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第155話

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◆◆◆◆◆◆

「薔薇の香りがするな・・ローズ。」
「蓮、どうしちゃったの・・んっ・・はぁ・・」

くちゅ。

舌が優しく絡み合った。ローズの舌がぴくりと震える。それに怯えを感じ取った蓮は慌てて唇を放すとローズから一歩離れて、苦笑いを浮かべると早口で話し始めた。

「あーくそ!智也にキスするなんて、俺って欲求不満だな。」

蓮はわざと『智也』と言う名前を口にして己の行動を茶化そうとした。ローズは、唇を両手で覆ったまま頬を赤くしながらぼそりと呟いた。

「欲求不満なんて、嘘。蓮が・・・女の子とやりまくってるって王宮の噂になってるよ。魔法使いは女を抱くと能力が落ちるとかで女性を敬遠するけど、あなたは例外だってもっぱらの噂だもの。私も、その女たちの中の一人にするつもりなの?」

「そんなわけ無いだろ!!」

蓮の語気は思いのほかきつかった。ローズはびっくりして蓮を見つめた。蓮は真剣な表情でローズを見つめていた。ローズは蓮の真剣な姿にたじろいでしまったが、高鳴る胸を押さえることはできなかった。

「・・・そんなわけない。お前は特別だ、ローズ。」
「特別ならどうして・・・いえ、そうよね・・・『特別』だものね、私たちの関係は。」

ローズはそれ以上言葉を続けることができなかった。蓮には多くの女性がいた。その中に、ローズは含まれてはいなかった。輪廻をきられ不死となった同じ身の上だが、蓮はローズを『特別』だと言いながらも女性として扱うことは無かった。
ローズにも、その理由はわかっていた。一児の母とはいえ、不死のみとなったローズはやがて息子の前から姿を消さなくてはならない。その後共に歩んでいくのは、同じ不死の身の蓮のはずだ。彼は、その事を見越した上で、ローズと男女の関係になることを警戒している。あるいは、ローズ自身が彼を拒んでいるのかもしれない。

不死の男女が恋人として過ごすより友として過ごすほうが、互いに傷つけあわずに済むから。

お互いにそう判っているはずなのに、蓮は時々彼女の胸を高鳴らせるような言動や行為をしてローズを戸惑わせる。

二人が薔薇の花園の中で沈黙に陥った時、背後から妙に飄々とした声が庭園に響き渡った。


「あーー、えーっと。ごほん、ごほんって・・ってこんな咳払いわざとらしすぎるかぁ。あのぉ、お取り込み中悪いんですけどローズ様に見て頂きたいお花が今にも咲きそうなので呼びにきたんですけど。出直したほうがいいですかね?そうですよね、出直しますね。あーあ、一年に一度しか咲かん花なんやけどなぁ・・・残念。」

蓮がぎくりとして振り返ると、今にもその場から離れようとしている少年がいた。背後から近づく少年の気配にまったく気が着かなかったことに、蓮は驚きの表情を隠せなかった。

「あ、待ってキリト!!誤解だから。彼とは幼馴染でちょっとじゃれてただけなの。それより、蓮に紹介するね。キリト、蓮のことは知っているかしら?」

ローズが慌てて、背を向けようとするキリトに声をかけると彼はぱっと表情を明るくして振り返った。黒髪と濡れるような黒い瞳が印象的な美少年だった。その彼の口から零れる言葉は、妙に田舎くさくそのアンバランスさがローズのお気に入りだった。

「もちろん知ってますよぉ!!むちゃくちゃ有名やないですか。現王の最強の契約魔法使いにして、漆黒のマントから漆黒の魔法使いってよばれとって、その美青年ぶりから王宮の女性陣の垂涎の的とか。一説では、性癖にはサドっけがあってその漆黒のマントの裏にははあらゆるサド道具が隠されているとか。もはや、生きる伝説ですよ。伝説の漆黒の魔法使い『レン』さま。」

「蓮は・・サドだったのか。やはり。」
「やはりってなんだよ、ローズ。おいこら、勝手に俺をサドあつかいするな!褒めるきないだろ、何が『レン』様だ。様つければ、褒めてると思い込むほど俺はばかじゃないぞ。で・・・この口の悪い奴は誰なんだ、ローズ?」

蓮は呆れるほどに飄々と自身を小ばかにする美少年を見つめながら、少々不快な表情を作ってローズに少年の正体を聞き出そうとした。当のローズは、くすくすと笑いながら口を開いた。

「さっき言っていたでしょ?最年少にして王宮の庭園の庭師長になったキリト君よ。息子と同じ14歳の若さで植物の生態に精通していて、なおかつ魔法使いとしての知識をつかって王宮の庭園の植物を全部管理しているのよ。すごいでしょ。」


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