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第153話
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◆◆◆◆◆◆
蓮はまるで獲物を狙う獣のような鋭い目をして僕を見つめながらベッドに近づくと、いきなり僕の額を鷲づかみにして勢いよく背後に押し倒した。僕の体はあっさりベッドに押し倒されてしまった。
「うわっ!!」
僕は虚を突かれて唖然としたままベッドに横たわり、蓮を見上げていた。蓮は、僕を見下ろしながら口をひらいた。
「さて・・どうしたものかな?精神の一部を削るとはいったものの、結構なリスクがあることは俺自身が経験しているからなぁ。まして・・・愛情を司るところを削るだけに、まかり間違ってお前が血も涙も無い暴君にでも変貌してしまったらローズに会わせる顔が無い。まったく、厄介だな。」
蓮は僕の額を押さえつけたまま独り言のように喋っている。僕はわけもわからないまま、蓮の手を振り払うこともできずただ彼に話しかけていた。
「レン、愛情の司るところを削るってどういう意味だよ?」
蓮は僕をまじまじと見つめながらため息を一つつくと、手のひらを僕の額から外し何か思案しながら部屋を歩き回り始めた。もう一度僕が『レン』と彼に呼びかけると、彼は仕方ないとばかりに僕の方に視線を向けて口を開いた。
「お前がローズの息子で無ければ迷わず精神を弄っているところだが、あいつの息子である以上リスクのある行為はできるだけ避けたい。だがこのまま放置すれば、お前も・・・ローズも傷つくことになるのは明白だ。」
「お前が何を心配しているのかはわからないけど、僕は絶対に母さんを傷つけたりしない!!」
僕がそう反論すると、蓮は真剣な表情をして僕に話しかけてきた。
「では・・・お前は、理性で母親への性愛を押さえ込むことができるか?」
「へっ!?」
あまりにも意外な言葉に、僕は思わずへんな声を発してしまった。そんな僕を無視して蓮が言葉を続ける。
「今年14歳になったんだよな、ラインハルト王は?思春期の入り口に入ってそろそろ性の目覚めにも気が付いているだろ。そう時を措かず、お前は母親への愛情が肉親の親愛を越えたものだと気が付くはずだ。その感情を理性で押さえ込んでもらいたい。」
「冗談だろ?僕が母親に肉親以上の愛情を抱くはず無いじゃないか!?」
僕の言葉に蓮が答える。
「そうであって欲しい。だが、お前の体内に流れる王家の証である青い炎のほとんどは、俺の体を介して注ぎ込まれた経緯がある。そして、その炎には俺のローズへの想いが宿ってしまったらしい。その青い炎を一身に受け生まれたお前は、知らず知らずのうちに影響を受けてしまったようだ。」
「そんな、まさか?」
「心当たりが無いとは言わせないぞ?お前は、精神の一部を青い鳥にして人々の脳を観察していたな。そして、母親に恋心を抱く宮廷詩人を宮廷から追い出した上に、城下で暗殺したはずだ。」
「どうして、その事をレンが・・・」
「俺が知らないとでも思っていたのか?俺はこれでもお前の契約魔法使いだぞ。まあとにかくその件だけでも、お前の母親への異常な執着ともいえる愛情を示していると思えないか?」
蓮の確信に近い物言いに反論しようとしたが、魔法使いとしての彼の能力を考えると蓮には未来さえ見えているように思えて反論の言葉を吐き出すこともできなかった。
それに、母親に性的興味を向けていた宮廷詩人を王宮から排除して殺したことは事実だ。人から指摘されて、初めて己の異常さに気が付くこともある。
僕が母に異常なほどの愛情を抱いている?
女として母さんを見ている?
