愛を探しているんだ

飛鷹

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愛を見つけたんだ!

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「ねぇ涼真、ここ好き?教えて下さい……俺に」

グイッと腰を進めると、ヒクンっと背中が戦慄いた。
キレイなラインの背中を指でつぅっと辿ると、ギュッとシーツを握り締めて迫り上がる快感に耐える横顔が見える。

「……ふっ……、あ、ぁあ……。あ、ぅっ!」

――――何て可愛いんだろう………。
うっとりとその横顔に見惚れる。ゆさゆさと小刻みに揺らせば、後孔は新たな刺激を求めているのかヒクヒクと蠢いていた。

「貴方が素敵過ぎて、たまりません……。ああ、本当に……なんて素敵なんだ……」

「や…、あ…んまり、言う…な、よ……ッツ!ぁあ…」

恥ずかしがる様子に、俺のモノは何回欲を吐き出しても、一向に治まる気配がなくて……。寧ろ煽られて、元気いっぱいの臨戦態勢のまま。
ヤりたい盛りの10代だって、今の俺より理性的だと思うよ……。
苦笑いしつつ髪を掻き上げる。ペロリと唇を舐めると、涼真を追い詰めるべく、腰を強く動かし始めた。




涼真と出会ったのは、2年前の冬。ふらりと立ち寄ったバーでの事だった。
小ぢんまりとしたそのバーは、街の喧騒とは無縁の素朴な優しさに溢れる場所だった。照明もギリギリまで落としていて、仄暗いと言っていいほど。
カウンターの天井に設置されているダウンライトの位置から離れて座ると、そこに居る人の顔も曖昧になるくらいの灯りで、手元のキャンドルだけが夜を楽しむよすがとなっていた。


人の視線を集めることを生業としている俺にとって、誰にも注視されない事に居心地の良さを感じて、好みのウイスキーを口腔で転がすように堪能しつつ、その場所で過ごす時間を楽しんでいた。

店の扉がキィっと僅かに軋む音を立てて開く。その時に訪れた新たな客が涼真だった。
彼は俺から2つ離れた席に腰を落ち着かせると、「ふぅ…」と息をついて天井を見上げる。

普段見られる立場の俺は、こういう場では逆に人を観察して楽しんでしまう。勿論、相手に気付かれないように注意してるけど。
そう、普段は気を付けて相手を観察するのに、その時ばかりは目が離せなくて……。まさに釘付けの状態。
そのくらい、首をあおのかせた姿が艶っぽくてエロくて……。人目も憚らず、その首に舌を這わせたいっと思ってしまったんだ。

あまりにガン見してたから、涼真も俺に気付いたみたいで、その状態でチラリと視線を流してきた。
ズクン!とあらぬ所が疼く。

「………すみません、煩かったですね」

軽く会釈して詫びの言葉がくる。

「あ、いえ………。」

仕事の時には良く回る舌も、この時は全くの役立たずで気の利いた返しもできない。

タイミングを見計らって近付いてきたバーテンダーに、「彼に今と同じものを。楽しみの邪魔をしたお詫びに」と涼し気な声で伝える。そして首を少し傾げた。
「ラムが呑みたいんだけど、ストレートに向いているのあります?」

「ございますよ」

控えめに微笑み、卒なく答えるバーテンダー。後ろの飾り棚から瓶を取り出すとラベルが見えるように差し出した。

「ロンリコホワイトですが、いかがですか?」

「へぇ……それカクテル向きかと思ってました」

「確かにカクテルでよく使いますが、ストレートでも美味しいんですよ」

にこやかに会話を楽しむ彼。こちらを向いてくれないのに妙にイラついて、思わず口を挟んでしまった。
「……ラム、お好きなんですか?」

「…………。そうですね、割と好きです」

口数少なく答えると、涼真は目の前に置かれたグラスを持ち、一口含んだ。ゆっくりと味わい嚥下する。
コクリと飲み込む時の喉の動きに、俺の劣情は最高潮に高まってしまう。気付いたら隣の席に移動して、熱心に口説き始めている自分がいた。

