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第125話
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◆◆◆◆◆◆
「なんなのこの映像は!?これは、現実のものなの、蓮?」
「ああ、今現在のお前と妹の姿だ。」
私はノートに書かれた魔法陣の穴から病室で眠る自分と妹の姿を見つめ、蓮に聞いていた。
「蓮・・・私たちは、『神隠し』にあったわけじゃなかったってこと?体は、元の世界にあって眠っているということなの?」
「眠っているというより・・・もっと、状態は悪い。二人とも、脳死状態に近づきつつある。」
「脳死状態!?それって、死に近づきつつあるってことなの?嘘でしょ・・・そんな。」
私は、両手で口を押さえていた。体が震えて止まらなくて、蓮がそんな私の肩を抱きしめてくれた。蓮は私を抱きしめながら口を開いた。
「お前とモモは心だけを異世界に連れて来られたんだ。女の智也も猫モモの体も、魔法で作り出された器なんだろう。その器に、お前たちの心が入り込み生きている。でも元の世界に残された体は、心を奪われ弱ってしまっている。特に、妹のモモは幼いこともあって弱り方が著しい。このままだと、お前の妹は死んでしまうはずだ。異世界でのモモの様子がおかしくなったのは、おそらく元の世界のモモの状態がよくないためだと思う。元の世界の体が死ねば、異世界の心も死んでしまう可能性が高い。」
「嘘だ!!そんな、嫌だよモモが死んでしまうなんて。」
私がそう言うと、蓮は語気を強めて話し出した。
「死ぬのはモモだけじゃない。お前も、このまま心と体が離れていると死んでしまうことになるんだぞ!!元の世界に、帰らないと・・・死んでしまうんだ、智也。元の世界の体も、異世界の心も!!」
私は苦しげに話す蓮を見つめて口を開いていた。
「還らないと死んでしまうのは、蓮も一緒でしょ?どうすればいいのよ、私たちは・・・どうすれば!!」
混乱して震える私を、蓮はきつく抱きしめると辛そうに話し出した。
「俺は、『トモ』の祖母の魔法陣に呪われて輪廻を絶たれたと言っただろ?俺は、元の世界では存在を消されて、その存在ごと異世界に連れて来られたんだ。だから、俺は母から生まれた現実も、お前と幼馴染だった現実もすべて消え失せてしまった。もう、誰も俺のことを覚えていないんだ。お陰で、元の世界に帰らなくても俺は死ぬことはない。大体、元の世界には呪いで帰れないけどな。永遠の命を与えられて死ぬことも無いだろうし。だが・・お前とモモは違う。心を元の世界に還さないと、元の世界のお前も異世界のお前も死ぬ可能性が高いんだ。猫モモの異変がそれを物語っている。」
私の言葉に答えた蓮の話に衝撃を受けて心がずきりと痛んだ。存在ごと元の世界から消され、異世界に連れて来られた蓮。元の世界では誰も、彼の存在を知らない。母親でさえも・・・・。
でも、私には蓮の孤独を思いやる余裕はなかった。私は最強の魔法使いである蓮に縋って泣き出していた。
「蓮、妹を助けて!!お願い、助けて。」
「ああ、そのつもりだ。ギルミットの魔法の知識を使えば、心を元の世界に還すことができる。モモは、大丈夫だ。死んだりしない。だから、そんなに泣くな・・・・大丈夫だから。」
私は、泣きじゃくりながら蓮を見つめて口を開いた。
「心を元の世界に還す魔法を、蓮は知っているのね?」
「ああ、『トモ』の祖母の脳を喰らった甲斐があった。」
「蓮!!」
「喰らったんだ・・・言葉のとおり。婆さんの脳を割って、血の滴る脳を喰らったんだ・・・知識を得る為に・・」
