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第126話

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異世界で心の器として魔法で作られた女の体でも、子を育み近い未来子供を生もうとしている。その女の体で生んだ子供の記憶をすべて失って、私は元の世界に帰らないと駄目なの?
私は涙を拭って、蓮に話しかけた。

「私は、自分の生んだ子供のことを忘れる母親にはなりたくないよ・・・蓮。元の世界に還っても、この世界で得た記憶を残す方法は無いの?」

蓮はすこし難しい顔をしながら私の顔を見つめ、そして僅かに躊躇しつつ口を開いた。

「俺が作った魔法陣を通らず、元の世界に帰ることができれば記憶は残る可能性は大きい。ノートに刻み込まれた『トモ』の先祖が作った魔法陣を通ることができれば、記憶は残るかもしれない。だが、その魔法陣を発動させる為には、例のノートに書かれた帰路の条件をクリアしないと多分駄目だと思う。」

「帰路の条件?」

私がそう聞くと、蓮は私からノートをそっと取り上げると最初のページを捲ってそこに書かれた文字を読み上げた。

「『新たな世界に旅立つ勇気のあるものは、このノートに思い通りの物語を紡ぐがよい』、これは最初からノートに書き込まれていた文章だ。憶えているか?」
私は頷くと口を開いた。
「憶えているよ。そして、後の文章を蓮が書き込んだんだよね?」
蓮も頷くと、さらに言葉を続けた。

「そう、これが『トモ』の祖母が俺の輪廻を絶つ為に放った魔法のノートなんてことは気が着くはずもなく、俺は気楽に次の文章をノートに書き込んだ。」

蓮は、自ら書いた文章の文字を指でなぞりながらゆっくりと読み上げた。 

「『僕たち三人は今から一分後に異世界に行く。草薙智也は女体化して、草薙モモは猫耳娘になり、五十嵐蓮は最強の魔法使いとなる。彼らの目的は、愛する人と出逢いセックスすること。それでこの物語は完了して、元の世界に戻ってくることができる。以上』」

私は蓮の書いた文章を目で追いながら、思わず呟いてた。

「帰路の条件って、愛する人とのセックスのことだよね?でも、この文章は蓮が書き込んだものでしょ。この条件をクリアしたからって『トモ』の先祖が作り出した魔法陣が発動するのかな?」

「ああ、魔法陣は発動するはずだ。このノートに文章を書き込んだ時点で、魔法陣が発動して俺やお前たちが異世界に条件どおり飛ばされたことから見て、俺が書き込んだ文章で魔法陣は発動したんだよ。元々、このノートは俺を捕らえる為に『トモ』の祖母が放ったものだ。俺が文章を書き込むことで、魔法陣が発動するように仕向けられていたんだろう。」

私は疑問にぶつかって蓮に訪ねた。

「蓮が文章を書くことで、魔法陣が発動して現実のものとなるなら新たに何か文章を書き込んでみたらどうかな?例えば、『草薙智也は、異世界で女として新たな命を与えられ子供や夫や友人に愛されて人生を幸せに過ごす。』ってのはどう?新しい文章をノートに書いてみてよ、蓮!!」

私が勢い込んでそう言うと、蓮は眉をちょっと上げて口を開いた。

「『異世界で女として幸せに過ごす。』・・・・それがお前の望みか?悪いが、その望みはかなえられない。俺も馬鹿じゃないんだ。このノートを、元の世界から引き寄せることに成功したときに、とっくに実験しているよ。」
「じゃあ何か文章を書き込んだの?」
私がそう聞くと蓮は首を振って否定した。

「え、書き込んだんじゃないの?」

「いや、文字は書き込んだ。でも、数秒もしないうちに文字が消えてしまうんだ。おそらくは、ノートに刻まれた魔法陣がこの異世界で新たな文章が書き込まれることを阻んでいるんだ。この魔法陣は複雑で・・俺にもよく理解できない。ただ、このノートに元の世界と繋がる魔法陣を刻むことは可能だった。それを使ってモモを元の世界に還すつもりなんだが・・・・智也、お前も俺が作った魔法陣で元の世界に帰るほうがいい。」

「蓮!!」

蓮の表情は厳しかった。その表情から発せられる言葉もシビアなものだった。

「異世界の記憶を引きずって、もとの世界で生きていくことに何の意味がある?生きづらくなるだけだろ・・そんなのは。すべて忘れて元の世界に還るんだ、智也。」

「嫌よ!!」
「わがままが過ぎるぞ、お前!!」

私たちは狭い馬車の中で堂々巡りの言い合いとなってしまった。


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感想 1

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