46 / 60
46話:呼び出す権利?
しおりを挟む
「……神々に対して随分不遜な物言いだな」
呆れたように呟くと、大公はそのままスタスタと歩き始めた。
「え、ちょっと、待って、待ってください!僕、本気で……っ!」
「貴方の本気などどうでもいい。取り合えず、見苦しくないように身なりを整えるんだ」
そう言うと、辿り着いた部屋に僕をぽいっと放り込み、僕が居なくなったことに気付いて青ざめていた従僕に着替えをさせるように命じていた。
「着かえさせろ。今日は冷え込むから、しっかり着せておけ」
そしてサッサと部屋からいなくなってしまった。
立ち去る大公に恭しく頭を下げていた従僕は、暫くして上体を起こして困ったような笑みを浮かべた。
「お部屋にお伺いしたらいらっしゃらなくて驚きました」
「ご……ごめんなさい。すっかり痛みもなくなっていたから、ちょっとお散歩に行ってみたくて」
「お謝りになることはありませんよ。魔王様の行動を妨げるものなど、この魔族領にはおりませんから。ただ少し私が驚いたというだけです。さあお召し物を変えましょう」
彼はにこっと笑むと、クローゼットから服を選んで丁寧に着替えさせてくれた。
その間、僕は対策を練るべく考えを巡らせたんだけど、良い案が一つも出ない。もともと人間界で何か事を起こすには、僕に力も財力も地位もないんだもの。
考えあぐねて俯いてしまった僕に、従僕である彼は優しく声をかけてきた。
「僭越ながら、少し宜しいでしょうか?」
「え……あ、はい。何でしょう」?」
「魔王様は、審判の日のについてあまり詳しくはご存じではありませんよね?」
「……はい。そもそも、審判の日なんて言葉も魔界で初めて聞きました」
「少し思い違いをなさっているかなと……」
「思い違いですか?」
何を?と首を傾げると、彼は僕をソファーに誘い座らせ温かいお茶の準備をしてくれた。
「審判の日で、存続の必要性を認めないと判断された場合、消滅するのは『国』です」
目の前に膝を付き、僅かに見上げる態勢で話を続ける。
「魔界はそれが一つの国と見做されるので、審判の日が来てしまうと全滅してしまいます。でも魔族は肉体による性交を伴わずとも勝手に増える種族なので絶えることはありません」
魔族って勝手に増えるんだ……。人間と見た目が似ているから、その……受胎して増えているものとばかり思ってた。ちょっと衝撃を受けながら小さく頷く。
「しかし人間界には幾つかの国が存在していますね?審判の日に滅するのは該当の国だけなんです。人間は受胎で数を増やす種族ですから、人間そのものが減ってしまえば絶えてしまいます。その観点から、国民は審判が下る前に国を捨てて他国に逃げることができるんですよ」
「え、そうなの!?」
「ええ。国から脱出できないのは、政に携わった者達、即ち王族と貴族達です」
「そうなんだ……」
何の咎もない人達が逃げ出す事ができるなら少しは安心だけど……。
「でも魔族領も、アステール王国ではないのに異常気象になっっていますよね?」
「それは、余波です」
「余波………」
ラニットが言っていた。僕が居れば少しは抑えられるって。
「神々の怒りは強いのです。国一つ滅ぼす為に力を奮えば、周りにも影響が出るのは当然か、と」
「それだと、国を逃げ出した国民が無事でいる保証はないですね?」
この異常事態だと、他国の産業も打撃を受けているはず。
よその国民に対して備蓄を解放してくれるとは思えないし、そもそも受け入れてくれるかも分からないな……。
ううん……と、親指の爪を齧りながら考えていると、その僕の手を彼は優しく押さえてきた。
「美しい爪が歪んでしまいますよ、レイル」
「………え?」
不意に名を呼ばれてパチリと瞬くと、従僕の彼は可笑しそうに微笑んだ。
「いつまでも気付かないんだモノ。ボク、おかしくッテさ」
「もしかして………ライラ……なんですか?」
聞き覚えのある話し方。じっと見つめて名前を呼ぶと、彼はクスクス笑い出した。
「そうだヨ。前魔王様に命じられて、こっちに来たんダヨ」
「そ……そうなんだ…」
全然気付かなかった……。
「魔族領とはいえ、ここは人間界だからネ。魔界の魔族は勝手に来れないんダヨ」
「そうなの?魔界と魔族領は自由に行き来できるのかと……」
やっぱりまだ知らないことが多い。僕はほけっとライラを見つめながら、そう思った。
ーーライラが来てくれて嬉しいんですが。やっぱり僕は……。