蓮が遠い目をして呟いた。それから、はっとしたように私を見つめると言葉を濁して視線を逸らすと表情を隠した。私は、それ以上蓮の魔法の知識の出所を聞きだすつもりはなかった。怖かったからかもしれない。そんな私の気持ちが黙っていても伝わったのか、蓮は気持ちを立て直すように深呼吸すると口を開いた。
「智也、モモは先に元の世界に心を返すつもりだ。心を還せば、異世界での猫モモの肉体は死んでしまう。覚悟をしておいてくれ。それから、心が魔法陣を通って元の世界に還ると異世界での記憶は無くなると思う。モモは元の世界に戻って、自分が直面する現実に混乱すると思うけど・・・じきお前も元の世界に還れば、混乱は収まると思う。」
「魔法陣を通ると、ここでの記憶を失ってしまうの?」
「俺の作った魔法陣を通った場合にはそうなる。俺もギルミットの魔法をすべて知っているわけじゃない。知りうる知識で組んだ元の世界に繋げる魔法陣だが、ここでの記憶が消えるって魔法が付加されちまった。でも、それでよかったのかもしれない。すべてを忘れて元の生活に戻るためには。」
私は涙を拭いながら口を開いていた。
「私は蓮を信じるわ。最強の魔法使いだものね。きっと無事に、モモの心を元の世界に還してくれると信じるわ。」
「ああ、信じろ。」
「でも、私はまだ元の世界に還りたくない。お腹の子を産んで、育てたいの。」
私の言葉に、蓮は表情を引き締め口を開いた。
「元の世界のお前の体はまだ深刻な状態じゃない。子を産んで育てる時間はあるだろう。でも・・・子供が七歳を迎えるぐらいまでが限界だと思う。元の世界の体の状態が悪くなれば、悪いが俺は強制的にでもお前の心を元の体に還すからな、智也。」
「・・・・七歳で我が子と別れないと駄目なの?」
私は、自身の膨らんだお腹をそっと摩っていた。この子が七歳になる頃に、今の女の体を手放し元の世界の男の体に還らないといけないということは頭では分かっていた。でも、頭で分かっていても気持ちがついてこなかった。ぎりぎりと胸が締め付けられて痛くて涙が溢れて止まらなかった。
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「なんなのこの映像は!?これは、現実のものなの、蓮?」
「ああ、今現在のお前と妹の姿だ。」
私はノートに書かれた魔法陣の穴から病室で眠る自分と妹の姿を見つめ、蓮に聞いていた。
「蓮・・・私たちは、『神隠し』にあったわけじゃなかったってこと?体は、元の世界にあって眠っているということなの?」
「眠っているというより・・・もっと、状態は悪い。二人とも、脳死状態に近づきつつある。」
「脳死状態!?それって、死に近づきつつあるってことなの?嘘でしょ・・・そんな。」
私は、両手で口を押さえていた。体が震えて止まらなくて、蓮がそんな私の肩を抱きしめてくれた。蓮は私を抱きしめながら口を開いた。
「お前とモモは心だけを異世界に連れて来られたんだ。女の智也も猫モモの体も、魔法で作り出された器なんだろう。その器に、お前たちの心が入り込み生きている。でも元の世界に残された体は、心を奪われ弱ってしまっている。特に、妹のモモは幼いこともあって弱り方が著しい。このままだと、お前の妹は死んでしまうはずだ。異世界でのモモの様子がおかしくなったのは、おそらく元の世界のモモの状態がよくないためだと思う。元の世界の体が死ねば、異世界の心も死んでしまう可能性が高い。」
「嘘だ!!そんな、嫌だよモモが死んでしまうなんて。」
私がそう言うと、蓮は語気を強めて話し出した。
「死ぬのはモモだけじゃない。お前も、このまま心と体が離れていると死んでしまうことになるんだぞ!!元の世界に、帰らないと・・・死んでしまうんだ、智也。元の世界の体も、異世界の心も!!」
私は苦しげに話す蓮を見つめて口を開いていた。
「還らないと死んでしまうのは、蓮も一緒でしょ?どうすればいいのよ、私たちは・・・どうすれば!!」
