。
山の移動など物ともせず、岩肌もひらりと身を踊らせ獣道を越えていく。
お陰で人の脚だと4日はかかる道程を、僅か1日で移動することができた。
町に着いて早速冒険者ギルドの支部を目指す。

――今はまだ目立つ被害はなさそうだ。

町の様子を覗いながらメインの通りを抜け、支部ギルドの門を潜った。

「Sランクのルーカス様ですね。今回はご協力ありがとうございます」

少し緊張した面持ちで支部のギルマスが出迎える。
チラリと奥に目を向けると、今回招集されたと思われる冒険者の姿が複数見えた。
一度にSランクの冒険者が集まるなんてそうそうない。
ギルマスの緊張の理由も分かる。

俺が最後の到着だったらしく、直ぐに討伐対象についての説明が始まった。
ワイバーンは町から10km程離れた森林に居着いているらしい。
今現在確認する分では、ワイバーンの数は3匹。番はいないようだ。
人的な被害は今の所なくて、森林近くで放牧していた牛が餌食になっただけだという。
もう直ぐ日も暮れる時刻であり、討伐は明日に持ち越しとなった。

ワイバーンは飛行するし、皮は硬く刃による傷を受けにくい、厄介な魔物だ。
今回Sランクの招集で、5人が集まった。この人数なら討伐は可能だろう。
荷物を置くべく、ギルドから紹介された宿に向かおうと踵を返した。

―――その時。

「ルーカス?」

ギルド内のカウンターから名を呼ぶ声が聞こえた。

「?」

知っている声のような気がして振り返る。
カウンター内部にある扉から、大柄な男が姿を表しこちらを見ていた。

「………。もしかして、カミル兄…?」

「やっぱりルーか!久し振りだな」

久々に会った長兄のカミルは靭やかな動きでカウンターを越え近付いてきた。

「久し振りも何も……10年振りくらいか?」

「もうそんなに経つか……。お前も大きくなるはずだな」

ポン、と肩を叩く。

「……で、明日のワイバーン討伐に参加するのか?」

「招集がかかったからな。カミル兄は?」

「俺も参加だ。この町が今の所活動拠点だからな」

「……意外に近くに居たんだな」

「この町が番の生まれ育った場所だからな。そのまま居着いたよ。お前は?」

「俺は山の向こうの街が拠点だ。あ――……。そうだ、俺カミル兄に聞きたい事がある」

折角身内に会えたんだ。あの謎の衝動について知ってるか聞くのも有りだろ。

「何だ?」

「番のこと。でも話も長くなるし、明日の討伐が終わったら時間をくれ。」

訝しげな顔をしつつも頷く長兄に苦笑いを返し、明日の討伐に備えるため一旦解散としたのだった。

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