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46話:呼び出す権利?
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「……神々に対して随分不遜な物言いだな」
呆れたように呟くと、大公はそのままスタスタと歩き始めた。
「え、ちょっと、待って、待ってください!僕、本気で……っ!」
「貴方の本気などどうでもいい。取り合えず、見苦しくないように身なりを整えるんだ」
そう言うと、辿り着いた部屋に僕をぽいっと放り込み、僕が居なくなったことに気付いて青ざめていた従僕に着替えをさせるように命じていた。
「着かえさせろ。今日は冷え込むから、しっかり着せておけ」
そしてサッサと部屋からいなくなってしまった。
立ち去る大公に恭しく頭を下げていた従僕は、暫くして上体を起こして困ったような笑みを浮かべた。
「お部屋にお伺いしたらいらっしゃらなくて驚きました」
「ご……ごめんなさい。すっかり痛みもなくなっていたから、ちょっとお散歩に行ってみたくて」
「お謝りになることはありませんよ。魔王様の行動を妨げるものなど、この魔族領にはおりませんから。ただ少し私が驚いたというだけです。さあお召し物を変えましょう」
彼はにこっと笑むと、クローゼットから服を選んで丁寧に着替えさせてくれた。
その間、僕は対策を練るべく考えを巡らせたんだけど、良い案が一つも出ない。もともと人間界で何か事を起こすには、僕に力も財力も地位もないんだもの。
考えあぐねて俯いてしまった僕に、従僕である彼は優しく声をかけてきた。
「僭越ながら、少し宜しいでしょうか?」
「え……あ、はい。何でしょう」?」
「魔王様は、審判の日のについてあまり詳しくはご存じではありませんよね?」
「……はい。そもそも、審判の日なんて言葉も魔界で初めて聞きました」
「少し思い違いをなさっているかなと……」
「思い違いですか?」
何を?と首を傾げると、彼は僕をソファーに誘い座らせ温かいお茶の準備をしてくれた。
「審判の日で、存続の必要性を認めないと判断された場合、消滅するのは『国』です」
目の前に膝を付き、僅かに見上げる態勢で話を続ける。
「魔界はそれが一つの国と見做されるので、審判の日が来てしまうと全滅してしまいます。でも魔族は肉体による性交を伴わずとも勝手に増える種族なので絶えることはありません」
魔族って勝手に増えるんだ……。人間と見た目が似ているから、その……受胎して増えているものとばかり思ってた。ちょっと衝撃を受けながら小さく頷く。
「しかし人間界には幾つかの国が存在していますね?審判の日に滅するのは該当の国だけなんです。人間は受胎で数を増やす種族ですから、人間そのものが減ってしまえば絶えてしまいます。その観点から、国民は審判が下る前に国を捨てて他国に逃げることができるんですよ」
「え、そうなの!?」
「ええ。国から脱出できないのは、政に携わった者達、即ち王族と貴族達です」
「そうなんだ……」
何の咎もない人達が逃げ出す事ができるなら少しは安心だけど……。
「でも魔族領も、アステール王国ではないのに異常気象になっっていますよね?」
「それは、余波です」
「余波………」
ラニットが言っていた。僕が居れば少しは抑えられるって。
「神々の怒りは強いのです。国一つ滅ぼす為に力を奮えば、周りにも影響が出るのは当然か、と」
「それだと、国を逃げ出した国民が無事でいる保証はないですね?」
この異常事態だと、他国の産業も打撃を受けているはず。
よその国民に対して備蓄を解放してくれるとは思えないし、そもそも受け入れてくれるかも分からないな……。
ううん……と、親指の爪を齧りながら考えていると、その僕の手を彼は優しく押さえてきた。
「美しい爪が歪んでしまいますよ、レイル」
「………え?」
不意に名を呼ばれてパチリと瞬くと、従僕の彼は可笑しそうに微笑んだ。
「いつまでも気付かないんだモノ。ボク、おかしくッテさ」
「もしかして………ライラ……なんですか?」
聞き覚えのある話し方。じっと見つめて名前を呼ぶと、彼はクスクス笑い出した。
「そうだヨ。前魔王様に命じられて、こっちに来たんダヨ」
「そ……そうなんだ…」
全然気付かなかった……。
「魔族領とはいえ、ここは人間界だからネ。魔界の魔族は勝手に来れないんダヨ」
「そうなの?魔界と魔族領は自由に行き来できるのかと……」
やっぱりまだ知らないことが多い。僕はほけっとライラを見つめながら、そう思った。
ーーライラが来てくれて嬉しいんですが。やっぱり僕は……。
視線を床に落とす。
ーーラニットに会いたいです……。
その時、ぽんと頭に手が乗せられた。
「自由に行き来できるのは魔王様ダケ。他は魔王様の許可がないと此方に来れないんダヨ」
「僕の許可?」
「そーダヨ。ねぇ、いい加減呼んであげなヨ。ずーっと待ってるんダ」
「え?」
