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エピローグ

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◆◆◆◆◆◆


「母は・・・ローズ母さんは僕の気持ちに気が付いて、それでこの城をでてしまったんじゃないだろうか?僕の醜い気持ちに嫌気がさして。」

僕はいつの間にか、自分の気持ちを独り言のように吐き出していた。そうでもしないと、気が狂いそうな気がしたから。そんな僕の肩に、キリトがそっと手を添えた。僕は、何かに縋りたくてその手を掴むと握りこんで額に押し当てながら、懺悔するように自分の気持ちを洗いざらいぶちまけた。

「僕は母さんが好きだった。いや、愛していたんだ。誰にも奪われたくなくて、その体さえ・・・欲しくて。欲情して、いやらしい想像をして。きっと、そんな気持ちに母さんは気が付いたんだ。だから、僕の前から逃げ出してしまったんだ。」

「ラインハルト王」

僕はいつの間にか背を丸めて泣きじゃくっていた。もう、王の威厳なんてまるでなくてただの幼い子供のように声をあげて泣いてしまった。

「そりゃ・・ひっく、逃げるよな。こんな息子、気持ち悪いもの。ひっぅ・・・・ごめんね、ローズ母さん。僕は、立派な王にも偉大な王にもなれそうにないよ。ごめん、傷つけてごめん・・ううっ。」

醜く泣く僕を、キリトは責めることなくただ黙って背中をさすってくれていた。そして、僕を救うように優しく話しかけてきた。

「そう自分を責めなくてもいいですよ、王様。きっと、ローズ様はあなたのお気持ちにはお気づきにはなっていませんよ。なんといっても、あの天然ぶりですから。きっと、レン様がラインハルト王のお気持ちに気づかれて、先手を打たれたのではありませんか?」

僕は、涙を拭きながら姿勢を立て直してキリトを見つめた。彼は、そっと笑って口を開いた。

「寝室のベッドをごらんになったでしょ?レン様はずっと内に秘めておられた想いをローズ様にお伝えになったのですよ。そして、ローズ様もそのお気持ちに応じられた。」

「レンと母さんが・・・・」

「レン様にローズ様を取られて悔しいですか?でも、僕にはレン様とローズ様が結ばれることが一番しっくりとくるのですが。ラインハルト様は、違いますか?いつもローズ様の傍にいらっしゃったあなたならば、誰がローズ様の伴侶に相応しいかもうお分かりになっているはずですよ。」

悔しいが、キリトの言葉は正しい。
僕はずっと昔から知っていた。誰が、一番母さんを愛しているかを。そして、母さんが誰を一番愛していたかを。

「でも・・息子をほっぽって、二人で出て行くことないよな。僕に一言もなしで出て行くなんて・・寂しいよ、やっぱ。」

「二人のお立場は複雑ですからね。亡き前王の妃とこの国最強の魔法使いが愛し合う仲だと世間に洩れれば、ラインハルト王の出生さえ疑われかねませんからね。」

「僕が王家の血を受け継いでいないって疑われるって意味か?それはないだろ、僕には王家の血に宿る青い炎を操れるんだからさ。でも、このまま母とレンが城からいなくなった事が分かればそれはそれで問題になるだろ。王家最強の魔法使いがいなくなるってだけでも、王宮の人間や民にとっても不安を与えるだろうし、氾濫分子がこの機に乗じて王国に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。」

僕の言葉に、キリトはにっこりと微笑み僕を床から引っ張り起こすと表情を一変させて王の僕に進言した。

「ローズ様もレン様もそうなることをお覚悟の上で、それでもお二人は御発ちになったのです。お二人は、もうここには戻ってはいらっしゃらないと私は思いますよ。お二人が不老不死であることも、この城を出られた理由のひとつでしょう。ただ、言い換えればラインハルト王ならばこの難局を乗り切ってくれると信じたからできた行為でもあります。さあ、ラインハルト王・・・ご決断ください。」

僕も真剣な表情でキリトを見つめながら口をひらいた。

「母は、長らく病がちだと王宮のものにも民にも伝わっているはずだ。レンが母の病を抑える魔法陣をその体に刻んだのは七年前。まあ、実際には輪廻の輪をきって不老不死にする魔法陣だったらしいが、そのことを知るのは僕だけだ。なら・・・」

僕は最後の言葉を濁したが、キリトが黙って見つめたままなので最後まで言い切るしかなくなった。僕は顔を引き締めて口を開いた。

「母は病で亡くなったことにする。レンは元々母の古い知り合いだっただけで、王家への忠節があって王家の魔法使いになった訳じゃないから、母が亡くなるのと同時に王家から姿を消したとしてもふしぎじゃないよね。ただ問題なのは、レンに変わる強力な王家の魔法使いが必要になるってことだ。」

キリトは黙って僕の話を聞いていたが、話が終わるとにっこりと笑って口を開いた。

「問題は、もう解決されたようなものですね。もし、あなたが同意してくださるならばの話ですが」

そう言うと、キリトは何時もは園芸用のエプロンのように身に着けている魔法使いの証のマントを背中に羽織りなおした。そのマントは深緑に闇が滲んだような色をしていた。マントの色はその色が濃いほど魔力が強いときく。マントの色を決め手にするのもなんだが、この色ならば誰もが納得するだろうと、僕には思えた。

「漆黒には及ばないけど、濃く深い綺麗なマントの色だな。決定だ、王家の魔法使いとして僕と契約して欲しい。」
「喜んで契約いたします、ラインハルト王よ。」

僕とキリトは契約を交わした後、キリトは僕の命により母ローズの精巧な遺体を魔法で作り出した。この時ばかりは、涙が出て止まらなかった。

母の死を発表してからは、立て続けの儀式に追われてただ王として振舞うことだけに集中した。ようやく落ち着く時間が持てるようになったのは、母の葬儀を終えて一ヶ月も経ってからだった。

僕は自室の窓からぼんやりと外の景色を見ていた。バラ園では、僕と契約したはずの魔法使いが相変わらず草花の世話をしていた。何時までも庭師のようでは困るとキリトに話すと、『この趣味だけは譲れません』とはっきりと宣言されてしまった。そういうわけで、いまだに庭師のようなことをしている。

キリトが不老不死だという件も、詳しく話すよう問い詰めたが上手くはぐらかされてしまった。実際のところ、彼が何歳なのか僕は知らない。

だが、今の最重要課題は・・・・・母の死の喪が明けた後に待っている、僕の婚約者である亡きアーサー公の一人娘との対面だった。

僕は妙にそわそわした気分で窓を開けると、透けるような青い空を見上げていた。
この同じ空の下で、ローズ母さんとレンは幸せに暮らしているのだろうか?

そうであって欲しいと、僕は心から願った。


◆◆◆◆◆◆
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感想 1

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みんなの感想(1件)

柚子サラ
2022.02.17 柚子サラ

続き待ってます。面白いので、続きを正座して待ってます。トモヤとレンには、幸せになって欲しい。意外にカインが魅力的です。

月歌(ツキウタ)
2022.02.17 月歌(ツキウタ)

感想コメントありがとうございます。楽しんで読んでいただきうれしいです。(*´∀`)♪コメントありがとうございました(* ̄∇ ̄*)

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