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49話:大公の思惑
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「此処、魔族領でですか?」
「そうだ。魔族が人間界で暗躍するとなれば、制限が多すぎて生半可な能力では無理だ。特にセーレは魔族領から出ることができないし、物を異動させる能力も条件が揃わなければ魔族領内でしか使えんしな」
「僕、その制限っていうの知らなくて。魔界の魔族を魔族領に出て来るのに魔王の許可がいるってライラに教えて貰って初めて知りました」
うーんと首を捻って伝えると、ラニットは改めて僕を眺めそして自分の顎に指を当てて考え始めた。
「ラニット?どうしたんですか?」
暫く待っていたけど、あまりに反応がなくて声をかける。するとラニットは「何でもない」というように首を振った。
「魔族はその辺の摂理は自然に理解している。だから説明をする必要性を感じていなかったと思ってな」
そう言うと、ラニットは僕をひょいっと抱え上げて膝の上に乗せた。
「今回、その点は知っておいたほうが良いだろう」
「はい」
「まずさっきレイル自身が言っていたが、魔界の魔族が人間界の魔族領に出るためには魔王の許可がいる。例外があるとしたら人の夢に潜り込む能力を持つ夢魔だけだ。そして魔族領から人間が統治する地に赴くには、魔王とその地の王の許可がいる」
「随分厳重ですね?」
「人間は魔族と比べると遥かに弱いからな。遥か昔、まだ制約が課されていなかった時代に、一体の魔族が人間の国を一つ滅ぼしたっていう記録があるくらいだ。それでいくと、セーレはそもそも魔族領から移動できないし、魔王が許可しなければ他の魔族を外に出すことも叶わん。故に事を起こすなら、相手をこちらに呼びつけて……となるだろうな」
「成る程……じゃあ、」
続けて質問をしようとした時、コンコンと扉が叩かれ、返事を待たずにライラが飛び込んできた。
「大公がこっちに向かうッテ」
「……そうか」
軽く頷くと、ラニットは名残り惜し気に僕の額に唇を落とした。
「流石に奴にバレずに此処に留まり続けるのは難しい。一旦魔界に戻る」
「はい」
返事はするけど、少し淋しく感じて僕は俯いてしまう。その僕の顎を指で掬い上げるように持ち上げると、ラニットは優しく目を細めた。
「……思っていることを言え」
「ラニットが居なくなるの、淋しいなって……」
素直に伝える。だって気持ちを言葉で表現してくれたら嬉しいって前にラニットが言ってくれたんだもの。
子供じゃないのに淋しがって恥ずかしいなって思っていると、ラニットは「良くできた」とばかりに甘く微笑んだ。
「何かあれば必ず俺を呼べ。いいな?」
頬を指先で撫でてそう念を押すと、僕を膝から下ろしすっと魔道に身を滑り込ませて姿を消してしまった。
さっきまであった温もりが消えて凄く淋しくなった僕は、ラニットが消えた空中を見つめてため息を落とす。
ーーまた呼んで良いって言ってくれたし、きっと大丈夫。
そう自分を宥めていると、ポンっと頭の上に何かが乗った。「え?」っと視線を上げると、側に近寄っていたライラが僕の頭に手を乗せていた。
「大丈夫ダヨ、ラニット様は強いからネ。絶対レイルを守ってくれルサ」
「うん」
ライラの優しい慰めに笑って頷くと、僕はやがて来る大公を迎えるべく居住まいを正したのだった。
★☆★☆
「少しはまともな恰好になったな」
部屋を訪れた大公は、僕の全身をチェックして開口一番そう言った。
まぁ確かに寝衣で出歩いた僕が悪いんだし、多少の嫌味を受けるのは仕方ない。
返事を待つつもりもないのか、大公は続けて僕に一通の封筒を差し出した。
「これ、何ですか?」
「新たな魔王の誕生を知らせる目的の祝賀パーティーの案内状だ。日時が記載してあるから準備をしておけ」
「……誰を招待したんですか?」
「通例では各国の国王もしくは王太子が来る」
「こんな時期に……ですか?」
こんな審判の日の間近で異常気象となっている今、国のトップが果たして魔族領に来るんだろうか?
