上 下
1 / 54
ラジェス帝国編

1話 プロローグ

しおりを挟む
「ねえ、好奇心は猫をも殺すって言葉、知ってる?」

誰もいない放課後の校舎の三階、静まり返った廊下の片隅で、何故か僕は美貌の公爵様に両手で壁ドンされて顔を覗き込まれていた。
公爵様の、見るものに冷たい印象を与えるアイスブルーの瞳は、でも今は狂気じみた熱を籠めて、ひたっと僕を見据えている。
ーーコ………コワイ………。
ぷるぷると震えながら、それでも視線を逸らしてしまうのも恐ろしくて、若干涙目になりながら公爵様を見上げた。

「ねぇ、フェアル。聞いてる?」
「き……聞いてます!知ってます!猫、殺しちゃうんですよね……っ!は……はは……」

だって猫だよ?
好奇心あってナンボな生き物なんだよ……。
その好奇心が、つい疼いただけだったのに、僕は殺されちゃうの?
バクバクと心臓は忙しく鳴り響くし、冷や汗も止まらない。
どうにか目の前の恐ろしい男から逃げる術はないものか……。
チラリと視線を廊下の先に流す。
瞬発力だけでいえば、僕の方がきっと上。
隙をついてこの囲いを抜け出せれば何とか……。

「……逃げようとしても無駄だよ」

ふっ……と、普段は笑みの一つも浮かべる亊のない美しい唇が弧を描く。
壁に着いていた左手を僕の背中に移動させると、まるで官能を引き出すかのような妖しい動きで背中を撫で擦り始めた。
ゾワリと思わず鳥肌が立つ僕を面白そうに見つめながら、彼はゆるゆるとその手を下へ下へと移動させる。

「逃げても私が捕まえてしまうからね。大丈夫、満足するまでたっぷり愛情を注いであげるし、真綿で包むように大事に飼ってあげる。だから安心して私のモノにおなり」

ひんやりと響く声は、本来は冷酷な性格そのままの、とても冷たいもののはず。なのに、今囁かれる声は酷く甘く艶を含んでいて、蠱惑的な毒として耳に染み込んでくる。
僕はギュッと目を閉じ、意を決して口を開いた。

「つ……つつつ……謹んでご辞退申し上げますぅ!!」

瞬間、彼は僕の尻の上、腰の少し下辺りから力なく垂れさがっている尻尾を、容赦なくギュッと握り締めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結済】ヒト族ですがもふもふの国で騎士団長やらされてます。

れると
BL
■本編完結済み■ 獣人の国で力も体力もないヒト族のオレが身体強化の魔法と知識で騎士団長やらされてます!目下の目標は後輩育ててさっさと退団したいけど中々退団させて貰えません!恋人と田舎でいちゃいちゃスローライフしたいのに今日も今日とて仕事に振り回されてます! ※大人な内容はタイトル後に※あります。キスだけとかただのイチャイチャは付けないかもしれません。。。 ※処女作品の為拙い場面が多々あるかと思います、がとりあえず完結目指して頑張ります。 ※男性のみの世界です。おばちゃんとか彼女とか嫁とか出てきますが全員男の人です!

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル君の物語です。 若干過激な描写の際には※をつけさせて頂きます。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【FairyTale】 ノンケ同士×お互い一目惚れ。甘い恋♡

悠里
BL
拓哉×圭 ◇社会人・同期◇ 入社式で、優しくてカッコいい、イケメンすぎる男に一目惚れ。 惚れたものは仕方ない、しばらく、ときめく片思い生活を楽しんで、 その内、好きな女の子でも出来たら、忘れるよなっ。 なんて、思ってたのに。まさかの両想い…? 甘い社会人ラブを目指します♡ 2024/7/9 表紙を差し替えます。 グロッタさん@grottagrandeが描いてくださいました。素敵なワイシャツ姿と💕右下の出会い可愛いイラストもぜひご覧ください✨

プライド

東雲 乱丸
BL
「俺は屈しない! 」男子高校生が身体とプライドを蹂躙され調教されていく… ある日突然直之は男達に拉致され、強制的に肉体を弄ばれてしまう。 監禁されレイプによる肉体的苦痛と精神的陵辱を受ける続ける直之。 「ヤメてくれー! 」そう叫びながら必死に抵抗するも、肉体と精神の自由を奪われ、徐々に快楽に身を委ねてしまう。そして遂に―― この小説はR-18です。 18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします。 エロのみのポルノ作品です。 過激な生掘り中出しシーン等を含む暴力的な性表現がありますのでご注意下さい。 詳しくはタグを確認頂き、苦手要素が含まれる方はお避け下さい。 この小説はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 また皆様に於かれましては、性感染症防止の観点からもコンドームを着用し、セーファーセックスを心掛けましょう。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...