上 下
28 / 60

28話:過剰なスキンシップ再び……

しおりを挟む
ベッド上でゴロゴロ転がる。

魔王様が「全てを話す」って約束してくれてから、既に7日が経った。その間、僕が何をしていたかっていうと……、何にもしてない。
何にもしてないんだよ!
魔王様自らのお世話してくれるのを、ただ享受しているだけ。

食事だって魔王様が部屋まで運んでくれる。そしてベッドの上で僕を背後から抱きしめて、せっせと食べさせてくるんだ。
えっと、ちょっとおかしくない?

「どうした?食欲がないのか?」

黄金色のスープをスプーンで掬い口元に運びながら、魔王様は心配そうな声で尋ねてくる。
その声に、はっと我に返った僕が目の前のスプーンにそっと唇を付けると、魔王様は「よし」とでも言いたげに頷いた。

「あの、魔王様?僕、すっかり元気なんですけど……?」

ソロリとお伺いを立ててみる。
魔王様は真後ろにいるから表情が見えないのが怖い。
だって最近の魔王様って、ちょっと取り扱いを間違えると、えっと、何て言うか……実力行使?に出てくるようになったんだ。
一度ベレトの診察が終わった後にこっそり部屋を抜け出してみたら、どこからか姿を現した魔王様に速攻、元の部屋へ連行されてしまったんだよね。
しかも有ろうことか、ガッチリ腕の中に囚われて添い寝までされてしまった。

「……………」

うん、何にも返事がない。
魔王様は黙ったまま、空になった皿にカチリとスプーンを乗せると、サイドテーブルの上にあるトレイに置いた。
そして僕を囲い込むように両腕を腹の前に回して指を組む。

「……魔王様?」

少し身を捩って魔王様を見上げる。魔王様は僅かに目を細めてじっと僕を見下ろしていた。

「元気、か。そうか……」

言葉と共にお腹で組んでいた指が解かれ、シャツの一番上のボタンをふつんと外してきた。
あれ?と目で魔王様の指の動きを追う。
一つ二つとボタンを外していき、最後の一つを外すとゆっくりとシャツの前をはだけた。

「ーー見てみろ」

声が左耳のすぐ近くで聞こえる。ぴくっと肩を震わせるていると、魔王様の指が顎の下から首を撫で、鎖骨を辿り、ゆったりと胸へと降りてきた。
ゾクンとした感覚が背中を走る。洩れ出そうになる声を唇を噛み締めて必死に耐えていると、魔王様の指がピタリと止まった。

「この傷はまだ癒えてない……」

右肩辺りからザックリと斬られた跡。
肉は盛り上がり大分治ってきていたけど、傷周りの皮膚はまだ炎症を残していて赤く熱を持っていた。

「他の傷は俺の魔力のせいで付いたものだったから、ベレトが治せた。でも、これは違う……」

傷をそろりと指先で辿る。

「ーーーーーっ……」

表現できない感覚に襲われる。
……何だろう。
触られるとジクジクと痛むのに、痛みの中にほんの少しだけ痺れるような甘い疼きが生まれる。

「これは王宮の駄犬が付けたものだ。ヤツらは人間界に出没する魔獣を狩るために、神殿で祝福を受けた剣を持っている。それで斬られた傷は、魔族のベレトでは治せない」

左の脇腹まで続く傷を、何かを確かめるように緩急を付けながら、なぞるように指を這わせていく。

「……ぅ……っ」

抑えきれない声が洩れ出てしまって、僕は恥ずかしさの余り目をギュと瞑り俯いてしまった。
左の頬に温かなモノが触れる。何だろう?とそろりと薄目を開けて視線を動かすと、魔王様が自分の頬を僕の頬にくっつけていた。

「指で触れただけで痛むのに、『元気』とは……。レイル、俺に対して我慢だけは絶対にするな」

静かな囁きに、僕はコクコクと頷くだけで精一杯。

ーーこ……これは、何時もの過度なスキンシップの一環でしょうか?それとも懐柔作戦の続き?

バクバクと激しく鳴る胸の音が魔王様に聞こえてしまいそうで、僕は思わず胸元を手で押さえてしまった。

「これに……」

僕の緊張を知ってか知らずか、魔王様が言葉を紡ぐ。
ツンと指先で弾くように転がされたソレ・・は、ユオ様が本から形を変えてくれた真紅の石だった。

聖騎士パラディンの力が籠められている。業腹ごうはらではあるが、それが痛みを和らげて剣の傷を癒やしているんだ」

「これが?」

指で石を摘み持ち上げる。マジマジと見つめていると、僕の指ごと魔王様の掌に包み込まれた。

「………そんなに見るな。その石に嫉妬してしまうだろう?」

思いがけない魔王様の言葉に、僕はぱちりと瞬いてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

【完結】ハシビロコウの強面騎士団長が僕を睨みながらお辞儀をしてくるんですが。〜まさか求愛行動だったなんて知らなかったんです!〜

大竹あやめ
BL
第11回BL小説大賞、奨励賞を頂きました!ありがとうございます! ヤンバルクイナのヤンは、英雄になった。 臆病で体格も小さいのに、偶然蛇の野盗を倒したことで、城に迎え入れられ、従騎士となる。 仕える主人は騎士団長でハシビロコウのレックス。 強面で表情も変わらない、騎士の鑑ともいえる彼に、なぜか出会った時からお辞儀を幾度もされた。 彼は癖だと言うが、ヤンは心配しつつも、慣れない城での生活に奮闘する。 自分が描く英雄像とは程遠いのに、チヤホヤされることに葛藤を覚えながらも、等身大のヤンを見ていてくれるレックスに特別な感情を抱くようになり……。 強面騎士団長のハシビロコウ‪✕‬ビビリで無自覚なヤンバルクイナの擬人化BLです。

処理中です...