視線を床に落とす。
ーーラニットに会いたいです……。
その時、ぽんと頭に手が乗せられた。
「自由に行き来できるのは魔王様ダケ。他は魔王様の許可がないと此方に来れないんダヨ」
「僕の許可?」
「そーダヨ。ねぇ、いい加減呼んであげなヨ。ずーっと待ってるんダ」
「え?」
「会いたいんでショ?ラニット様に。あの方も、ずーっと待ってるヨ、レイルが呼んでくれるのをサ」
呆れたように呟くと、大公はそのままスタスタと歩き始めた。
「え、ちょっと、待って、待ってください!僕、本気で……っ!」
「貴方の本気などどうでもいい。取り合えず、見苦しくないように身なりを整えるんだ」
そう言うと、辿り着いた部屋に僕をぽいっと放り込み、僕が居なくなったことに気付いて青ざめていた従僕に着替えをさせるように命じていた。
「着かえさせろ。今日は冷え込むから、しっかり着せておけ」
そしてサッサと部屋からいなくなってしまった。
立ち去る大公に恭しく頭を下げていた従僕は、暫くして上体を起こして困ったような笑みを浮かべた。
「お部屋にお伺いしたらいらっしゃらなくて驚きました」
「ご……ごめんなさい。すっかり痛みもなくなっていたから、ちょっとお散歩に行ってみたくて」
「お謝りになることはありませんよ。魔王様の行動を妨げるものなど、この魔族領にはおりませんから。ただ少し私が驚いたというだけです。さあお召し物を変えましょう」
彼はにこっと笑むと、クローゼットから服を選んで丁寧に着替えさせてくれた。
その間、僕は対策を練るべく考えを巡らせたんだけど、良い案が一つも出ない。もともと人間界で何か事を起こすには、僕に力も財力も地位もないんだもの。
考えあぐねて俯いてしまった僕に、従僕である彼は優しく声をかけてきた。
「僭越ながら、少し宜しいでしょうか?」
「え……あ、はい。何でしょう」?」
「魔王様は、審判の日のについてあまり詳しくはご存じではありませんよね?」
「……はい。そもそも、審判の日なんて言葉も魔界で初めて聞きました」
「少し思い違いをなさっているかなと……」
「思い違いですか?」
何を?と首を傾げると、彼は僕をソファーに誘い座らせ温かいお茶の準備をしてくれた。
「審判の日で、存続の必要性を認めないと判断された場合、消滅するのは『国』です」
目の前に膝を付き、僅かに見上げる態勢で話を続ける。
「魔界はそれが一つの国と見做されるので、審判の日が来てしまうと全滅してしまいます。でも魔族は肉体による性交を伴わずとも勝手に増える種族なので絶えることはありません」
魔族って勝手に増えるんだ……。人間と見た目が似ているから、その……受胎して増えているものとばかり思ってた。ちょっと衝撃を受けながら小さく頷く。
「しかし人間界には幾つかの国が存在していますね?審判の日に滅するのは該当の国だけなんです。人間は受胎で数を増やす種族ですから、人間そのものが減ってしまえば絶えてしまいます。その観点から、国民は審判が下る前に国を捨てて他国に逃げることができるんですよ」
「え、そうなの!?」
「ええ。国から脱出できないのは、政に携わった者達、即ち王族と貴族達です」
「そうなんだ……」
何の咎もない人達が逃げ出す事ができるなら少しは安心だけど……。
「でも魔族領も、アステール王国ではないのに異常気象になっっていますよね?」
「それは、余波です」
「余波………」
ラニットが言っていた。僕が居れば少しは抑えられるって。
「神々の怒りは強いのです。国一つ滅ぼす為に力を奮えば、周りにも影響が出るのは当然か、と」
「それだと、国を逃げ出した国民が無事でいる保証はないですね?」
この異常事態だと、他国の産業も打撃を受けているはず。
よその国民に対して備蓄を解放してくれるとは思えないし、そもそも受け入れてくれるかも分からないな……。
ううん……と、親指の爪を齧りながら考えていると、その僕の手を彼は優しく押さえてきた。
「美しい爪が歪んでしまいますよ、レイル」
「………え?」
不意に名を呼ばれてパチリと瞬くと、従僕の彼は可笑しそうに微笑んだ。
「いつまでも気付かないんだモノ。ボク、おかしくッテさ」
「もしかして………ライラ……なんですか?」
聞き覚えのある話し方。じっと見つめて名前を呼ぶと、彼はクスクス笑い出した。
「そうだヨ。前魔王様に命じられて、こっちに来たんダヨ」
「そ……そうなんだ…」
全然気付かなかった……。