ノンケだった涼真は、初めはからかわれていると思ったのか苦笑いをしていたけど。俺が余りにしつこく口説くせいか、最後は「同性とは経験がないからよく分からないけど……」と言いつつ付き合うことを承諾してくれた。

涼真を口説き落とした事は、たぶん俺の人生の中でトップに輝くと言っていいほどの偉業だったと思う。

なのに……。

「あの時凄くグイグイくるから、コイツ綺麗な顔してるのにモテないのかな?残念なヤツとか思ったよ」
なんてつれない感想を後日貰ってしまったけど。
あれから一つずつ、男同士の恋愛についてノウハウを教える振りをして、ガッツリ自分の好みになるように仕込んでいった。

身体の相性?勿論、最高です!


そんなこんなで、涼真を囲い込むためにあの手この手を駆使していた。そんな愛らしい涼真だけど、何ていうか……彼は俺に興味がないらしい。
あ―――違う。俺っていう人間には興味を持っているな。

「夏生って、いかにも洋食を好んでそうな見た目のクセに、納豆食うのな」

とか。
「ですます調で喋るし、丁寧な人間かと思ってたら意外と雑だよな」
とか。
「夏生って水辺好きだな。川の近くを散歩する時のすっごく表情が柔らかい」
とか。

『俺』自身を良く見て、知ろうとしてくれるけど。年齢とか出身地とか学歴とか……、そんな付加価値ともいえるモノには全く興味を引かれないらしい。
そういうのがまた好ましい。
今までモデルという職業とか有名大学卒業という学歴、はたまたハーフという生まれに、飴に群がるアリの如くワラワラと人間は集まっていた。

そして群がる人間は『好意』という名の元、物凄く傍若無人に振る舞うのだ。俺の迷惑も考えないで……。
だから『俺』っていう個人を、色眼鏡なしに見てくれる涼真は得難い存在で、手放すなんて考えられなくなっていた。

―――――よし、結婚しよう。

そう考えるのは普通だよな?
涼真はもともとノンケだ。先ずは外堀を埋めないと、プロポーズには『yes』とは言わないだろう。

あと俺自身が有名になりすぎていたっていう問題もある。所謂パパラッチ系の奴らはプライバシーを暴くのが仕事だから遠慮なんてあるわけないし、時にして身に危険を及ぼしかねない行動を取る。
あんなのを涼真に近付ける訳にはいかない。

どう動くのが一番か………。

夏くらいから、頭が痛くなるくらいに考えて。そしてモデルや芸能関係から引退する事に決めた。
事務所に報告すると、時や場所も考えずに引き止めの電話攻撃をしてきやがって、デート中の涼真に怪訝な顔をされてしまった。

それも何とか片付き、引退の目処がたった。もうすぐ涼真と出会って丸2年が経つ。その記念の日にプロポーズをしようと決めていた。

―――だというのに………。



「―――え?………は……?な…に?」

ピコン!っとメッセージの着信を知らせるアラームでスマホに目を落とすと、涼真からだった。
デートのお誘いかも、とワクワクしながら画面を開き……、表示された文章を見つめ固まった。内容が理解できない。
『――――今までありがとう。メッセージを送るのも今日が最後だ。君のこれからを応援しているよ』

短い……短すぎる文章。
どう見ても、これは別れの言葉で…………。

グググッとスマホを持つ手に力が入る。
別れる?―――俺と?

何で?いつから、そんな無駄な事を考えて………。

俺は踵を返して走り始めていた。





涼真の部屋に着くと、合鍵で玄関のドアを開けた。靴を脱ぐのももどかしくリビングに向かう。
外から見たとき電気が付いていたから、きっと彼はそこに居る。
「―――りょう……」

名を呼びながらリビングに入ると、壁にもたれ掛かって涼真はうたた寝をしていた。彼の飼い猫が膝で丸くなって寛いでいる。羨ましい。
トストスと足音を押さえて近付くと、猫のふぅちゃんがイカ耳になってコッチを見た。
明らかに警戒している様子に、ちょっと胸が痛い。涼真ももしかしたらこの子みたいに、俺を警戒するかもしれないのだから。

