上 下
9 / 29
sideウィリテ

9話

しおりを挟む
それからイリアスは毎日守り樹の元を訪れるようになった。
彼はここに来て、ただゆっくりと流れる時間を楽しみ、思いつくまま色んな事を話してくれた。

いつしか僕はイリアスが訪れる度に目醒め、共に静かな時間を過ごし、彼の語る話に耳を傾ける事を楽しむようになっていた。彼と共に過ごす時は穏やかで優しくて………とても愛おしい。



『やっぱり私はここの精霊に嫌われているな……』

苦笑いと共に、ある日イリアスがそう呟いた。

『初めて君の気配を辿ってこの樹の元に来た時、精霊たちが私を突き飛ばしたんだよ』

ーーーーは?

初めて知った事実に、目を丸くする。え?精霊たちってば、そんなことを?
彼らは『緑の手』以外の人間に積極的に関わる事はないし、悪意を以て接する事もないはずだけど。

『多分、私が君を連れて行く嫌なヤツと認識したんだろうね。現に今も、君が眠りについた原因が私だということで、酷い嫌われようだよ』

クスクスと笑う声が聞こえる。え?何、笑うことなの?
思わず首を傾げていると、イリアスは優しさを含む声で甘く囁いた。

『でも彼らがいることで、君が一人寂しい思いをしなくて済むなら、それで良いよ』

ーーーー………。

きゅっと胸が締め付けられる。
獣人にとって、番って大事なもんでしょう?
それを拒否した僕に、何故そんなに優しい事が言えるの?

『本当は私が君を寂しくないようにしたいけど、ね』

ふと寂し気な声が聞こえる。僕は思わず顔を上げて、そっと目の前の真っ黒な壁に触れた。

ーーーー………ごめんなさい。貴方が嫌いなんじゃないんです。ただ僕は権力を持つ人が怖い。そして誰かと共に生きていくことが……、怖くて堪らないんです。

ぐっと唇を噛み締める。

『……また来るよ』

そう言い残して、イリアスは帰っていく。

去っていく気配を寂しく感じながら、持て余している自分の気持ちからそっと目を逸らすのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

モブ兄に転生した俺、弟の身代わりになって婚約破棄される予定です

深凪雪花
BL
テンプレBL小説のヒロイン♂の兄に異世界転生した主人公セラフィル。可愛い弟がバカ王太子タクトスに傷物にされる上、身に覚えのない罪で婚約破棄される未来が許せず、先にタクトスの婚約者になって代わりに婚約破棄される役どころを演じ、弟を守ることを決める。 どうにか婚約に持ち込み、あとは婚約破棄される時を待つだけ、だったはずなのだが……え、いつ婚約破棄してくれるんですか? ※★は性描写あり。

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。

既成事実さえあれば大丈夫

ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

処理中です...