探るように大公を見ると、彼は気にした様子もなく肩を竦めた。
「当然来る。寧ろ喜んで来るだろうな」
「どうしてそう言えるんですか?」
自信ありげな様子に首を傾げると、大公はふっと嗤った。
「審判の日の余波を乗り越えるための対策は、単一国だけでは難しい。他所の国の余過剰の物資と自国の物を交換したいと考えているだろう。であれば、この一斉に国のトップが集う場は願ったり叶ったりのはずだ」
そう言われると、確かにそうだ。たださっきラニットが言っていた『事を起こすなら相手をこちらに呼びつけて』の条件がぴったりと当てはまる状況に凄く嫌な予感がする。
僕は渡された封筒をピリッと開け、中に入っていたカードを取り出す。そして素早くカードに記された日時を見て、驚きに目を見開いてしまった。
「この日付……、明日じゃないですか!!」
「各国には貴方が魔族領に来た時点で知らせを送っている。何ら問題はない」
そういうとじっと僕を眺めて、満足そうに頷いた。
「それに今回魔王となった者は人間であること、そしてそれが『審判を下す者』であることも通知済みだ。貴方の生国は真っ先にやってくるだろうな」
「そうだ。魔族が人間界で暗躍するとなれば、制限が多すぎて生半可な能力では無理だ。特にセーレは魔族領から出ることができないし、物を異動させる能力も条件が揃わなければ魔族領内でしか使えんしな」
「僕、その制限っていうの知らなくて。魔界の魔族を魔族領に出て来るのに魔王の許可がいるってライラに教えて貰って初めて知りました」
うーんと首を捻って伝えると、ラニットは改めて僕を眺めそして自分の顎に指を当てて考え始めた。
「ラニット?どうしたんですか?」
暫く待っていたけど、あまりに反応がなくて声をかける。するとラニットは「何でもない」というように首を振った。
「魔族はその辺の摂理は自然に理解している。だから説明をする必要性を感じていなかったと思ってな」
そう言うと、ラニットは僕をひょいっと抱え上げて膝の上に乗せた。
「今回、その点は知っておいたほうが良いだろう」
「はい」
「まずさっきレイル自身が言っていたが、魔界の魔族が人間界の魔族領に出るためには魔王の許可がいる。例外があるとしたら人の夢に潜り込む能力を持つ夢魔だけだ。そして魔族領から人間が統治する地に赴くには、魔王とその地の王の許可がいる」
「随分厳重ですね?」
「人間は魔族と比べると遥かに弱いからな。遥か昔、まだ制約が課されていなかった時代に、一体の魔族が人間の国を一つ滅ぼしたっていう記録があるくらいだ。それでいくと、セーレはそもそも魔族領から移動できないし、魔王が許可しなければ他の魔族を外に出すことも叶わん。故に事を起こすなら、相手をこちらに呼びつけて……となるだろうな」
「成る程……じゃあ、」
続けて質問をしようとした時、コンコンと扉が叩かれ、返事を待たずにライラが飛び込んできた。
「大公がこっちに向かうッテ」
「……そうか」
軽く頷くと、ラニットは名残り惜し気に僕の額に唇を落とした。
「流石に奴にバレずに此処に留まり続けるのは難しい。一旦魔界に戻る」
「はい」
返事はするけど、少し淋しく感じて僕は俯いてしまう。その僕の顎を指で掬い上げるように持ち上げると、ラニットは優しく目を細めた。
「……思っていることを言え」
「ラニットが居なくなるの、淋しいなって……」
素直に伝える。だって気持ちを言葉で表現してくれたら嬉しいって前にラニットが言ってくれたんだもの。
子供じゃないのに淋しがって恥ずかしいなって思っていると、ラニットは「良くできた」とばかりに甘く微笑んだ。
「何かあれば必ず俺を呼べ。いいな?」
頬を指先で撫でてそう念を押すと、僕を膝から下ろしすっと魔道に身を滑り込ませて姿を消してしまった。
さっきまであった温もりが消えて凄く淋しくなった僕は、ラニットが消えた空中を見つめてため息を落とす。
ーーまた呼んで良いって言ってくれたし、きっと大丈夫。
そう自分を宥めていると、ポンっと頭の上に何かが乗った。「え?」っと視線を上げると、側に近寄っていたライラが僕の頭に手を乗せていた。
「大丈夫ダヨ、ラニット様は強いからネ。絶対レイルを守ってくれルサ」
「うん」
ライラの優しい慰めに笑って頷くと、僕はやがて来る大公を迎えるべく居住まいを正したのだった。
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「少しはまともな恰好になったな」
部屋を訪れた大公は、僕の全身をチェックして開口一番そう言った。
まぁ確かに寝衣で出歩いた僕が悪いんだし、多少の嫌味を受けるのは仕方ない。
返事を待つつもりもないのか、大公は続けて僕に一通の封筒を差し出した。
「これ、何ですか?」
「新たな魔王の誕生を知らせる目的の祝賀パーティーの案内状だ。日時が記載してあるから準備をしておけ」
「……誰を招待したんですか?」
「通例では各国の国王もしくは王太子が来る」
「こんな時期に……ですか?」
こんな審判の日の間近で異常気象となっている今、国のトップが果たして魔族領に来るんだろうか?
探るように大公を見ると、彼は気にした様子もなく肩を竦めた。
「当然来る。寧ろ喜んで来るだろうな」
「どうしてそう言えるんですか?」
自信ありげな様子に首を傾げると、大公はふっと嗤った。
「審判の日の余波を乗り越えるための対策は、単一国だけでは難しい。他所の国の余過剰の物資と自国の物を交換したいと考えているだろう。であれば、この一斉に国のトップが集う場は願ったり叶ったりのはずだ」
そう言われると、確かにそうだ。たださっきラニットが言っていた『事を起こすなら相手をこちらに呼びつけて』の条件がぴったりと当てはまる状況に凄く嫌な予感がする。
僕は渡された封筒をピリッと開け、中に入っていたカードを取り出す。そして素早くカードに記された日時を見て、驚きに目を見開いてしまった。
「この日付……、明日じゃないですか!!」
「各国には貴方が魔族領に来た時点で知らせを送っている。何ら問題はない」
そういうとじっと僕を眺めて、満足そうに頷いた。
「それに今回魔王となった者は人間であること、そしてそれが『審判を下す者』であることも通知済みだ。貴方の生国は真っ先にやってくるだろうな」
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