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第157話
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◆◆◆◆◆◆
母のローズが治療院に運び込まれたと従者がこっそりと教えてくれた時、僕は王の業務をすべて投げ出して母の元に向かい走りだしていた。その目の前に、重臣のユリアスが立ちふさがった。
「ローズ様の事は心配ございません・・それよりも、地方貴族との謁見を・・・ぐふぅ!!」
行動を制止しようとしたユリアスの腹部に拳をめり込ませていた時の僕は、きっと異常なほど充血した目をして殺気だった表情をしていたに違いない。母のことを隠していたらしい彼に対して本気で殺意を覚えた僕は、自分でも驚くほど低く地面を這うような声を発していた。
「母に何かあったというのに、僕に知らせなかったのか!!ユリアス貴様・・・・死にたいのか?」
その言葉に、ユリアスは黙り込み顔面を蒼白にさせた。青白い顔からは無数に冷や汗が流れ出ている。僕は、そんなユリアスを冷ややかに見つめたあと無言で彼の横を通り過ぎた。
王宮の廊下を恐ろしい迷宮のように感じたのはこれが初めてだった。いや、以前にもあったのかもしれない。母のローズが僕の幼いころ危篤状態に陥った時、僕は廊下に座り込み夜を明かした。そのときも、王宮の回廊や廊下の闇が母の命を食らう獣を隠しているように思えてならなかった。
「どうして!!かあさんは、不死の身になったはずなのに。」
不安で激しく鼓動する脈が僕の心臓をきりきりと痛ませた。レンの言葉を信じるなら、母はすでに人の命の鎖から切り離された存在になっているはずだ。それなのにどうして、治療院に運び込まれるんだ?
「母上!!」
長く感じた王宮の廊下を走り抜け治療院の扉にたどり着いた時、僕は大声で母を求めながら扉を開け放ち中に飛び込んでいた。
「あら、ラインハルト?どうしたの、そんなに大声を出して?」
あまりにもおっとりとした母の声に僕は、立ち尽くしてしまった。母は、ベッドに横たわっているわけでもなく、治療を受けているわけでもなかった。
・・・・誤解??
重臣のユリアスが、母の事は心配ないといったのは本当のことだったのかもしれない。
母はベッドの傍らの椅子に座っていて、扉を思い切り開け放った息子を呆気に取られたような表情で見つめていた。僕は、母に見つめられて一気に顔を赤らめた。14歳にもなった僕が・・しかも王である僕が、間違った情報で酷く取り乱してしまった姿はあまりにも不甲斐なく見えるに違いなかった。
なんだか、泣きたい気分になってしまった。
そんな僕に、母はふわりと笑いかけると椅子から立ち上がり僕に向かって歩き出した。僕はびくりと震えて自分の失態を叱られそうで後ずさった。逃げ出しそうな様子の息子に、母は悪戯っぽい笑顔を浮かべると、いきなり僕の背に腕を回し抱き着いてきた。
「もしかして、ラインハルト・・・私に何かあって治療院に運び込まれたと勘違いしたの?それで、急いで駆けつけてくれたの?」
「・・・うっ、うん。母上はなんとも・・・無いのですか?」
ローズかあさんは、優しく微笑むとそっとうなづいた。そして、ちょっと頬を染めて僕に囁くように呟いた。
「うん。なんともないよ。ラインハルトは、優しい子ね。・・・心配してくれて、お母さん嬉しいよ。」
母の甘い吐息が僕の首元にかかり、そこから全身に熱が帯びていくように感じた。もう僕は幼い子供ではないのに、子ども扱いするような母の甘い言葉も何の抵抗も無く心にしみこんでいった。
ただそのぬくもりを手放したくなかった。幼いとき、母の命を理不尽な運命が奪っていくのではないかとおびえて過ごした日々を不意に思い出す。
だが、そのときの感情とは微妙にずれていることに僕はすでに気が着いていた。
僕の全身に広がった熱はやがて一点へと集中していく。その中心が喘ぐようにして猛りそうになり、僕は慌てて母から身を離した。
「ラインハルト・・・?」
僕は間違いなく、母に欲情している。
