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sideウィリテ
9話
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それからイリアスは毎日守り樹の元を訪れるようになった。
彼はここに来て、ただゆっくりと流れる時間を楽しみ、思いつくまま色んな事を話してくれた。
いつしか僕はイリアスが訪れる度に目醒め、共に静かな時間を過ごし、彼の語る話に耳を傾ける事を楽しむようになっていた。彼と共に過ごす時は穏やかで優しくて………とても愛おしい。
『やっぱり私はここの精霊に嫌われているな……』
苦笑いと共に、ある日イリアスがそう呟いた。
『初めて君の気配を辿ってこの樹の元に来た時、精霊たちが私を突き飛ばしたんだよ』
ーーーーは?
初めて知った事実に、目を丸くする。え?精霊たちってば、そんなことを?
彼らは『緑の手』以外の人間に積極的に関わる事はないし、悪意を以て接する事もないはずだけど。
『多分、私が君を連れて行く嫌なヤツと認識したんだろうね。現に今も、君が眠りについた原因が私だということで、酷い嫌われようだよ』
クスクスと笑う声が聞こえる。え?何、笑うことなの?
思わず首を傾げていると、イリアスは優しさを含む声で甘く囁いた。
『でも彼らがいることで、君が一人寂しい思いをしなくて済むなら、それで良いよ』
ーーーー………。
きゅっと胸が締め付けられる。
獣人にとって、番って大事なもんでしょう?
それを拒否した僕に、何故そんなに優しい事が言えるの?
『本当は私が君を寂しくないようにしたいけど、ね』
ふと寂し気な声が聞こえる。僕は思わず顔を上げて、そっと目の前の真っ黒な壁に触れた。
ーーーー………ごめんなさい。貴方が嫌いなんじゃないんです。ただ僕は権力を持つ人が怖い。そして誰かと共に生きていくことが……、怖くて堪らないんです。
ぐっと唇を噛み締める。
『……また来るよ』
そう言い残して、イリアスは帰っていく。
去っていく気配を寂しく感じながら、持て余している自分の気持ちからそっと目を逸らすのだった。
彼はここに来て、ただゆっくりと流れる時間を楽しみ、思いつくまま色んな事を話してくれた。
いつしか僕はイリアスが訪れる度に目醒め、共に静かな時間を過ごし、彼の語る話に耳を傾ける事を楽しむようになっていた。彼と共に過ごす時は穏やかで優しくて………とても愛おしい。
『やっぱり私はここの精霊に嫌われているな……』
苦笑いと共に、ある日イリアスがそう呟いた。
『初めて君の気配を辿ってこの樹の元に来た時、精霊たちが私を突き飛ばしたんだよ』
ーーーーは?
初めて知った事実に、目を丸くする。え?精霊たちってば、そんなことを?
彼らは『緑の手』以外の人間に積極的に関わる事はないし、悪意を以て接する事もないはずだけど。
『多分、私が君を連れて行く嫌なヤツと認識したんだろうね。現に今も、君が眠りについた原因が私だということで、酷い嫌われようだよ』
クスクスと笑う声が聞こえる。え?何、笑うことなの?
思わず首を傾げていると、イリアスは優しさを含む声で甘く囁いた。
『でも彼らがいることで、君が一人寂しい思いをしなくて済むなら、それで良いよ』
ーーーー………。
きゅっと胸が締め付けられる。
獣人にとって、番って大事なもんでしょう?
それを拒否した僕に、何故そんなに優しい事が言えるの?
『本当は私が君を寂しくないようにしたいけど、ね』
ふと寂し気な声が聞こえる。僕は思わず顔を上げて、そっと目の前の真っ黒な壁に触れた。
ーーーー………ごめんなさい。貴方が嫌いなんじゃないんです。ただ僕は権力を持つ人が怖い。そして誰かと共に生きていくことが……、怖くて堪らないんです。
ぐっと唇を噛み締める。
『……また来るよ』
そう言い残して、イリアスは帰っていく。
去っていく気配を寂しく感じながら、持て余している自分の気持ちからそっと目を逸らすのだった。
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