「魔族領とはいえ、ここは人間界だからネ。魔界の魔族は勝手に来れないんダヨ」
「そうなの?魔界と魔族領は自由に行き来できるのかと……」
やっぱりまだ知らないことが多い。僕はほけっとライラを見つめながら、そう思った。
ーーライラが来てくれて嬉しいんですが。やっぱり僕は……。
視線を床に落とす。
ーーラニットに会いたいです……。
その時、ぽんと頭に手が乗せられた。
「自由に行き来できるのは魔王様ダケ。他は魔王様の許可がないと此方に来れないんダヨ」
「僕の許可?」
「そーダヨ。ねぇ、いい加減呼んであげなヨ。ずーっと待ってるんダ」
「え?」
「会いたいんでショ?ラニット様に。あの方も、ずーっと待ってるヨ、レイルが呼んでくれるのをサ」
57
お気に入りに追加
1,012
あなたにおすすめの小説
【完結】Ω嫌いのαが好きなのに、Ωになってしまったβの話
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
無遠慮に襲ってくるΩが嫌いで、バースに影響されないβが好きな引きこもり社会人α
VS
βであることを利用してαから寵愛を受けていたが、Ω転換してしまい逃走する羽目になった大学生β
\ファイ!/
■作品傾向:ハピエン確約のすれ違い&両片思い
■性癖:現代オメガバースBL×友達以上、恋人未満×攻めからの逃走
βであることを利用して好きな人に近づいていた受けが、Ωに転換してしまい奔走する現代オメガバースBLです。
【詳しいあらすじ】
Ωのフェロモンに当てられて発情期を引き起こし、苦しんでいたαである籠理を救ったβの狭間。
籠理に気に入られた彼は、並み居るΩを尻目に囲われて恋人のような日々を過ごす。
だがその立場はαを誘惑しないβだから与えられていて、無条件に愛されているわけではなかった。
それを自覚しているからこそ引き際を考えながら生きていたが、ある日βにはない発情期に襲われる。
αを引き付ける発情期を引き起こしたことにより、狭間は自身がΩになり始めていることを理解した。
幸い完全なΩには至ってはいなかったが、Ω嫌いである籠理の側にはいられない。
狭間はβに戻る為に奔走するが、やがて非合法な道へと足を踏み外していく――。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】亡国の王子、砂漠の王に求愛される 〜僕はお嫁さんじゃなくて、きみの戦友になりたいんだが〜
古井重箱
BL
【あらすじ】革命によって王太子の座を追われたウィルレインは、砂漠のオアシスにある娼館に売られる。死を望むウィルレインを救ったのは、砂漠を統べる傭兵王リシャールだった。ウィルレインはリシャールの居城に招かれ、オアシスで働くようになる。リシャールの戦友になりたいと願うウィルレイン。しかしリシャールは「俺の嫁になれ」と熱い想いを捧げてくるのだった。【注記】豪快だけど純情な傭兵王(20)×美人だけどたくましい亡国の王子(18)。冒頭にモブとの絡みあり。(モブによる手コキ、モブの目の前で射精、モブによる視姦)モブとの本番行為はありません。R18シーンを含む回には*をつけております。この作品は、アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
次期公爵は魔術師にご執心のようです
みつきみつか
BL
【R18】魔術アカデミーで講師をしていた若き魔術師ロイは、人間関係に疲れ、学術都市の郊外にある小さな研究所の臨時勤務を選んだ。
父の勧めで隣国の商家令嬢との縁談も決まり、あとは国を出るまで好きな研究に没頭する日々……と思いきや、ある日やってきたのは、魔術アカデミー勤務の前の城付き魔術師だった頃の生徒で、公国の次期元首である公爵家の長男ヴィンセント。
「急にいなくなるなんてーーひどいです。先生」
執着系美形次期公爵×無自覚系幼馴染魔術師。
R18は(※)をつけます。
やや無理矢理ですがハッピーエンドです。
設定ふんわり気味の異世界ファンタジーです(お許しください)。
全六話です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ヒロインの兄は悪役令嬢推し
西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる