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第134話
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◆◆◆◆◆◆
「承知いたしました、トモヤさま。お連れいたしましょう。最近は、獣族の動きが怪しいので兵を何人かつけるがよいですか?」
「獣族?」
「首都で、テロ未遂を起こしたのも獣族だと聞いています。各地でテロを起こしていると聞き及んでいるが、トモヤさまはお聞きではなかったようですね。お腹のお子に触ると、弟のカインはその会話を避けられたのでしょう。」
「でも、知らせて欲しかったわ。獣族がテロだなんて・・・ねえ、蓮何かカインから聞いている?」
私は憂鬱げに蓮の方に聞いてみた。獣族に牢獄塔の前でさらわれたことを思い出す。連れ去られた村の住人のアベルもリリカも長のナギもよい人たちだった。そんな彼らが、テロを起こしているだなんて信じられなかった。私が蓮に声を掛けると、マリーと会話を弾ませていた彼が表情を改めて、こちらに姿勢を向けて口を開いた。
「トモヤを誘拐した一族のことをは、憶えているよな?彼らは、森の奥深くに身を隠したようだが彼らの長のナギが王家に反意を持つ獣族を纏め上げて反乱分子として、王家にテロをおこなわせているらしい。」
そこでアーサーが口を開く。
「獣族は道を間違えている。その行為は、王家の圧制を招きよせるだけだ。実際、獣族への抑圧がテロの起こった地方でおこなわれていると聞く。」
私は、不審に思いながら口を開いていた。
「私の逢った獣族の村の長のナギは、とてもすがすがしい人だった。カリスマ性があって、確かに獣族を纏め上げる人格者のようには思えたけど・・・なんだか、方向性が違うように思えてなら無いの。人と獣族がともに歩む道を築いてくれって彼女は私に言ったのよ。そんな彼女が、テロを起こすなんて信じられないわ。」
私の疑問に誰も答えは持っていなかった。口を開いたのは、蓮だけだった。
「人は時を経て心が変わらずにはいられない生き物なのだろうな。あのメアリーでさえ駆け落ちをするんだぜ?獣族のナギが人が収める王国に反意や憎しみを持ったとしても不思議はない。愛情も憎しみも、時とともに変化していくものだろ?・・もっとも、心の変化を認めず心を閉ざす奴もいるけどな。でも、そんな奴は愚かな奴だとは思わないか、智也?」
蓮の言葉に、敏感に反応したのは私ではなくアーサーの方だった。私に向けられた言葉だと思ったが違ったのかもしれない。アーサーは、じっと蓮を見つめていたが視線を逸らすとやがて表情を和らげて私を見つめ口を開いた。
「妹のメアリーに会いに行くのなら明るい時間の方がいい。体調がよければ今からいくか?」
「体調なら大丈夫だよ。あのメアリーが村娘になったなんて想像できないけど、とにかく早く会いたい。」
私の言葉にうなずくとアーサーは馬車を用意してくれた。彼は、蓮にも一緒に来るように誘ったが『お邪魔だろう?』とちょっと意地悪な表情を浮かべて軽く断った。アーサーはそれ以上は妻と仲良く談笑する蓮を誘うことはなかった。馬車と数人の兵を城の前に手配すると、アーサーは私と一緒に馬車に乗り込むと妹のメアリーが住む村に向かって馬車を走らせた。
アーサーと馬車の中で二人きりになった私は、彼に聞きたかったことを口にした。
「ねえ、アーサーは嫉妬は感じないの?」
「嫉妬?」
「蓮とあなたの妻が肩を寄せ合って親しそうに談笑していたでしょ?やっぱり、見ていると嫉妬とか感じるでしょ、普通。」
アーサーは私から視線を外し馬車の車窓を見ながら口を開いた。
「うーん、どうかな?マリーとは政略結婚のようなものだから嫉妬を感じることは無い。いや・・・嫉妬は感じるか?」
アーサーが矛盾を含んだ言葉を吐いた。その目は、困惑とも迷いともつかない色で揺らいでいた。その目が急に私に向けられたので、私はびくりと震えてしまった。彼は、私の質問に質問でぶつけてきた。
「お前はどうなんだ、トモヤ?嫉妬は感じないのか。幼馴染とは言っているが、いつも一緒にいるレンがマリーと親しげにしているのを見て何も感じないのか?」
「うーーん??」
私は、蓮とマリーが親しげにしている姿を想像した。
私は元男で蓮はただの幼馴染。だった・・・はず。
でも、彼が誰よりも私の傍にいることは確か。
彼がマリーと一緒に談笑している姿を見たときに、ほんの少し胸の奥がきゅっと痛んだことは事実。
不意に、蓮の言葉が脳に浮かび上がってきて消えてくれなかった。
『心の変化を認めず心を閉ざす奴もいるけどな。でも、そんな奴は愚かなやつだとは思わないか、智也?』
蓮が放った言葉は、やはりアーサーにではなく私に向けられたものだったのだろうか?