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母のローズが治療院に運び込まれたと従者がこっそりと教えてくれた時、僕は王の業務をすべて投げ出して母の元に向かい走りだしていた。その目の前に、重臣のユリアスが立ちふさがった。
「ローズ様の事は心配ございません・・それよりも、地方貴族との謁見を・・・ぐふぅ!!」
行動を制止しようとしたユリアスの腹部に拳をめり込ませていた時の僕は、きっと異常なほど充血した目をして殺気だった表情をしていたに違いない。母のことを隠していたらしい彼に対して本気で殺意を覚えた僕は、自分でも驚くほど低く地面を這うような声を発していた。
「母に何かあったというのに、僕に知らせなかったのか!!ユリアス貴様・・・・死にたいのか?」
その言葉に、ユリアスは黙り込み顔面を蒼白にさせた。青白い顔からは無数に冷や汗が流れ出ている。僕は、そんなユリアスを冷ややかに見つめたあと無言で彼の横を通り過ぎた。
王宮の廊下を恐ろしい迷宮のように感じたのはこれが初めてだった。いや、以前にもあったのかもしれない。母のローズが僕の幼いころ危篤状態に陥った時、僕は廊下に座り込み夜を明かした。そのときも、王宮の回廊や廊下の闇が母の命を食らう獣を隠しているように思えてならなかった。
「どうして!!かあさんは、不死の身になったはずなのに。」
不安で激しく鼓動する脈が僕の心臓をきりきりと痛ませた。レンの言葉を信じるなら、母はすでに人の命の鎖から切り離された存在になっているはずだ。それなのにどうして、治療院に運び込まれるんだ?
「母上!!」
長く感じた王宮の廊下を走り抜け治療院の扉にたどり着いた時、僕は大声で母を求めながら扉を開け放ち中に飛び込んでいた。
「あら、ラインハルト?どうしたの、そんなに大声を出して?」
あまりにもおっとりとした母の声に僕は、立ち尽くしてしまった。母は、ベッドに横たわっているわけでもなく、治療を受けているわけでもなかった。
・・・・誤解??
重臣のユリアスが、母の事は心配ないといったのは本当のことだったのかもしれない。
母はベッドの傍らの椅子に座っていて、扉を思い切り開け放った息子を呆気に取られたような表情で見つめていた。僕は、母に見つめられて一気に顔を赤らめた。14歳にもなった僕が・・しかも王である僕が、間違った情報で酷く取り乱してしまった姿はあまりにも不甲斐なく見えるに違いなかった。
なんだか、泣きたい気分になってしまった。
そんな僕に、母はふわりと笑いかけると椅子から立ち上がり僕に向かって歩き出した。僕はびくりと震えて自分の失態を叱られそうで後ずさった。逃げ出しそうな様子の息子に、母は悪戯っぽい笑顔を浮かべると、いきなり僕の背に腕を回し抱き着いてきた。
「もしかして、ラインハルト・・・私に何かあって治療院に運び込まれたと勘違いしたの?それで、急いで駆けつけてくれたの?」
「・・・うっ、うん。母上はなんとも・・・無いのですか?」
ローズかあさんは、優しく微笑むとそっとうなづいた。そして、ちょっと頬を染めて僕に囁くように呟いた。
「うん。なんともないよ。ラインハルトは、優しい子ね。・・・心配してくれて、お母さん嬉しいよ。」
母の甘い吐息が僕の首元にかかり、そこから全身に熱が帯びていくように感じた。もう僕は幼い子供ではないのに、子ども扱いするような母の甘い言葉も何の抵抗も無く心にしみこんでいった。
ただそのぬくもりを手放したくなかった。幼いとき、母の命を理不尽な運命が奪っていくのではないかとおびえて過ごした日々を不意に思い出す。
だが、そのときの感情とは微妙にずれていることに僕はすでに気が着いていた。
僕の全身に広がった熱はやがて一点へと集中していく。その中心が喘ぐようにして猛りそうになり、僕は慌てて母から身を離した。
「ラインハルト・・・?」
僕は間違いなく、母に欲情している。
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