「涼真……」

そっと掌で頬に触れれば、びっくりするくらい冷たい。こんな季節にむき出しのフローリングで寝てたからだ。俺はふぅちゃんにゆっくりと声をかけた。

「ごめんなさい、ふぅちゃん。涼真が風邪引かないようにベッドルームに連れて行きたいんです」

俺の声に、まるで思案するかのようにジッと澄んだ瞳を向けてくる。そして涼真の膝から立ち上がると、ゆるりと伸びをしてトタトタと立ち去って行った。


その後ろ姿を見送り、両手で涼真をそっと抱え上げてベッドルームに運び、優しく横たえた。
そして考える。
涼真は優しげな風貌に似合わず頑固だ。普通に話を聞こうにも、きっと何も話さないだろう。

――――だから。

そろり、と性的な目的で鎖骨を撫でる。意識がないはずなのに、ぴくんと反応するのが堪らなく愛おしい。
シャツに手を潜り込ませ、イタズラするようにあちこちを撫で擦った。

――――快楽落ちさせよう

掌に吸い付くような心地良い肌の感触を堪能する。緩やかな刺激を受けて、胸を飾る淡い突起が存在を主張し始めていた。
誘われるように、ちゅっと突起に吸い付く。コロコロと舌で転がすように嬲ると、涼真は甘い声で啼き始める。

「…………ふ…っ……ぁ……。っつ……。ん……っ」

本当に、愛おしい。俺だけの可愛い可愛い『猫』。
素直に啼く様子をじっくりと見たくて、胸元から顔離し顔をのぞき込んだ。さっきまで口で嬲っていたソコを、クニクニと指で刺激する。
少しずつ顔が赤くなり、息が上がってきた。

「……く……ぅ、ぁ……。ん、ん…、や………」

微かに唇を開き眉根を寄せて小さく喘ぐ様は、堪らなく官能的だ。
寝ていても涼真のモノは快楽を受けて兆しだす。モジモジと揺れる腰つきが妖しくも卑猥で、俺の劣情は刺激されまくる。
思わず自分の昂りをゴリゴリと涼真のモノに擦り付けた。

「―――っっつ!!……ぁはっ!」

ビクンビクンっ!と背中を弓形な撓らせて、彼はイってしまった。そしてイってなお身に纏わり付く快感の残滓に、ピクッと腰が跳ねている。

こんなに何もかも、完璧に俺好みなのに。離れて行くなんて許さない。認めない……。

散々弄り尽くしていたら、案の定涼真は目を覚ましてしまった。
困惑した様子で見上げてくる涼真を見据えて、ペロリと自分の唇を舐めた。


おいたをする悪いコなら、俺が根気よく幾らでも調教してあげる。俺が相手じゃないと啼けないようにするのなんて……スゴク簡単なんだよ、涼真。

ゆるゆると快感を与えつつ、あのメッセージの真意を尋ねるけど中々言おうとはしない。
もう少し強めに刺激を与えて楽しもう……と彼の胸に口を寄せる。しつこいくらい胸の突起を嬲ってといると、涼真の手が俺の頭を押し退けようとしてきた。

ふふ……猫の引っ掻く程の力すら感じられない。戯れているような、擽るような、そんな可愛い抵抗。
可愛らしい『おいた』は、ただただ俺を楽しませるだけなのに……。

「おいたは駄目……ですよ?」

涼真の手を取り、乳首から口を離して妖しく微笑む。今まで涼真には見せた事のない表情に、彼は思わず息を飲んでいた。
『猫』は臆病ですから。怖がらせないようにしていたけと、調教なら少しの恐怖は必要ですよね?

「さっきも言いましたけど、あのメッセージの意味を伺いに来たんですよ?」

「あれ……は、その……」

「まさか、別れるって意味じゃないですよね?」

ゆったりと極上の笑みを浮かべてみせる。でもコレ、目が笑ってないと、結構怖いと評判なんです。
案の定、涼真も少し青褪めて汗を浮かべている。

可愛くて可哀想な俺の『猫』。俺を怒らせてはダメですよ?

