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弟が洗脳されている

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◆◆◆◆

もはや、疑いようもない。

弟のラルフは完全に変態伯爵に洗脳されている。牢獄にぶちこまれた変態をいまだに父上と呼び、差し入れさえしようとしている。

「くっ、何てことだ!」
「ハロルド兄上?」

おもわず心の声が言葉に出てしました。仕事ならばトラブルに見舞われても冷静にいられるのに・・やはり、身内の事になると冷静ではいられない。

「いや、何でもないよ。ラルフ、スコーンもお食べ」

「はい、兄上」

ラルフが可愛らしい笑顔でスコーンを手に取ると、パクリと食べた。その姿があまりに愛らしく、俺はにやにやしてしまった。そんな俺と目が合うと、ラルフは俯いてしまう。

「ハロルド兄上。そんなに見つめられたら、恥ずかしくて食べられません」

「そ、そうか。すまない」

俺は紅茶を口に含み心を落ち着かせた。兄弟として過ごした時間が短いだけに、ラルフとどう接するべきか戸惑う。

それにしても、これ程美味しそうにお菓子を食べる様子を見るに・・伯爵家では大したものを食べさせて貰っていなかったに違いない。

先ほど、ラルフはコーヒーを飲み不味かったと言っていた。だが、王太子殿下はコーヒーを旨い飲み物だと仰っていた。俺は飲んでいないので正確な判断は下せないが、変態伯爵より殿下の言葉を優先する。

大体、王族の殿下でさえ一度きりしか飲んでいない貴重な品だ。それを、伯爵が頻繁に飲んでいたとの話も疑わしい。

おそらく、変態伯爵が飲んでいたものは、黒色の怪しげな液体だったに違いない。そんな危険物をラルフに飲ませるなど、伯爵は死に値する罪を犯している!

「ブラグデン家の現在の繁栄が、ラルフの犠牲の元に成り立っていると思うと・・俺はとても辛い。これからは、ラルフには自由に生きて欲しい。その為ならば、いくらでも資金はだす。将来の目標などはあるかい、ラルフ?」

「ブラグデン家の繁栄は、ハロルド兄上の努力の賜物です。伯爵家での暮らしは、僕にとっては恵まれたものでした。きっと、兄上の方がずっと苦労されてこられたはずです。むしろ、兄上の方がブラグデン家の繁栄の為に様々な事を犠牲にされてきたのだとお察しします」

ラルフの気遣いの言葉に、胸が潰れそうになる。きっと、伯爵家では肩身の狭い思いをして、常に変態の顔色を伺い生活していたに違いない。

それにしても、あの変態伯爵め!

なぜ、処刑されなかった。領地の民のごりマッチョを地下に閉じ込めて性奴隷に調教した上で、魔方陣の上で情交をさせて淫紋の開発に勤しんでいたと聞く。

とんでもない変態野郎だ!

ただひとつの救いは細身のラルフが、変態野郎の好みではなかった事ぐらいだ。もしも、ラルフがごりマッチョか細マッチョなら、変態伯爵の餌食になっていたに違いない。

いや、待て!

もしも、ラルフが着痩せするタイプならどうする?ラルフがもしも細マッチョなら、すでに伯爵の毒牙に掛かっている可能性がある。

何てことだ!

俺は弟の裸体を知らねばならない。細マッチョなのか、ほっそり体型なのか、確認が必要だ!

「あー、ラルフ」
「はい、兄上」

「我々は離ればなれに過ごした時間が長い。その時間を埋める為に、東洋の知恵を利用してはどうかと思ったのだが、どうだろうか?」

「東洋の知恵と申しますと?」
「裸の付き合いというものだ」
「はい!?」

「裸の付き合いをすると、心が穏やかになり互いに本音を語り合えるらしい。ついては、この兄と湯浴みを共にしてはどうだろうか、ラルフ?」

「ええっ!?」

ラルフが手からポロリとスコーンを落とした。


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