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「それで、君たちはこれからどうする?」

勇者のライヒアルトに聞かれて、俺は答えに迷った。まさか、勇者のパーティーが、この場で解散になるとは思っていなかった。

「そうですねぇ。私も兄上も、帰る場所がありません。旅をしながら、王都に向かうつもりです。それでいい、ニコラウス兄上?」

「俺はイザベラと旅が出来るなら満足だ」

俺と兄上の言葉を聞いた勇者は、何気ない様子で話しかけてきた。

「二人は、半魔人だよね?」

俺と兄上は、思わず顔を見合わせてしまった。そして、俺はちょっと笑いながら、勇者の問いに答えた。

「あれ、バレてた?」

「それは、ばれるよ。君も君の兄上も、魔物の匂いがプンプンしているからね?それに、ニコラウスさんは異常に強いしね」

闇堕ちして世界を崩壊させる勇者に、強いと評された兄上はやはり相当な実力の持ち主ということか。

それにしても、半魔人と分かっていて、勇者は俺達をパーティーメンバーに誘った。もはや、闇堕ちしているとしか思えない。

「ふむ。ライヒアルトは、すでに闇堕ち寸前のようだから正直に答えるね」

「勇者に対して、闇堕ちとは失礼だな?」

「まあ、聞いてよ、ライヒアルト。私と兄上は、魔王と人間の間で産まれた半魔人なんだ。一度も魔王城から出たことがなかったけれど、勇者が魔王城の結界に穴を開けたから、この機会に人間界に向かう事にしたんだ。ね、兄上?」

「ああ、そうだ」

「ふーん。人間界に憧れがあったの?」

勇者の質問に答えたのは、俺ではなくニコラウス兄上だった。

「確かに人間界には、興味はあった。だが、魔王城の生活も悪くはなかった。しかし、父上の魔王より、異母兄弟で伴侶になるよう命じられ状況が変わった。俺は、伴侶は自分で選びたいと思った。そして、人間界で伴侶探しをしようと、イザベラを誘い魔王城を出ることにした」

「あれ?二人はすごく仲が良いのに、伴侶にはなりたくないわけだ。イザベラは可愛いいのに、ニコラウスは彼に欲情しないの?俺はイザベラ相手なら、勃起しそうだけどな?」

『死ね』

ニコラウス兄上が突然そう言い放つと、目の前にいた勇者が姿を消した。いやいや、仲良く会話していたのに何してるの、兄上?

「兄上、勇者をどうしたの!?」

「地中深くに埋めた。だが、まだ生きているようだ。今、虫たちに勇者を喰うよう命じたが、体が固く喰えないようだ。仕方ないので、地中で蒸し焼きにするつもりだ」

その時、地面の土が盛り上がり、突然片腕が現れた。しかも、キモい無数の虫が腕にくっつき、ぐちゅぐちゅと喰っていた。

「いやぁ、ひどいよ。突然、地中に埋めるなんて。楽しく会話していた筈なのに、何が気に触ったのかな。俺は空気の読めない人間らしいから教えて欲しいなー、ニコラウス?」

勇者が土と虫を周囲に吹き飛ばしながら、地中から現れた。その虫の一匹が俺の首にくっつき、皮膚を食い始めた。

「うぎゃーー、兄上痛いです!!」
「イザベラ!」

兄上はすぐに虫を取り去ると、傷ついた俺の首筋に唇を寄せて、体内に入った虫の毒を取り除いてくれた。

「はうっ、やだぁ、兄上~」

兄上はちゅうちゅうと俺の首筋を、唇で丁寧に吸って、傷は舐めて治療してくれた。兄上はちょっと顔を赤らめながら、俺に気遣いの言葉をくれた。

「大丈夫か、イザベラ?どうやら、勇者は本当に空気の読めない人間のようだ。虫を生きたまま周囲に吹き飛ばすとは、勇者として問題がある行動だ。パーティーメンバーが解散したのも納得がいった。イザベラ、勇者には関わらずに、二人で王都に向かおう」

「そうですねぇ。確かに、虫は焼いてから周囲に吹き飛ばして欲しかった。そういう気遣いができないから、パーティー解散に繋がったんじゃないのかな?」

「待ってくれ!俺は地中に埋められ、虫に喰われた被害者だぞ?それに、君たち兄弟なら、飛んできた虫を結界で弾くこともできたはず!」

「ん、確かに」

俺が兄上に視線を向けると、視線を反らされた。何か後ろめたい事があるのだろう。まあいいや。

それより、この勇者は意外と表情豊かである。彼と旅をするのも楽しそうだ。それに、勇者が闇堕ちする前に抹殺したいし、仲良くして損はなし!

「ねえ、勇者さんは、これからどうするの?」

「王都に向かい、王家に今回の遠征の結果を報告する。そうしないと、報酬や次の遠征の軍資金を得られないからね」

「そんなに魔王と戦いたいの?別に、戦いを強制されているわけではないでしょ?」

「そうだが、王都にいても暇だ。戦うのは楽しい。その為には、王家の人間に媚を売ることも苦にならない。楽しい闘いがまっているのだから!そう思わないかい、イザベラ!」

勇者は戦闘狂の上、脳みそがガキだな。でも、なんだか楽しそう。

「勇者、ライヒアルト。私たちと友達になってよ。これから人間界に向かうにあたって、勇者の傍にいると、半魔人の異常な強さや妙な行動も、印象薄くなるはずだから」

「ひどい言いぐさだ。でも、友達は、その、初めてだから・・つきあい方が分からない」

「兄上!この勇者、めちゃくちゃ可愛い。好みかも~。ねえ、ニコラウス兄上。共に旅をして人間界に向かいましょう。私たちの半分は人間の血が流れているのですから、半端者でも人間界の何処かに私たちの居場所があるかもしれません!」

「そうだな、イザベラ。お前が行きたい場所に、どこまでもついていくよ」

「決まり~!」

俺は、勇者と兄上の腕を掴んだ。そして、俺と腕を組むように促した。二人は顔を見合せ苦笑いを浮かべた後、俺を挟み腕を組んでくれた。

「さあ、行きましょう、人間界に!」

俺は二人を引っ張るように、歩きだしていた。


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