「別れられると………離れていけると、本気で思ったんですか?」

微笑みを消して無表情となると、涼真は直視できなくなったのか俺から顔を背けた。
そんな涼真の耳元にゆっくりと唇を寄せた。

「おいたをする悪いコは……俺が飼ってあげる」

かしゃん…と小さな金属音を響かせて手錠を掛けると、涼真は小さく目を開き手に視線を向けた。
両手を繋ぐ鎖がチリチリと音を立てて揺れる。
拘束した涼真の腕の中に頭を潜らせた。必然的に凄く顔が近くなって良く見える。

「いつもは遠慮してたけど、今日は快感に喘ぐ貴方がじっくり見たいです」

「何言って……。手錠、外して…、夏生」



何されるのか不安でカタカタと震え出す涼真。ああ、そこまで怖がらせる気はなかったのに……。宥めるように、優しく手付きてそっと頬を撫でた。

優しくしてあげたいけど、手錠を外すのは……。

「だ・め。」

にっこり笑みを浮かべてみせると、再び愛撫を再開した。快感にヒドク弱い涼真。これは陥落するのも時間の問題でしょうか。
滑らかな肌を堪能しつつ、とある場所で指を止めた。臍よりやや下。

「ここまで、俺のが入るんですよ?知ってます?」

くすくすと笑いその部位を撫で回す。涼真の中の奥の『奥』。

「俺が初めての男ですよね。なのに、貴方のココ前から男の味を知っているかの様に、俺のを上手にしゃぶるんですよ」

そっと押す。ココに俺のを捩じ込んで、腹の上からヨシヨシと撫でてやりたい。きっと気持ちイイはず……。

「素質、あったんでしょうね」

うっとりと呟くと涼真の顔が真っ赤に染まった。恥ずかしがりやの彼は直ぐに顔を隠したがるけど、今日は絶対にそんなことさせない。
恥ずかしがる顔も、イク瞬間も、快楽落ちしてだらしなく緩んだ顔も……全部全部俺のモノ。
涼真のスキなポイントを態と避けて、生温い拷問の様な微かな刺激だけを与え続ける。

「可愛い……ゆらゆら腰が動いてますね。足りない?もっと刺激が欲しい?」

涙が浮かぶ彼の目尻に唇を寄せ囁く。涼真はコクコクと頷いた。

「ねぇ、強請って下さい、俺に。刺激が欲しいと。俺にイカせて欲しいと……言って?」

「っはぁ……ぁ、あ、あ……なつ…き。イかせて……ぇ。お願い……なつき……ぃ…ぁあ」

――――――落ちた………っっ!!!

ほくそ笑むと先ずは涼真の願望を叶えるべく、イイトコロを集中して嬲り追い詰め、そして散々喘がせてからイかせた。

「俺の手で、こんなに乱れるなんて。なんて最高なんでしょうね。こんなの手放せる訳がありません」

俺の腹にまで飛び散った涼真の欲を、指で掬い涼真に見せつけるように舌を出して舐め取った。

「―――っっ!!何……して……」

動揺する涼真を押さえて、後孔に押し入るために体勢を変える。グイッと脚を開き俺の欲望を押し付けた。
腰に力を入れると、くちゅん……と濡れた音と共に先端が潜り込む。

「―――は…っ!」

異物感があるのだろう。涼真の唇が戦慄く。ゆっくりと腰を進めていきながら、じっと彼を見た。
浅く抜き差しする。揺するような生温い刺激に、涼真は少しずつ乱れていき悲鳴を上げた。

「お…く…っ!奥が…イ、イ……っ!お……ねがい……」

可愛い声が俺を求めている。いいですよ、奥まで……っ!
グイッと腰を更に進めるとずちゅん!と音を立てて、奥の奥に到達した。

「―――っあ――………最……高です」

うっとりと呟く。涼真の腹に手を当てて、俺の先端がある所をゆるゆると撫でてやった。

「ここまで。俺のがきてますよ。分かります?」

クニクニと腹側からの刺激で、涼真は激しく乱れ始めた。

「あっ、だ…だめ…っ…それ、だめ……っ!あ、や、や、や……怖い…怖いぃ……、あ……っぁ…」

口の端から唾液が流れ出ているのにも気付かず、涙を浮かべて恐怖を訴える。
可哀想な涼真。怖いですよね、過ぎる快感って。ねぇ……涼真。気持ちイイから怖いんでしょう?