「会いたいんでショ?ラニット様に。あの方も、ずーっと待ってるヨ、レイルが呼んでくれるのをサ」
呆れたように呟くと、大公はそのままスタスタと歩き始めた。
「え、ちょっと、待って、待ってください!僕、本気で……っ!」
「貴方の本気などどうでもいい。取り合えず、見苦しくないように身なりを整えるんだ」
そう言うと、辿り着いた部屋に僕をぽいっと放り込み、僕が居なくなったことに気付いて青ざめていた従僕に着替えをさせるように命じていた。
「着かえさせろ。今日は冷え込むから、しっかり着せておけ」
そしてサッサと部屋からいなくなってしまった。
立ち去る大公に恭しく頭を下げていた従僕は、暫くして上体を起こして困ったような笑みを浮かべた。
「お部屋にお伺いしたらいらっしゃらなくて驚きました」
「ご……ごめんなさい。すっかり痛みもなくなっていたから、ちょっとお散歩に行ってみたくて」
「お謝りになることはありませんよ。魔王様の行動を妨げるものなど、この魔族領にはおりませんから。ただ少し私が驚いたというだけです。さあお召し物を変えましょう」
彼はにこっと笑むと、クローゼットから服を選んで丁寧に着替えさせてくれた。
その間、僕は対策を練るべく考えを巡らせたんだけど、良い案が一つも出ない。もともと人間界で何か事を起こすには、僕に力も財力も地位もないんだもの。
考えあぐねて俯いてしまった僕に、従僕である彼は優しく声をかけてきた。
「僭越ながら、少し宜しいでしょうか?」
「え……あ、はい。何でしょう」?」
「魔王様は、審判の日のについてあまり詳しくはご存じではありませんよね?」
「……はい。そもそも、審判の日なんて言葉も魔界で初めて聞きました」
「少し思い違いをなさっているかなと……」
「思い違いですか?」
何を?と首を傾げると、彼は僕をソファーに誘い座らせ温かいお茶の準備をしてくれた。
「審判の日で、存続の必要性を認めないと判断された場合、消滅するのは『国』です」
目の前に膝を付き、僅かに見上げる態勢で話を続ける。
「魔界はそれが一つの国と見做されるので、審判の日が来てしまうと全滅してしまいます。でも魔族は肉体による性交を伴わずとも勝手に増える種族なので絶えることはありません」
魔族って勝手に増えるんだ……。人間と見た目が似ているから、その……受胎して増えているものとばかり思ってた。ちょっと衝撃を受けながら小さく頷く。
「しかし人間界には幾つかの国が存在していますね?審判の日に滅するのは該当の国だけなんです。人間は受胎で数を増やす種族ですから、人間そのものが減ってしまえば絶えてしまいます。その観点から、国民は審判が下る前に国を捨てて他国に逃げることができるんですよ」
「え、そうなの!?」
「ええ。国から脱出できないのは、政に携わった者達、即ち王族と貴族達です」
「そうなんだ……」
何の咎もない人達が逃げ出す事ができるなら少しは安心だけど……。
「でも魔族領も、アステール王国ではないのに異常気象になっっていますよね?」
「それは、余波です」
「余波………」
ラニットが言っていた。僕が居れば少しは抑えられるって。
「神々の怒りは強いのです。国一つ滅ぼす為に力を奮えば、周りにも影響が出るのは当然か、と」
「それだと、国を逃げ出した国民が無事でいる保証はないですね?」
この異常事態だと、他国の産業も打撃を受けているはず。
よその国民に対して備蓄を解放してくれるとは思えないし、そもそも受け入れてくれるかも分からないな……。
ううん……と、親指の爪を齧りながら考えていると、その僕の手を彼は優しく押さえてきた。
「美しい爪が歪んでしまいますよ、レイル」
「………え?」
不意に名を呼ばれてパチリと瞬くと、従僕の彼は可笑しそうに微笑んだ。
「いつまでも気付かないんだモノ。ボク、おかしくッテさ」
「もしかして………ライラ……なんですか?」
聞き覚えのある話し方。じっと見つめて名前を呼ぶと、彼はクスクス笑い出した。
「そうだヨ。前魔王様に命じられて、こっちに来たんダヨ」
「そ……そうなんだ…」
全然気付かなかった……。
「魔族領とはいえ、ここは人間界だからネ。魔界の魔族は勝手に来れないんダヨ」
「そうなの?魔界と魔族領は自由に行き来できるのかと……」
やっぱりまだ知らないことが多い。僕はほけっとライラを見つめながら、そう思った。
ーーライラが来てくれて嬉しいんですが。やっぱり僕は……。
視線を床に落とす。
ーーラニットに会いたいです……。
その時、ぽんと頭に手が乗せられた。
「自由に行き来できるのは魔王様ダケ。他は魔王様の許可がないと此方に来れないんダヨ」
「僕の許可?」
「そーダヨ。ねぇ、いい加減呼んであげなヨ。ずーっと待ってるんダ」
「え?」
「会いたいんでショ?ラニット様に。あの方も、ずーっと待ってるヨ、レイルが呼んでくれるのをサ」
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