そんなことは・・・ありえない。あってほしくは無いのに。
不意に脳裏に浮かんだ母親の姿は、艶かしくむずむずと何か下腹部を刺激するものだった。僕はぎょっとして、その想像を打ち払おうと頭を振った。そんな僕の様子を見ていた蓮は、すべてを見透かしたようにひょいと肩を竦めると慰めるような口調で僕に話しかけてきた。だが、その優しげな口調とは裏腹に内容は背筋の凍るようなものだった。
「ラインハルト王よ。あなたには何の責任も無い。生まれながらに与えられた王家の青い炎に、母親への異常な性愛を刷り込まれたようなものなのだからね。だが・・・もし、お前がローズを傷つけるようなことをするなら君の魂を喰らうことを俺は躊躇わない。たとえ、ラインハルト王が愛も感じない暴君と成り果てたとしてもだ。」
僕は頭がくらくらする思いだった。
蓮は僕には罪はないと言いつつ、母の為なら僕の魂を喰らうことも躊躇わないと言う。僕は不意に蓮が怖くなって、遠ざけたいと思った。
「レン・・・すこし、考えを整理したい。僕を一人にしてくれないか?」
僕の言葉に、蓮は無言でうなづくとベッドから遠のくと窓辺に近づき中庭の景色を眺めつつ、口をひらいた。
「俺の忠告を守ってくれさえすれば、危害を加えることはないよ。じゃあな、ラインハルト王。」
彼はそう言うとすっーと窓際の壁を魔法で通り抜けてしまった。王の寝室には王家に雇われた精鋭の魔法使いたちによって魔法防壁が張ってあるはずなのに、いとも簡単に出入りする蓮の底知れぬ能力には唖然とするばかりだった。あまりの鮮やかさに、己にもできるのではないかと錯覚さえ覚えさせる力があった。このときも、僕はそんな錯覚に陥ってベッドから起き上がると窓辺に近づいていた。蓮が消えた壁を指でなぞったが当然そこに道や穴などはなく、僕はただ馬鹿っぽい顔で窓の外の景色を眺めることになった。
その窓から見えたものに僕はぎくりと身を震わせた。
中庭の薔薇園で母と蓮が親しげに語りながら散策している姿を見つけ、僕はぎりりと奥歯をかみ締めていた。これは、何か思い通りになら無いときの僕の昔からの癖だった。
蓮は窓際から母さんがバラ園を散策していることに気が付いて、僕の言葉をあっさり受け入れ魔法で母の元に向かったのだろう。僕は拳をぎゅっと握り締めて楽しげな二人の様子を窓辺からじっと見つめていた。
「僕は・・・嫉妬しているのか?」
誰もいない寝室で、僕はぽつりと呟いていた。
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蓮はまるで獲物を狙う獣のような鋭い目をして僕を見つめながらベッドに近づくと、いきなり僕の額を鷲づかみにして勢いよく背後に押し倒した。僕の体はあっさりベッドに押し倒されてしまった。
「うわっ!!」
僕は虚を突かれて唖然としたままベッドに横たわり、蓮を見上げていた。蓮は、僕を見下ろしながら口をひらいた。
「さて・・どうしたものかな?精神の一部を削るとはいったものの、結構なリスクがあることは俺自身が経験しているからなぁ。まして・・・愛情を司るところを削るだけに、まかり間違ってお前が血も涙も無い暴君にでも変貌してしまったらローズに会わせる顔が無い。まったく、厄介だな。」
蓮は僕の額を押さえつけたまま独り言のように喋っている。僕はわけもわからないまま、蓮の手を振り払うこともできずただ彼に話しかけていた。
「レン、愛情の司るところを削るってどういう意味だよ?」
蓮は僕をまじまじと見つめながらため息を一つつくと、手のひらを僕の額から外し何か思案しながら部屋を歩き回り始めた。もう一度僕が『レン』と彼に呼びかけると、彼は仕方ないとばかりに僕の方に視線を向けて口を開いた。
「お前がローズの息子で無ければ迷わず精神を弄っているところだが、あいつの息子である以上リスクのある行為はできるだけ避けたい。だがこのまま放置すれば、お前も・・・ローズも傷つくことになるのは明白だ。」
「お前が何を心配しているのかはわからないけど、僕は絶対に母さんを傷つけたりしない!!」
僕がそう反論すると、蓮は真剣な表情をして僕に話しかけてきた。
「では・・・お前は、理性で母親への性愛を押さえ込むことができるか?」
「へっ!?」