私はアーサーに向かって口を開いていた。
「蓮がいっていた言葉が頭から離れないんだよね。ねえ、心の変化を認めず心を閉ざす奴って私のことなのかな?」
私の言葉に、アーサーはしばらく沈黙を保った。でも、やがて迷いを含みながらも口を開いた。
「あの言葉は、トモヤにではなく俺に向けられたものだろう。」
「アーサーに向けられた言葉?」
アーサーは自嘲気味に微笑みながら頷く。そして唐突に、アーサーは私の胸をかきむしる様な告白をし始めた。
「『俺は今でも死んだ人間を愛している』その事実を、昨夜俺は思い知らされた。トモヤを愛していると思っていた感情が、その女性の前では色あせてしまった。すべての感情が灰色に変貌したのに、彼女だけが鮮やかな色に染まっていたんだ。俺は・・・今でも『トモ』を愛している。変化を恐れて心を閉ざして欺瞞に満ち、己自身の感情さえ欺いていた。」
「アーサー!!」
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「承知いたしました、トモヤさま。お連れいたしましょう。最近は、獣族の動きが怪しいので兵を何人かつけるがよいですか?」
「獣族?」
「首都で、テロ未遂を起こしたのも獣族だと聞いています。各地でテロを起こしていると聞き及んでいるが、トモヤさまはお聞きではなかったようですね。お腹のお子に触ると、弟のカインはその会話を避けられたのでしょう。」
「でも、知らせて欲しかったわ。獣族がテロだなんて・・・ねえ、蓮何かカインから聞いている?」
私は憂鬱げに蓮の方に聞いてみた。獣族に牢獄塔の前でさらわれたことを思い出す。連れ去られた村の住人のアベルもリリカも長のナギもよい人たちだった。そんな彼らが、テロを起こしているだなんて信じられなかった。私が蓮に声を掛けると、マリーと会話を弾ませていた彼が表情を改めて、こちらに姿勢を向けて口を開いた。
「トモヤを誘拐した一族のことをは、憶えているよな?彼らは、森の奥深くに身を隠したようだが彼らの長のナギが王家に反意を持つ獣族を纏め上げて反乱分子として、王家にテロをおこなわせているらしい。」
そこでアーサーが口を開く。
「獣族は道を間違えている。その行為は、王家の圧制を招きよせるだけだ。実際、獣族への抑圧がテロの起こった地方でおこなわれていると聞く。」
私は、不審に思いながら口を開いていた。
「私の逢った獣族の村の長のナギは、とてもすがすがしい人だった。カリスマ性があって、確かに獣族を纏め上げる人格者のようには思えたけど・・・なんだか、方向性が違うように思えてなら無いの。人と獣族がともに歩む道を築いてくれって彼女は私に言ったのよ。そんな彼女が、テロを起こすなんて信じられないわ。」
私の疑問に誰も答えは持っていなかった。口を開いたのは、蓮だけだった。
「人は時を経て心が変わらずにはいられない生き物なのだろうな。あのメアリーでさえ駆け落ちをするんだぜ?獣族のナギが人が収める王国に反意や憎しみを持ったとしても不思議はない。愛情も憎しみも、時とともに変化していくものだろ?・・もっとも、心の変化を認めず心を閉ざす奴もいるけどな。でも、そんな奴は愚かな奴だとは思わないか、智也?」