一層激しく腰を動かして、最奥に叩きつける。涼真から理性を剥ぎ取り、一匹の獣に落とし込む。
俺の律動にただアンアン哭き続ける、可愛い獣。
はぁぁ……たまらない。腰に蠢く快楽は、何度果てても治まりがつかなくて。

結局、夜明けまで調教と言う名のセックスは続いた。




「それで?一体どういう訳ですか?」

体力の消費が激し過ぎたのか、涼真な中々目を覚まさなかった。まぁ、目が覚めるまで、可愛い寝顔を堪能するだけですけどね?

じっと涼真の顔を眺めていたら、瞼がぴくっと動いた。ゆっくりと瞼が開き、深い漆黒の瞳に俺の姿が映る。寝起きのぼんやりしている時に間近に俺の顔があったせいか、面白いくらいびくん!!と身が震えて驚いているのが分かった。

やっぱり猫っぽいなと、内心『可愛い』と唱えながら、尋ねた。

「え……と、何が?」

「昨日のメッセージですよ。何であんな別れ話みたいなヤツ送ってきたんですか?繊細な俺の心臓を潰す気ですか?」

俺の言葉に、涼真は片眉を上げて何か言いたげな顔をしたが、ぷいっと顔を横に向けるだけ。そして―――。

「だってお前、今年結婚するんだろ?」

突然の爆弾投下で思わず狼狽えてしまう。

「は……?え、それ……何で知ったんですか?」

「週刊誌」

「何でそんなモノ……今まで興味示してなかったクセに」

本当に、何でこのタイミングでそんな雑誌なんか……。

「職場の後輩がお前のファンなんだって。雑誌抱えて号泣してたから」

「―――――あ~…………」

本当に『あ~……』としか言いようがない。引退を受け入れさせた事務所の意向で、雑誌のインタビューなんか受けちゃったから………。浮かれて惚気けたのも悪かったか……。
しまった……とばかりに顔が歪む。

「まぁ、夏生も折角の良縁に恵まれたんだ。身辺整理も必要だろうし、仕方がない。ここはきちんと別れ………」

―――――――――――はぁぁぁぁぁぁあああっっ!!!?

「違います!」

思わず食い気味に否定する。って言うか、俺がこれだけ愛しているのに、何で結婚の相手が他にいるとか思えるんですかっ!!!?
いや、確かに外堀を先に埋めようと、まだ涼真にはぷ……プロポーズしてはいませんでしたけど……っ!!

