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第127話
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◆◆◆◆◆◆
蓮が語気を荒げていたが、私はかまわず叫んでいた。
「わがままでもいい!!この世界でのことはすべて憶えておきたいの。それに・・・蓮、あなたが元の世界に存在したことを誰もが忘れてしまってあなたは寂しくないの?一人ぐらい、あなたがあの世界に存在した事を憶えている人間がいてもいいはずだよ、蓮!!」
私がそう叫ぶと、蓮ははっとしたように私を見つめたがやがて苦しそうに視線を外して呟いた。
「俺の存在なんて・・・忘れてしまえよ、智也。」
「絶対に嫌よ。忘れたりしない、あなたと一緒に過ごした時間を忘れられるはずが無いでしょ?」
私の言葉に蓮はゆっくりと目を瞑り、やがて目を見開くと隣に座る私をきつく抱きしめそのまま馬車のソファに押し倒した。蓮は、ゆっくりと私の唇を奪うとすこし涙目になりながら口を開いた。
「さっきも言ったように、どうしてもここでの記憶を持って元の世界に帰りたいなら、ノートに刻まれた魔法陣を通るしかない。その帰路を開く魔法陣を発動させる為には、ノートに書かれた条件を満たす必要がある。愛する人と出逢いセックスすることで、記憶を持ったまま元の世界に帰れるはずだ。」
「愛する人とのセックスが魔法陣発動の条件ってことよね。・・・ねえ、蓮がこの文章を書いたんだから聞かせてよ?」
「何をだ?」
吐く息が互いの肌を温めるような至近距離で、私と蓮は囁くように話し合っていた。
「愛する人とのセックスって・・・この場合、両想いって事?」
「俺は、そのつもりで書いた。だがどうかな、実際のところ俺にも他人が刻んだ魔法陣の発動条件はよく判らない。まあ・・・両想いだと確実だと思うが?」
「・・・そう。」
『愛する人とのセックス』
それが、ノートの魔法陣の発動の条件。その魔法陣を通れば記憶は残る。蓮が作った魔法陣を通れば記憶は残らない。
記憶が残らないなんて、耐えられない。この世界で得た経験や感情や我が子への想いを、すべて異世界に置き去りにして帰るなんてできない。でも、私の異世界の体が死を迎える・・・子供が七歳を迎えるまでに、心から愛せる人とセックスすることなんてできるのかな?
山道を走る馬車は、私の気持ちを表すようによく揺れた。私は、蓮に抱きしめられソファに押し倒されたまま、馬車の小さな窓から空を眺めていた。木々の隙間から見える空は赤く染まっている。
「もう夕方だね。」
「ああ、そうだな。もうすぐ、アーサーの城に着く。」
蓮はそう言うと、私を起き上がらせ乱れたドレスを整えてくれた。彼も衣服のしわを伸ばすと何事も無かったように、私の向かいの席に移動した。彼のぬくもりから急に引き剥がされて、私は落ち着かなかった。でも、蓮に横に座って私を抱きしめて欲しいとは恥ずかしくて言い出せなかった。
互いにもやもやとした想いを抱えたまま、私と蓮を乗せた馬車は何事も無かったようにアーサーの城へと到着した。そこは、私にとっては懐かしい場所でもあった。馬車から降りた私は、森の木々に囲まれた美しい城に魅入られ、しばし感慨に耽っていた。
アーサーの城。
初恋の人。
そして・・・今は他の女の夫となってしまった人。
ぼんやりと白亜の城を眺めていると、城の外門が開き城主のアーサー自らが私たちを迎え入れてくれた。アーサーは、以前と変わらぬ優しい笑みを浮かべながら私に駆け寄ると、優しく抱きしめてくれた。
「お帰り、トモヤ」
『お帰り』と私の耳元で囁くよう言ってくれたアーサーの言葉が、すごく嬉しかった。この異世界にきて初めて訪れた城がこのアーサーの城だった。そして、理不尽な形で王宮に留め置かれカインの側室となってしまった。それ以来、この城に足を運べる機会は滅多に無かった。
それだけに、『お帰り』というアーサーの言葉がぐっと胸にしみた。僅かに涙が溢れそうになったが、その涙がアーサーの後ろで控えていた女性を見て涙が引っ込んでしまった。
「び、美形・・・」
私はアーサーに抱き着いたまま、思わず言葉を漏らしてしまった。
アーサーの後ろで慎ましやかに控える女性は、夕日を全身に受け金髪の髪がきらきらと美しく輝いていた。肌は白く繊細で美しく、透き通るような瞳は青く輝いていた。華やかだが穢れを知らぬ瞳を宿した女性は、朱に染まったふっくらとした唇の存在によって妖艶な女性としての魅力も併せ持っていた。私が男だったなら、いや男なんだけど・・・こんな人を妻にできたなら、毎日ベッドに引き込んで愛を囁いていたに違いない。
私はアーサーに抱き着いたまま、じろじろと彼女を観察してしまった。私の視線を受けて、女性が恥ずかしそうに頬を染めたが視線を外すことはなかった。アーサーは、ちょっと困ったような表情をしつつも私を抱きしめたまま、後ろの女性のことを紹介してくれた。
「紹介するよ。トモヤ、彼女が私の妻のマリーだ。マリー、この方は現王カイン様の側室のトモヤ様だ。」
「トモヤさま、お逢いできて光栄です。マリーと申します。御懐妊されたると伺っております。山道を馬車に揺られて、さぞお疲れになったことと思います。どうぞ、中にお入りになってお寛ぎください。」
アーサーの言葉を受けてマリーが私に一礼した後、私の体調を気遣う言葉を掛けてくれた。その美しい唇から発せられる声は姿同様に美しく、私はアーサーに抱き着いたままマリーの美しい姿に釘付けになっていた。