あまりにも意外な言葉に、僕は思わずへんな声を発してしまった。そんな僕を無視して蓮が言葉を続ける。
「今年14歳になったんだよな、ラインハルト王は?思春期の入り口に入ってそろそろ性の目覚めにも気が付いているだろ。そう時を措かず、お前は母親への愛情が肉親の親愛を越えたものだと気が付くはずだ。その感情を理性で押さえ込んでもらいたい。」
「冗談だろ?僕が母親に肉親以上の愛情を抱くはず無いじゃないか!?」
僕の言葉に蓮が答える。
「そうであって欲しい。だが、お前の体内に流れる王家の証である青い炎のほとんどは、俺の体を介して注ぎ込まれた経緯がある。そして、その炎には俺のローズへの想いが宿ってしまったらしい。その青い炎を一身に受け生まれたお前は、知らず知らずのうちに影響を受けてしまったようだ。」
「そんな、まさか?」
「心当たりが無いとは言わせないぞ?お前は、精神の一部を青い鳥にして人々の脳を観察していたな。そして、母親に恋心を抱く宮廷詩人を宮廷から追い出した上に、城下で暗殺したはずだ。」
「どうして、その事をレンが・・・」
「俺が知らないとでも思っていたのか?俺はこれでもお前の契約魔法使いだぞ。まあとにかくその件だけでも、お前の母親への異常な執着ともいえる愛情を示していると思えないか?」
蓮の確信に近い物言いに反論しようとしたが、魔法使いとしての彼の能力を考えると蓮には未来さえ見えているように思えて反論の言葉を吐き出すこともできなかった。
それに、母親に性的興味を向けていた宮廷詩人を王宮から排除して殺したことは事実だ。人から指摘されて、初めて己の異常さに気が付くこともある。
僕が母に異常なほどの愛情を抱いている?
女として母さんを見ている?
そんなことは・・・ありえない。あってほしくは無いのに。
不意に脳裏に浮かんだ母親の姿は、艶かしくむずむずと何か下腹部を刺激するものだった。僕はぎょっとして、その想像を打ち払おうと頭を振った。そんな僕の様子を見ていた蓮は、すべてを見透かしたようにひょいと肩を竦めると慰めるような口調で僕に話しかけてきた。だが、その優しげな口調とは裏腹に内容は背筋の凍るようなものだった。
「ラインハルト王よ。あなたには何の責任も無い。生まれながらに与えられた王家の青い炎に、母親への異常な性愛を刷り込まれたようなものなのだからね。だが・・・もし、お前がローズを傷つけるようなことをするなら君の魂を喰らうことを俺は躊躇わない。たとえ、ラインハルト王が愛も感じない暴君と成り果てたとしてもだ。」
僕は頭がくらくらする思いだった。
蓮は僕には罪はないと言いつつ、母の為なら僕の魂を喰らうことも躊躇わないと言う。僕は不意に蓮が怖くなって、遠ざけたいと思った。
「レン・・・すこし、考えを整理したい。僕を一人にしてくれないか?」
僕の言葉に、蓮は無言でうなづくとベッドから遠のくと窓辺に近づき中庭の景色を眺めつつ、口をひらいた。
「俺の忠告を守ってくれさえすれば、危害を加えることはないよ。じゃあな、ラインハルト王。」
彼はそう言うとすっーと窓際の壁を魔法で通り抜けてしまった。王の寝室には王家に雇われた精鋭の魔法使いたちによって魔法防壁が張ってあるはずなのに、いとも簡単に出入りする蓮の底知れぬ能力には唖然とするばかりだった。あまりの鮮やかさに、己にもできるのではないかと錯覚さえ覚えさせる力があった。このときも、僕はそんな錯覚に陥ってベッドから起き上がると窓辺に近づいていた。蓮が消えた壁を指でなぞったが当然そこに道や穴などはなく、僕はただ馬鹿っぽい顔で窓の外の景色を眺めることになった。
その窓から見えたものに僕はぎくりと身を震わせた。
中庭の薔薇園で母と蓮が親しげに語りながら散策している姿を見つけ、僕はぎりりと奥歯をかみ締めていた。これは、何か思い通りになら無いときの僕の昔からの癖だった。
蓮は窓際から母さんがバラ園を散策していることに気が付いて、僕の言葉をあっさり受け入れ魔法で母の元に向かったのだろう。僕は拳をぎゅっと握り締めて楽しげな二人の様子を窓辺からじっと見つめていた。
「僕は・・・嫉妬しているのか?」
誰もいない寝室で、僕はぽつりと呟いていた。
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