涼真からキョトンとした顔で見られて、俺は真っ赤になって俯いた。俺のその様子が珍しかったのか、涼真は小首を傾げて更にマジマジと見つめてくる。

その可愛い顔、やめてください……。小悪魔ですか、貴方……。恥ずかしくて、自分の掌で顔を覆った。

「確かに俺、身辺整理しました。でもそれは貴方と別れるためじゃない」

「え……?」

「貴方と結婚するために、俺の周りを整理したんです」

「…………………………………………。は?」

俺の言葉に、涼真はカチンと固まる。それを雰囲気で感じ取り、苦笑いを漏らした。

「貴方は俺の周りに興味がないでしょう?でも俺の周りに居た奴らは、俺に関する事全てを暴こうとします。俺と貴方の関係も、何もかも全て」

そっと頬に触れる。俺の大切な宝物。

「所謂パパラッチ系の奴らは、エグい手段を取ることもある。俺はそんな悪意のある奴らに貴方を曝したくない。だから身辺整理して、奴らが近付かないようにしたんです」

「…………一つ聞いていい?」

「はい?」

「お前、誰と結婚するって?」

嫌だな……まだそんな事を言う……。

「清白 涼真。貴方とです」

「俺と結婚の『け』の字も話してないのに、何でメディアに公表しちゃってんの?」

理解できないって顔の涼真。

「外堀埋めてからプロポーズした方が、貴方の逃げ道を塞げるかと思って。テレビも雑誌も見ない貴方だから大丈夫だと思ったのに、誤算でした」

「誤算でした…じゃねーよ。順番メチャクチャ過ぎてあきれるわ」

胡乱な視線を向ける彼に、俺はキレイに微笑んだ。

「でも、涼真は俺と結婚してくれますよね?」

「え?」

「yes以外の返事は聞きたくありません。もしnoと言うなら………」

「………………。noと言うなら…?」

コクリと唾を飲み込み、心持ち青褪める。
ふふふ、それは勿論。

「監禁します」

「じ……冗談………」

「――――と思いますか?」

笑みを消して涼真を見る。
伊達にモデルをしていた訳じゃない。蓄えもあるし、必要なら涼真と2人仲良く閉じ籠もる部屋を準備する事だってできる。

何なら、部屋は既に確保済。

「俺は貴方がいれば、それでいい。逃がすつもりも、離すつもりもないんです。貴方に許された返事は『yes』のみですよ」

涼真の手を取り指先に口付ける。

「涼真、貴方を愛しています。俺と結婚してください」

予定が随分狂ってしまいましたが、この言葉を言わないと始まらない。
う………っと言葉をなくしていた涼真に返事を強請る。

「涼真、返事は?」

俺のこの想いは、少しヤバいんでしょうね。
狂気と紙一重の、ひと一人に背負わせるには重すぎる気持ち。でも、引く訳にはいかないんですよ。
じいっと何かを見定める様に俺を見ていた涼真は、暫くして大きなため息をついた。

「『yes』だよ、馬鹿。付き合ってやるよ、この人生が終わるその時まで……」

死が二人を分かつまで………。
何て素敵な楔でしょう。勿論、貴方を離す事なんて絶対に有りませんけどね。
そっと、俺の宝物を腕に囲う。

俺の、唯一。俺の……命。
―――――やっと手に入れた…。



ふぅちゃんがグリグリと頭を涼真に押し付けている。ピコンと涼真の携帯が反応して、それを見た彼は優しく笑っていた。


喉が乾いたと立ち上がった彼を見送っていると、ふぅちゃんが何かを訴えてにゃーにゃー鳴き始めた。
その度に涼真の携帯がピコンピコンと反応するから、気になって覗いてみると……。
『狩りの時間だ!』
『愛を探しているんだ』
『今追いかけている』
『獲物を追いかけているところ』

――――と俺に喧嘩を売っている様な言葉が並ぶ。
いくら涼真が可愛がっている猫でも、コレは譲れない。

「狩っちゃダメですよ?涼真は俺の獲物なんです」

唇に人さし指を当てて、しーっとジェスチャーする。ふぅちゃんは俺をチラリと見て、ぷいっと立ち去っていった。
ひとこと、「にゃっ」と言い残して。

もう一度、ピコンと反応した携帯を見て俺は苦笑いした。今度、チュールでも買ってご機嫌伺いしましょう。

俺も立ち上がり、涼真を追ってキッチンに向かった。
涼真の携帯は、ふぅちゃんの声を翻訳した状態で暫く光っていたけど、程なくしてその光も消えた。


『ムカつく!』という、ふぅちゃんの言葉と共に……。
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みんなの感想(3件)

せち
2023.12.22 せち

ふぅちゃんに癒され、猫を飼おうか真剣に悩みました☺️

飛鷹
2023.12.25 飛鷹

せち様

感想、ありがとうございます✨

ふぅちゃんを気に入って頂けて、とっても嬉しいです✨

解除
oka
2022.12.27 oka

すれ違い系の話が好きなので受けが勘違いしてヤケになるのが最高でした!!
特に攻めの愛が重いほどいいですよね!

飛鷹
2023.12.25 飛鷹

oka様

感想を頂いたのに、気付く事ができていませんでした!

大変申し訳ありません!!

解除
やまやま
2022.10.19 やまやま

お話の始まりと終わり、とても印象的で素敵です。

飛鷹
2022.10.21 飛鷹

やまやま様。

感想をありがとうございます!
猫の日に書いたお話で、言葉とテンポを考えて書いた分、コメントのお言葉がとても嬉しかったです。
ありがとうございました!

解除

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