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蓮が語気を荒げていたが、私はかまわず叫んでいた。
「わがままでもいい!!この世界でのことはすべて憶えておきたいの。それに・・・蓮、あなたが元の世界に存在したことを誰もが忘れてしまってあなたは寂しくないの?一人ぐらい、あなたがあの世界に存在した事を憶えている人間がいてもいいはずだよ、蓮!!」
私がそう叫ぶと、蓮ははっとしたように私を見つめたがやがて苦しそうに視線を外して呟いた。
「俺の存在なんて・・・忘れてしまえよ、智也。」
「絶対に嫌よ。忘れたりしない、あなたと一緒に過ごした時間を忘れられるはずが無いでしょ?」
私の言葉に蓮はゆっくりと目を瞑り、やがて目を見開くと隣に座る私をきつく抱きしめそのまま馬車のソファに押し倒した。蓮は、ゆっくりと私の唇を奪うとすこし涙目になりながら口を開いた。
「さっきも言ったように、どうしてもここでの記憶を持って元の世界に帰りたいなら、ノートに刻まれた魔法陣を通るしかない。その帰路を開く魔法陣を発動させる為には、ノートに書かれた条件を満たす必要がある。愛する人と出逢いセックスすることで、記憶を持ったまま元の世界に帰れるはずだ。」
「愛する人とのセックスが魔法陣発動の条件ってことよね。・・・ねえ、蓮がこの文章を書いたんだから聞かせてよ?」
「何をだ?」
吐く息が互いの肌を温めるような至近距離で、私と蓮は囁くように話し合っていた。
「愛する人とのセックスって・・・この場合、両想いって事?」
「俺は、そのつもりで書いた。だがどうかな、実際のところ俺にも他人が刻んだ魔法陣の発動条件はよく判らない。まあ・・・両想いだと確実だと思うが?」
「・・・そう。」
『愛する人とのセックス』
それが、ノートの魔法陣の発動の条件。その魔法陣を通れば記憶は残る。蓮が作った魔法陣を通れば記憶は残らない。
記憶が残らないなんて、耐えられない。この世界で得た経験や感情や我が子への想いを、すべて異世界に置き去りにして帰るなんてできない。でも、私の異世界の体が死を迎える・・・子供が七歳を迎えるまでに、心から愛せる人とセックスすることなんてできるのかな?
山道を走る馬車は、私の気持ちを表すようによく揺れた。私は、蓮に抱きしめられソファに押し倒されたまま、馬車の小さな窓から空を眺めていた。木々の隙間から見える空は赤く染まっている。
「もう夕方だね。」
「ああ、そうだな。もうすぐ、アーサーの城に着く。」
蓮はそう言うと、私を起き上がらせ乱れたドレスを整えてくれた。彼も衣服のしわを伸ばすと何事も無かったように、私の向かいの席に移動した。彼のぬくもりから急に引き剥がされて、私は落ち着かなかった。でも、蓮に横に座って私を抱きしめて欲しいとは恥ずかしくて言い出せなかった。
互いにもやもやとした想いを抱えたまま、私と蓮を乗せた馬車は何事も無かったようにアーサーの城へと到着した。そこは、私にとっては懐かしい場所でもあった。馬車から降りた私は、森の木々に囲まれた美しい城に魅入られ、しばし感慨に耽っていた。
アーサーの城。
初恋の人。
そして・・・今は他の女の夫となってしまった人。
ぼんやりと白亜の城を眺めていると、城の外門が開き城主のアーサー自らが私たちを迎え入れてくれた。アーサーは、以前と変わらぬ優しい笑みを浮かべながら私に駆け寄ると、優しく抱きしめてくれた。
「お帰り、トモヤ」
『お帰り』と私の耳元で囁くよう言ってくれたアーサーの言葉が、すごく嬉しかった。この異世界にきて初めて訪れた城がこのアーサーの城だった。そして、理不尽な形で王宮に留め置かれカインの側室となってしまった。それ以来、この城に足を運べる機会は滅多に無かった。
それだけに、『お帰り』というアーサーの言葉がぐっと胸にしみた。僅かに涙が溢れそうになったが、その涙がアーサーの後ろで控えていた女性を見て涙が引っ込んでしまった。
「び、美形・・・」
私はアーサーに抱き着いたまま、思わず言葉を漏らしてしまった。
アーサーの後ろで慎ましやかに控える女性は、夕日を全身に受け金髪の髪がきらきらと美しく輝いていた。肌は白く繊細で美しく、透き通るような瞳は青く輝いていた。華やかだが穢れを知らぬ瞳を宿した女性は、朱に染まったふっくらとした唇の存在によって妖艶な女性としての魅力も併せ持っていた。私が男だったなら、いや男なんだけど・・・こんな人を妻にできたなら、毎日ベッドに引き込んで愛を囁いていたに違いない。
私はアーサーに抱き着いたまま、じろじろと彼女を観察してしまった。私の視線を受けて、女性が恥ずかしそうに頬を染めたが視線を外すことはなかった。アーサーは、ちょっと困ったような表情をしつつも私を抱きしめたまま、後ろの女性のことを紹介してくれた。
「紹介するよ。トモヤ、彼女が私の妻のマリーだ。マリー、この方は現王カイン様の側室のトモヤ様だ。」
「トモヤさま、お逢いできて光栄です。マリーと申します。御懐妊されたると伺っております。山道を馬車に揺られて、さぞお疲れになったことと思います。どうぞ、中にお入りになってお寛ぎください。」
アーサーの言葉を受けてマリーが私に一礼した後、私の体調を気遣う言葉を掛けてくれた。その美しい唇から発せられる声は姿同様に美しく、私はアーサーに抱き着いたままマリーの美しい姿に釘付けになっていた。
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