混乱して震える私を、蓮はきつく抱きしめると辛そうに話し出した。
「俺は、『トモ』の祖母の魔法陣に呪われて輪廻を絶たれたと言っただろ?俺は、元の世界では存在を消されて、その存在ごと異世界に連れて来られたんだ。だから、俺は母から生まれた現実も、お前と幼馴染だった現実もすべて消え失せてしまった。もう、誰も俺のことを覚えていないんだ。お陰で、元の世界に帰らなくても俺は死ぬことはない。大体、元の世界には呪いで帰れないけどな。永遠の命を与えられて死ぬことも無いだろうし。だが・・お前とモモは違う。心を元の世界に還さないと、元の世界のお前も異世界のお前も死ぬ可能性が高いんだ。猫モモの異変がそれを物語っている。」
私の言葉に答えた蓮の話に衝撃を受けて心がずきりと痛んだ。存在ごと元の世界から消され、異世界に連れて来られた蓮。元の世界では誰も、彼の存在を知らない。母親でさえも・・・・。
でも、私には蓮の孤独を思いやる余裕はなかった。私は最強の魔法使いである蓮に縋って泣き出していた。
「蓮、妹を助けて!!お願い、助けて。」
「ああ、そのつもりだ。ギルミットの魔法の知識を使えば、心を元の世界に還すことができる。モモは、大丈夫だ。死んだりしない。だから、そんなに泣くな・・・・大丈夫だから。」
私は、泣きじゃくりながら蓮を見つめて口を開いた。
「心を元の世界に還す魔法を、蓮は知っているのね?」
「ああ、『トモ』の祖母の脳を喰らった甲斐があった。」
「蓮!!」
「喰らったんだ・・・言葉のとおり。婆さんの脳を割って、血の滴る脳を喰らったんだ・・・知識を得る為に・・」
蓮が遠い目をして呟いた。それから、はっとしたように私を見つめると言葉を濁して視線を逸らすと表情を隠した。私は、それ以上蓮の魔法の知識の出所を聞きだすつもりはなかった。怖かったからかもしれない。そんな私の気持ちが黙っていても伝わったのか、蓮は気持ちを立て直すように深呼吸すると口を開いた。
「智也、モモは先に元の世界に心を返すつもりだ。心を還せば、異世界での猫モモの肉体は死んでしまう。覚悟をしておいてくれ。それから、心が魔法陣を通って元の世界に還ると異世界での記憶は無くなると思う。モモは元の世界に戻って、自分が直面する現実に混乱すると思うけど・・・じきお前も元の世界に還れば、混乱は収まると思う。」
「魔法陣を通ると、ここでの記憶を失ってしまうの?」
「俺の作った魔法陣を通った場合にはそうなる。俺もギルミットの魔法をすべて知っているわけじゃない。知りうる知識で組んだ元の世界に繋げる魔法陣だが、ここでの記憶が消えるって魔法が付加されちまった。でも、それでよかったのかもしれない。すべてを忘れて元の生活に戻るためには。」
私は涙を拭いながら口を開いていた。
「私は蓮を信じるわ。最強の魔法使いだものね。きっと無事に、モモの心を元の世界に還してくれると信じるわ。」
「ああ、信じろ。」
「でも、私はまだ元の世界に還りたくない。お腹の子を産んで、育てたいの。」
私の言葉に、蓮は表情を引き締め口を開いた。
「元の世界のお前の体はまだ深刻な状態じゃない。子を産んで育てる時間はあるだろう。でも・・・子供が七歳を迎えるぐらいまでが限界だと思う。元の世界の体の状態が悪くなれば、悪いが俺は強制的にでもお前の心を元の体に還すからな、智也。」
「・・・・七歳で我が子と別れないと駄目なの?」
私は、自身の膨らんだお腹をそっと摩っていた。この子が七歳になる頃に、今の女の体を手放し元の世界の男の体に還らないといけないということは頭では分かっていた。でも、頭で分かっていても気持ちがついてこなかった。ぎりぎりと胸が締め付けられて痛くて涙が溢れて止まらなかった。
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