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37話:魔王になりました!
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一通り気持ちを叫んで、ふぅ……っと息をつく。
魔王様が執務室に在席しているのは、真っ黒さんに聞いて知っているんだ。
ーーちゃんと僕の声、届いたでしょうか?
じっと目を凝らして魔王城の入口扉の横、ぴょこっと飛び出した執務室の窓を見た。
窓辺に黒い人影が見える。ちょっと遠くて分かり辛いけど、頭にある二つの角が見えたから、絶対にあれは魔王様だ。
歴代の魔王様は皆さん短気で、魔王戦を挑むための口上を聞くや否や執務室を破壊して飛び出したってお話だったけれど。
僕の口上は、少し……いえ、だいぶん迫力に欠けるから、怒りに我を忘れて飛び出す程じゃないのかもしれない。
ドキドキと激しく打つ胸に手を当てて、魔王様の反応を待つ。
すると広場の石畳にふわりと青い魔法陣が浮かび上がり、仄かな風を吹き上げた。
ハタハタと制服の裾がはためく。
一体何が……と辺りを見渡していると、ふっと魔王様が目の前に姿を現した。
ゼロ距離で立つ魔王様は、背の高さも身体の厚みも、身に纏う威厳や迫力も、何もかも全て僕なんかとは桁違いに凄い。
それでも僕はじっと挑むように魔王様を見上げた。
何も言わず、無表情で見下ろしてくる魔王様は正直怖い。
でも、今、視線を逸らしたらそれで全てが終わってしまうと何となく感じたから、僕は脚に力を入れて魔王様からの圧に耐えた。
「……何故、魔王戦を望んだ?」
「僕が魔界に居続けるためです。魔王様に僕が必要なくても、魔界には魔王が必要でしょう?」
「オマエは何と言われようと人間だ。眩しき陽の光も差さぬ、美しき月の光も届かぬ魔界に、その内必ず倦む日がくるだろう。従者であればまだしも、魔王ともなればその座を簡単に退く事はできんぞ」
「そんな事、知ってます!」
ムッとして、魔王様を睨む目に力を籠めた。
「眩しい太陽の光も、美しい月の光も、僕の人生の救いになった事なんて唯の一度もありません!」
誰も僕を必要としない人間界は殺伐としていて、美しいものなんか一つもなかった。
でも、魔界は違う。
魔族の人達は個性的で変だし、お城は薄暗く機能性重視だし、外は万年曇りで日中でも明るくはない。
でも魔族の人達は優しく温かだし、魔王様に会えると思うと毎日が楽しく、人間界に居た時より何倍もキラキラ輝く日々だった。
この愛しい世界に、僕はずっと居たいんだ。
「僕は、僕の意思で魔界を選びます。審判を下す者の望まぬ事は強制できないって、望む事を妨げてはならないって教えてくれましたよね?」
魔王様は僕をじっと見つめたまま、微動だにしない。
「じゃ、僕が魔王の座を望むのを妨げないで。僕はこのまま魔界にいる。そして魔王様…………、ラニットが側にいてくれるように頑張る。だから………」
そっと手を伸ばす。魔法陣から拭き上げる仄かな風に揺らめく魔王様の漆黒のマントをぎゅっと握り締めた。
「ーーずっと……僕の側に……。僕と一緒に居て」
何も言わない魔王様に、声は尻すぼみ、視線も自信なく上目遣いになったけど、でも言いたい事は全部言った。
凄く長く感じた、その一瞬。
「ふっ………。魔王戦の口上でここまで熱烈に口説かれるとはな……」
くつくつと、いかにも堪えきれぬといった笑いを洩らし、魔王様が鋭い目をゆるりと緩めた。
「オマエの言う通りだ。審判を下す者の望みは妨げられない。
オマエが望むなら、今日からオマエが魔王だ」
その言葉に反応するかのように、青い光を放っていた魔法陣の色が徐々に変化していく。
「キレイに染まったな」
その魔王様の言葉が聞こえる頃には、魔法陣か放つ光は真紅へと変わっていた。
