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俺は下手に出ることにした。

「あー、勇者さん。勘違いしないでね?私と兄上は、このうら若き乙女達を救う為に、二足歩行の犬的魔物を倒しました。だけど、肉片が残ると、魔物は再生するので、魔法で肉片を焼いたのです。ですが、女子達もたっぷりと魔物の肉片を身に纏っていて、彼女達ごと肉片が燃えてしまったのです。その事については、申し訳ないと、思っています」

「・・それで?」

「とにかく、私たちは敵ではありません。ですから、私は燃え上がった二人を救うべく、水魔法で消火活動をしました。ね、キャサリンさん。ライラさん。私は、お二人に水を掛けましたよね?ね、思い出してください!」

「覚えているわよ。ショボすぎる水魔法でびっくりしたもの。ねえ、ライラ?」

「確かに、子供のお小水よりも酷かったわ」

「くっ、つまりそういう事です。ですが、二人の乙女を救おうとした経緯には・・下心がありました。乙女たちが、憧れの勇者様のパーティーメンバーであると気がつき、お二人を救えば勇者様のパーティーに加えて貰えると思ったのです。その、勇者様・・私たちの行動に、不審な点はないとご理解頂けましたでしょうか?」

「成る程・・理解した」

勇者はそう答えると、あっさりと剣を手放した。勇者の剣は、空間魔法の中に消えた。

だが、次の瞬間、俺と兄上の目の前の空間が歪み剣が現れた。それに、気を取られていると、目の前の女子たちが必死の形相で走り出した。

「ライヒアルト、私達まで殺す気!」

「それと、彼らが魔物を殺して私たちを救ったことは真実よ!ショボい水魔法で、消火活動もしていた。彼らは敵ではないわ!」

勇者は少し笑った後に小さく呟いた。

「剣よ、弾けろ」

女子二人が地面に伏せるのが見えた。突然、空間に浮かぶ剣が光を増し、そして、爆発した。勿論、兄上の結界で俺は無事だったが、女子二人が爆風で飛んでいった。

いや、なにやってるの勇者?
仲間じゃないのかい!?

爆破により、地面が抉られている。兄上は結界を張ったまま森の木々に身を隠した。そして、俺を抱えたまま、勇者を観察していた。

「あれは人間か?」

「うーん。設定では、人間の筈だけど規格外だからね。でも、人間の両親から産まれたのだから・・人間でしょ?」

「父上が手に入れたいと必死になる訳だ。格好の玩具だな、あの勇者は。しかし、これから人間界を目指す俺達にとって、勇者の存在は目障りだな。勇者が、父上の手で闇堕ちさせられては、人間界の脅威になりかねない。暗殺の機会を得るためにも、パーティーメンバーに加えてもらうか。それでいいかい、イザベラ?」

「私は、構わないけれど・・この会話聞かれてないかな、勇者に?」

「兄の結界が信じられないかい?」
「まさか!」
「では、勇者と交渉だ」
「はーい!」

兄上は俺を抱いたまま、勇者の前に降り立った。勿論、結界は張ったままだけど。それより、爆風で飛ばされた二人はどこに行った?

「爆風で飛ばされた女子二人はどこですか?」

俺が問いかけると、ライヒアルトはあっさりと答えた。

「パーティーメンバーが、森の外で野営をしている。そこは、安全だからね。空間魔法で、二人はそこにとばしたよ。それにしても、君は女子に随分と興味があるようだね?ひょっとして、童貞かい?」

「はい?」

兄上が一瞬で殺気だったが、勇者は構わず俺に話しかけてきた。

「俺も童貞だから、仲間が出来たと思ってね。でも、残念だけど・・さっきの二人には、パーティー内に恋人がいる。だから、狙うのはなしだよ?メンバー間で争いは嫌だからね。ところで、二人は僕たちのパーティーに加わる気持ちに、変わりはないかな?今日の戦闘で、仲間が三人死んだので、加入してくれると都合がよいのだけれど?」

「仲間が三人死んだのか・・辛いね」

「実力と運がなかった。ただ、それだけのことだよ。とにかく、面倒だけど、王都まで遺体を運ぶ必要があるんだ。でも、人手が足りないのが現状でね。王都に一度戻るから、その期間だけでも、パーティーに加わってくれないかい?勿論、その後もパーティーに加わってくれるとありがたい。君は魔力に乏しいけれど、君の兄上は規格外に強いしね、どうかな?」

すでに勇者から、闇堕ちの気配が漂っているのだが、大丈夫だろうか?それと、少し気になったことがあり、質問してみた。

「一つ聞いてもいいかな?」
「どうぞ」
「俺の兄上は童貞ではないの?」

「え?そうだねぇ、俺の感覚では・・童貞は君だけかな?」

俺は兄上の足をゲジゲジと蹴っていた。何が伴侶にしても構わないだ。しっかり、浮気してやがった。



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