蓮の言葉に、敏感に反応したのは私ではなくアーサーの方だった。私に向けられた言葉だと思ったが違ったのかもしれない。アーサーは、じっと蓮を見つめていたが視線を逸らすとやがて表情を和らげて私を見つめ口を開いた。
「妹のメアリーに会いに行くのなら明るい時間の方がいい。体調がよければ今からいくか?」
「体調なら大丈夫だよ。あのメアリーが村娘になったなんて想像できないけど、とにかく早く会いたい。」
私の言葉にうなずくとアーサーは馬車を用意してくれた。彼は、蓮にも一緒に来るように誘ったが『お邪魔だろう?』とちょっと意地悪な表情を浮かべて軽く断った。アーサーはそれ以上は妻と仲良く談笑する蓮を誘うことはなかった。馬車と数人の兵を城の前に手配すると、アーサーは私と一緒に馬車に乗り込むと妹のメアリーが住む村に向かって馬車を走らせた。
アーサーと馬車の中で二人きりになった私は、彼に聞きたかったことを口にした。
「ねえ、アーサーは嫉妬は感じないの?」
「嫉妬?」
「蓮とあなたの妻が肩を寄せ合って親しそうに談笑していたでしょ?やっぱり、見ていると嫉妬とか感じるでしょ、普通。」
アーサーは私から視線を外し馬車の車窓を見ながら口を開いた。
「うーん、どうかな?マリーとは政略結婚のようなものだから嫉妬を感じることは無い。いや・・・嫉妬は感じるか?」
アーサーが矛盾を含んだ言葉を吐いた。その目は、困惑とも迷いともつかない色で揺らいでいた。その目が急に私に向けられたので、私はびくりと震えてしまった。彼は、私の質問に質問でぶつけてきた。
「お前はどうなんだ、トモヤ?嫉妬は感じないのか。幼馴染とは言っているが、いつも一緒にいるレンがマリーと親しげにしているのを見て何も感じないのか?」
「うーーん??」
私は、蓮とマリーが親しげにしている姿を想像した。
私は元男で蓮はただの幼馴染。だった・・・はず。
でも、彼が誰よりも私の傍にいることは確か。
彼がマリーと一緒に談笑している姿を見たときに、ほんの少し胸の奥がきゅっと痛んだことは事実。
不意に、蓮の言葉が脳に浮かび上がってきて消えてくれなかった。
『心の変化を認めず心を閉ざす奴もいるけどな。でも、そんな奴は愚かなやつだとは思わないか、智也?』
蓮が放った言葉は、やはりアーサーにではなく私に向けられたものだったのだろうか?
私はアーサーに向かって口を開いていた。
「蓮がいっていた言葉が頭から離れないんだよね。ねえ、心の変化を認めず心を閉ざす奴って私のことなのかな?」
私の言葉に、アーサーはしばらく沈黙を保った。でも、やがて迷いを含みながらも口を開いた。
「あの言葉は、トモヤにではなく俺に向けられたものだろう。」
「アーサーに向けられた言葉?」
アーサーは自嘲気味に微笑みながら頷く。そして唐突に、アーサーは私の胸をかきむしる様な告白をし始めた。
「『俺は今でも死んだ人間を愛している』その事実を、昨夜俺は思い知らされた。トモヤを愛していると思っていた感情が、その女性の前では色あせてしまった。すべての感情が灰色に変貌したのに、彼女だけが鮮やかな色に染まっていたんだ。俺は・・・今でも『トモ』を愛している。変化を恐れて心を閉ざして欺瞞に満ち、己自身の感情さえ欺いていた。」
「アーサー!!」
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