「これ……?」
「魔王の交代が成った。今、この瞬間から、レイル、オマエが魔王だ」
魔王様……違う、ラニットの両掌が僕の頬を包む。すりっと目元を撫でると、ラニットは愛しそうに微笑んだ。
「美しい赤に染まったな」
「……染まる?」
僕の問に、ラニットは片方の手を頬から外し、自分の目尻を指先でポンと示す。
指先を追って改めてラニットの瞳を見ると、金赤の瞳はほんのり赤みを帯びた鮮やかな金色へと変化していた。
「魔王様の瞳………」
「俺は魔王じゃない。ラニットと呼べ」
「………ラ、ラニットの瞳の色が変わってます」
「そうだ。魔族は一様に漆黒の髪、金の瞳と決まっている。赤い色を持つのは魔王のみ」
そう言われて、僕も自分の目元を指先でソロリと撫でた。
「もしかして、僕の瞳の色も変わってますか?」
「勿論。今までに見たこともないくらい美しい、真紅になっている」
嬉しそうに笑みを深めたラニットは、身を屈めると僕の瞼に唇を落としてきた。
「俺の愛しき魔王よ。オマエの望みを叶える栄誉を俺にくれ」
睦言のように甘く囁きながら、瞼から鼻筋、頬と顔中に接吻を降らせてくる。
僕は嬉しいやら恥ずかしいやらで思わず身を捩ると、ラニットはすかさず片腕で僕の腰を抱き、逃げられないように動きを封じ込めてきた。
「あらん………。ラニットの最後の理性が外れた気がするわぁ。ねぇ、プルソン?」
「そうですねぇ……。今までに上に立つものとして理性を総動員させて我慢していたんでしょうけど。どう見ても据え膳を喰う直前ですよね、アレ」
「未成年への手出しは、人間界では犯罪では?」
『ヴィネ、ここ魔界だよ?犯罪もなにも、魔族は本能で動くもんだし問題ないでしょ。まぁ敢えて言うなら、ちょっとショタ入った変態なのは問題かな?』
はっと我に返ると、魔法陣の外側には四将軍達が勢揃いしていて、好き勝手に喋っていた。
えっと………。これは勿論、僕の魔王戦の口上も聞かれているよね?……………う、恥ずかしくて、凄くいたたまれませんよ、僕。
魔王様が執務室に在席しているのは、真っ黒さんに聞いて知っているんだ。
ーーちゃんと僕の声、届いたでしょうか?
じっと目を凝らして魔王城の入口扉の横、ぴょこっと飛び出した執務室の窓を見た。
窓辺に黒い人影が見える。ちょっと遠くて分かり辛いけど、頭にある二つの角が見えたから、絶対にあれは魔王様だ。
歴代の魔王様は皆さん短気で、魔王戦を挑むための口上を聞くや否や執務室を破壊して飛び出したってお話だったけれど。
僕の口上は、少し……いえ、だいぶん迫力に欠けるから、怒りに我を忘れて飛び出す程じゃないのかもしれない。
ドキドキと激しく打つ胸に手を当てて、魔王様の反応を待つ。
すると広場の石畳にふわりと青い魔法陣が浮かび上がり、仄かな風を吹き上げた。
ハタハタと制服の裾がはためく。
一体何が……と辺りを見渡していると、ふっと魔王様が目の前に姿を現した。
ゼロ距離で立つ魔王様は、背の高さも身体の厚みも、身に纏う威厳や迫力も、何もかも全て僕なんかとは桁違いに凄い。
それでも僕はじっと挑むように魔王様を見上げた。
何も言わず、無表情で見下ろしてくる魔王様は正直怖い。
でも、今、視線を逸らしたらそれで全てが終わってしまうと何となく感じたから、僕は脚に力を入れて魔王様からの圧に耐えた。
「……何故、魔王戦を望んだ?」
「僕が魔界に居続けるためです。魔王様に僕が必要なくても、魔界には魔王が必要でしょう?」
「オマエは何と言われようと人間だ。眩しき陽の光も差さぬ、美しき月の光も届かぬ魔界に、その内必ず倦む日がくるだろう。従者であればまだしも、魔王ともなればその座を簡単に退く事はできんぞ」
「そんな事、知ってます!」
ムッとして、魔王様を睨む目に力を籠めた。
「眩しい太陽の光も、美しい月の光も、僕の人生の救いになった事なんて唯の一度もありません!」
誰も僕を必要としない人間界は殺伐としていて、美しいものなんか一つもなかった。
でも、魔界は違う。
魔族の人達は個性的で変だし、お城は薄暗く機能性重視だし、外は万年曇りで日中でも明るくはない。
でも魔族の人達は優しく温かだし、魔王様に会えると思うと毎日が楽しく、人間界に居た時より何倍もキラキラ輝く日々だった。
この愛しい世界に、僕はずっと居たいんだ。
「僕は、僕の意思で魔界を選びます。審判を下す者の望まぬ事は強制できないって、望む事を妨げてはならないって教えてくれましたよね?」
魔王様は僕をじっと見つめたまま、微動だにしない。
「じゃ、僕が魔王の座を望むのを妨げないで。僕はこのまま魔界にいる。そして魔王様…………、ラニットが側にいてくれるように頑張る。だから………」
そっと手を伸ばす。魔法陣から拭き上げる仄かな風に揺らめく魔王様の漆黒のマントをぎゅっと握り締めた。
「ーーずっと……僕の側に……。僕と一緒に居て」
何も言わない魔王様に、声は尻すぼみ、視線も自信なく上目遣いになったけど、でも言いたい事は全部言った。
凄く長く感じた、その一瞬。
「ふっ………。魔王戦の口上でここまで熱烈に口説かれるとはな……」
くつくつと、いかにも堪えきれぬといった笑いを洩らし、魔王様が鋭い目をゆるりと緩めた。
「オマエの言う通りだ。審判を下す者の望みは妨げられない。
オマエが望むなら、今日からオマエが魔王だ」
その言葉に反応するかのように、青い光を放っていた魔法陣の色が徐々に変化していく。
「キレイに染まったな」
その魔王様の言葉が聞こえる頃には、魔法陣か放つ光は真紅へと変わっていた。
「これ……?」
「魔王の交代が成った。今、この瞬間から、レイル、オマエが魔王だ」
魔王様……違う、ラニットの両掌が僕の頬を包む。すりっと目元を撫でると、ラニットは愛しそうに微笑んだ。
「美しい赤に染まったな」
「……染まる?」
僕の問に、ラニットは片方の手を頬から外し、自分の目尻を指先でポンと示す。
指先を追って改めてラニットの瞳を見ると、金赤の瞳はほんのり赤みを帯びた鮮やかな金色へと変化していた。
「魔王様の瞳………」
「俺は魔王じゃない。ラニットと呼べ」
「………ラ、ラニットの瞳の色が変わってます」
「そうだ。魔族は一様に漆黒の髪、金の瞳と決まっている。赤い色を持つのは魔王のみ」
そう言われて、僕も自分の目元を指先でソロリと撫でた。
「もしかして、僕の瞳の色も変わってますか?」
「勿論。今までに見たこともないくらい美しい、真紅になっている」
嬉しそうに笑みを深めたラニットは、身を屈めると僕の瞼に唇を落としてきた。
「俺の愛しき魔王よ。オマエの望みを叶える栄誉を俺にくれ」
睦言のように甘く囁きながら、瞼から鼻筋、頬と顔中に接吻を降らせてくる。
僕は嬉しいやら恥ずかしいやらで思わず身を捩ると、ラニットはすかさず片腕で僕の腰を抱き、逃げられないように動きを封じ込めてきた。
「あらん………。ラニットの最後の理性が外れた気がするわぁ。ねぇ、プルソン?」
「そうですねぇ……。今までに上に立つものとして理性を総動員させて我慢していたんでしょうけど。どう見ても据え膳を喰う直前ですよね、アレ」
「未成年への手出しは、人間界では犯罪では?」
『ヴィネ、ここ魔界だよ?犯罪もなにも、魔族は本能で動くもんだし問題ないでしょ。まぁ敢えて言うなら、ちょっとショタ入った変態なのは問題かな?』
はっと我に返ると、魔法陣の外側には四将軍達が勢揃いしていて、好き勝手に喋っていた。
えっと………。これは勿論、僕の魔王戦の口上も聞かれているよね?……………う、恥ずかしくて、凄くいたたまれませんよ、僕。
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